王政復古ールセンターの金城さん

「お電話ありがとうございます。私コールセンター受付の鈴木と申します」

 淡白なオフィスに、一際目立つ美しい声が響いた。鈴木さんはつい先日、本州から沖縄支部へ転勤してきたばかりのベテランだ。

 彼女の仕事は、沖縄支部の様子を伺い、それを本部に通達することであった。というのも、最近沖縄支部があまりにも独自路線を貫いていて不安だという声が上がったからだ。

 しかし、今のところ特に問題は無いように思える。機構のせいもあってか、クーラーをガンガンにかけすぎているのと、壁一面がコンクリート色強めなこと、そして職員が皆こぞって花柄のかりゆしウェアを身につけていることさえ除けば、本州の支部と遜色ない。

 本部も杞憂だったんだなぁ、と鈴木が安心したのも束の間だった。

「えー、ヤーは誰よ?」

 怒号にも近しい低い声が響き渡る。

 鈴木は慌てた。コールセンターで聞くはずの無い声質だったからだ。彼女たちは相手の気を逆撫でしないことが何よりも重要視されている。にも関わらず、最初から喧嘩腰で電話している人物がいるのだ。

「は? ワン? ワンは金城よ!」

 鈴木は声のする方へすっ飛んで行った。これまでまともに走ったことの無い彼女も、さすがに走らざるを得なかった。この活力があれば、小学生時代の運動会でもう少しいい成績を出せたはずだと言うのに。

「ちょっと金城さん、そんな口の利き方ダメよ」

「えー、しかまさい。ヤーは黙っとれ」

「しかま、え?」

 金城に無理やり口をつぐまされた鈴木は、困惑の表情を浮かべたまま押し黙る。しかし、金城の怒号は続くばかりだ。

「ヤーさっきからヌー言っちょんど? おっかー泣いてるよ? フラーが」

 恰幅のいい女性の分厚い唇から放たれる、うちなーぐち増し増しの低音ボイス。女性が話しているのか男性が話しているのかすら分からない中性的な声色に、時折ガナリを入れてくる。そのせいで怒られているのがどちらなのか分からない。

 一応うちは、クレーム対応が仕事なのに。

「えー! しかまさい。 ヤーはミミクジラーか?」

「金城さん、落ち着いて」

「ヤーもよフラー」

「フラーってなによぉ」

「えー、もうかけてくんなよ!」

 強引に電話を切った金城が鈴木を睨む。

「ヌー」

「私牛じゃないわよォ、そんなことより、その口の効き方は良くないわ。ここはクレーム対応がメインのコールセンターよ、あなたもう少し追いついて」

「黙れ、しにやすい給料で真面目にできるか!」

「死にやすくは無いわよ、生きていけるだけの給料はあるじゃない」

「フラーが」

「フラー蛾? なによそれ」

 そうこうしている間に再び電話が鳴り響く。

 金城は慌てて電話を取ると、慣れた口調で叫んだ。

「ヌーよ!」

「ヌーは、何って意味かしらね、なんですかー? って聞いてるのよね?」

「は? ワン? ワンは金城よ。王政復古ールセンターの金城よ」

「王政復古は関係ないんじゃないかしら」

「ヤーは?」

「あなたは? って聞いたのね」

「えー、しかまさい。ヤーも名乗れっちば」

「その表情……しかまさいは、うるさいって意味かしら」

「は? ダッサ」

「ちょっとちょっと、ダメよ金城さんそんな口の利き方」

「ヤー死なすよ?」

「コールセンター職員が言っちゃダメな言葉ナンバーワンよ!」

 突然、エントランスのベルが鳴り響いた。受付嬢が大声をはりあげる。

「金城さん! 今日も百件くらいの――」

 鈴木は頭を抱えた。そんなに沢山のクレームが届いているのかと。

「――ファンレターが届いてるんですけど」

「なんで?」

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