異端の聖女と流刑地ライフ 〜禁忌の研究などしていないのだから胸を張って新天地を謳歌してやろう!〜
第15話 生産依頼「楽器が欲しいマイクが欲しいアンプが欲しい音響設備が欲しい劇場が欲しい衣装が欲しい普段着が欲しいアクセサリーが欲しい人手が欲しいメンバーが欲しい美少女ロボが欲しいマスコットが欲しい」
第15話 生産依頼「楽器が欲しいマイクが欲しいアンプが欲しい音響設備が欲しい劇場が欲しい衣装が欲しい普段着が欲しいアクセサリーが欲しい人手が欲しいメンバーが欲しい美少女ロボが欲しいマスコットが欲しい」
「という訳で作って! ペルクス先生!」
「待て、なんと言った? 流石に多過ぎるぞ」
魔界に来て三日目の朝。それもまだ暗い早朝に、シャロは僕のテントを訪ねてきた。
昨日カモミールを怖がらせた件を平身低頭謝ってきたと思ったら、その後にこれである。鮮やかとすら思える切り換えには拍手すら送りたくなった。
僕はシャロにもサルビアにも怒っていないし謝罪も求めていない。むしろ曲を中断させてしまって申し訳ないくらいだし、素晴らしいショーへの感謝と返礼もしたい。
僕は工房魔術が使え、知識も多く深い。ここの生活を拡充させるのは僕の役目だとの自負もある。シャロに限らず、頼まれたら作れるものは出来る限り受け付けるつもりだった。
だから欲しい物はないかと尋ねたのだが、要求の内容に僕は呆れるばかりだ。
「そもそもなんだ? 訳が分からない言葉が幾つもあったが」
「あー、ごめんね? それは分かった上でふざけたところはある。後悔はしていない」
何故かキリッと格好つけたような顔をする。また謎の行動。王都の流行りは分からないが、恐らくシャロ独自のなにかだろう。
だからもう気にせず、話を進めてもらう。
「では分かるように言い直してもらおうか」
「じゃあ一つ。楽器の出す音を魔法で増幅したり加工したりする、道具、装置? 魔法具? が欲しい」
「ほう?」
興味深い提案に、僕は自然と前のめりになった。この反応にシャロもニヤリと笑う。
それをシャロはアンプ? エフェクター? ミキサー? と言った。エレキならぬマジカルギターとも。
音や声を大きくして届ける魔法ならある。だがそれだけではないらしい。
シャロによると、そもそも楽器単体だけでは大して音は鳴らず、外部の道具がある事を前提としたものだとか。やはり発想が独特だ。
精霊魔法は精霊を介する以上、人間の娯楽を伝えるのは難しい。魔術師は娯楽に疎い研究者気質の人間が多い。新しい視点は世界の探求や発展にとっても有り難いものだ。
自分が考えたものではなく故郷にあったものらしいが、そうなると故郷にも興味が湧く。是非詳しく調査したい。学院の文化研究者も舌なめずりする事だろう。
が、それは泣く泣く諦める。文化や風習を研究するのは僕の専門ではないのだ。
だから僕は己の分野にとりかかる。
早速頭の中で魔法陣の基礎を思案してみた。
使えそうなアイディア、応用出来そうな既存の魔法陣、必要になるだろう素材。次から次へと思索がはかどる。心が弾み、面白い。
「不可能ではなさそうだが……今まで考えた事もなかったから、すぐには難しい」
「不可能じゃないなら待つよ。……っていうより、本当にいいの? カモちゃんの聖女の件とか色々あるんじゃない?」
「始まりの聖人もいきなり教えを説いたのではない。まずは苦しむ人々を救い、幸せにし、それから導いたのだ。皆の望みを叶える事も信仰の道に繋がるのだよ」
「あー、ああー、うん。そうだね。なるほど、うん」
「とりあえず更に詳しい話を聞きたいが……とりあえず朝食の後にしよう。頭を使うにも空腹は敵だ」
「まー、そうしようか」
と、そこで見計らったようにシャロから腹の音が鳴った。二人で笑う。育ち盛りの若者だから仕方ない。僕もそうだと言われては頷くしかないのだが。
外では空が白んでいた。爽やかな空気に身が引き締まる。
二人で一番大きなテントに向かった。まだ調べられていない巨大魚の骨を使った、この場所のシンボル。改めて見ても胸が踊る。
そこにはかまどと鍋があり、食材もそこに保管されていた。皆で集まれる食堂なのだ。
簡単な食べ物を用意しようと思っていたが、入口で立ち止まる。
中には先客、アブレイムがいた。
大きな黄色いザリガニのような生き物を貝殻の鍋で茹でている。
朝食の準備を既にしてくれてたようだ。
「おはようございます。今日も皆さんに神のご加護があらん事を」
「おはよう。そちらにも神の加護がありますように」
「おぉう、えーと神の加護を?」
「分からないまま適当に言うくらいなら、無理強いはしないぞ?」
「そう? じゃ、はよー」
戸惑ったシャロに助け舟を出したら、即座に適当な態度になった。
それが彼だと受け入れているので苦笑するだけだ。悪友めいたやり取りが、むしろ楽しい。
アブレイムも同じなのか、特に注意するでもなく流した。
「お二人も殻剥きと背わたとりを手伝ってくれますか」
「勿論。ところでこれに名前はあるか? 皆はなんと呼んでいる?」
「大ザリガニとか魔界ザリガニとか、皆さん好きに呼んでいますね」
「ふむ、まあそんなところか。名前とは生物の分類に重要なのだが……まあいい。“
工房魔術を展開し、作業を始める。
茹でられた大ザリガニに魔力を通し、殻を割って背わたをとる。更に食べやすい大きさに切っておいた。構造を把握したので、身を傷付ける事も残す事もない。綺麗に素早く進めていく。
アブレイムは素手で作業している。かなり手慣れているようで速い。というよりこの硬い殻を素手で割る力に驚嘆した。
二人で手は足りるので、シャロは殻を拾って籠に集める係となった。出汁がとれるだろうし、硬いので加工すればなにかしら小物として使えるか。畑があるから肥料にも使えそうだ。
作業中、しばらく沈黙していると、話を振られた。
「例のカモミール派の話はどうなりましたか」
「どうと言われてもな。まだ細かいところまでつめていない」
殻剥きの作業場に緊張感が生まれた。
中断してしまった昨日の話の続きか。
アブレイムは試すような目で見てきたので、僕も堂々と見返す。
「決まりは早く作った方が良いでしょう。私も協力しましょうか?」
「なに、急ぐ理由は特にないだろう。じっくり考えようと思う」
「……そうですか」
淡々とした受け答え。
しかし集中力を切らしてはいけない危機感が常に付き纏っている。
「この地は温かく食料も豊富だ。衣食住に問題はなく、トラブルもない。だから僕は、先に皆の娯楽を作ろうと思う」
「娯楽とは歌、ですか?」
「ああ。その為の楽器や衣装も作る。いけないか?」
「私も彼らの歌は素晴らしいと思います」
「そう? やっぱ直接言ってくれるのは嬉しいねー」
ニヤニヤと口元を緩めるシャロ。褒め言葉が余程嬉しいらしい。
気持ちは分かる。研究を褒められれば僕だってこうなる。作業の手が止まるのも仕方ない。
だが、続いたのは冷ややかな反論だった。
「しかしそれこそ急を要するものではないでしょう? 他に優先すべき事があるのではないですか?」
「賛美歌、聖歌隊、祭りや儀式用。宗教にも音楽は必要でしょ? だからこれもカモミール派を本格的にする為の一環なんだよ」
「……それは確かに。では反対はしないでおきましょう」
横からシャロも援護してくれて乗り切れたようだ。気が利く相棒に感謝の目配せ。
アブレイムにも認められたなら、話も簡単に進むか。
「その為にも今日は森を探索して材料となるものを確保したい」
「森は危険です。私も同行しましょう」
被せるようにアブレイムは言ってきた。
助かる提案だが、思惑はそれだけではないと感じる。
探りを入れる事にした。
「いや危険だからこそアブレイム殿にはここを守ってもらいたい。カモミールには留守番してもらうからな」
「心配いりません。この魚はここら一帯の主でしたからね。骨だけになった今でも、周囲の生き物は恐れて近付きません。安全な場所です」
あくまで穏やかに話すアブレイムだが、有無を言わせぬ雰囲気を感じる。視線に圧力がある。強い信念が伝わってくる。
カモミールではなく、僕を見定めたいらしい。
信念なら、僕だってある。
無理に断る理由はない。試すというなら、見せつけるまでだ。
覚悟を決めて応じる。
「……分かった。森に入るのは僕とシャロ、アブレイム殿、それから
「でもそれだと留守番組は女の子三人と、あのダの人になるけど?」
「それはダッタレの事か? それがどうかしたのか」
「あー、うん。そうだねなんでもないね」
納得していないような顔のシャロ。
少し考えて、改心をまだ疑っていて不安、という事なのだろうと察した。心配ないと思うのだが。
そうして話が纏まり、魔界ザリガニの作業も終わる。皿に盛られた剥き身は空きっ腹を刺激する。
そんな頃にもう一人、ベルノゥがやってきた。
「皆さんお早いお目覚めなのですね」
「はい、あなたにも今日一日神の加護がありますように」
「おはようなのです」
シャロがベルノゥの口調を真似る。馬鹿にしている感じはなく、人懐っこい笑顔には好感があった。「なのです可愛いよね。サルビアにも言ってもらいたい」とも言うし好意の表れなのだろう。
それはともかく、僕はベルノゥにも要望を募る。
「なにか要望はあるか? 森へ探索に行くから、材料は気にしなくていい。刃物でも鍋でも服でも他のなにかでも、僕が作れる物なら作るぞ?」
「そうなのですか。それならあたしはお酒が欲しいのです」
その返答に、真っ先にシャロが反応。目を丸くして問い返した。
「へー意外。実は結構な酒豪だったりするなのです?」
「故郷では皆お酒が好きだっのです。大勢で宴会するのはとっても楽しかったのですよ」
「あー、そーいう文化圏かー。もしかして出身は寒いトコ?」
「そうなのです。お酒は体を温めるのです。ここは温かいのですけど、やっぱり飲めたら嬉しいのです」
「承った。酒ならライフィローナやグタンも飲む。多めに作っておこう。代わりと言ってはなんだが、留守の間はカモミールをよく見ていてほしい」
「勿論なのです」
約束は交わされた。
カモミールも懐いているようだし腕によりをかけて感謝の品を送ろう。
酒は何度か作った経験がある。他の研究や製作と並行しても出来るはずだ。
それから料理を再開した。
ザリガニの身の一部を鍋代わりの貝殻に入れ、香草や豆類も加えて煮る。残りを串に刺し、果物を使ったソースを塗って焼く。空腹を刺激する匂いが周りに広がっていった。
テントの外にも漏れたせいか、新しい足音が聞こえてくる。
「シャロ! やっと見つけた! なんでいないのよ!」
「ペルクス、お腹すいた……」
シャロを睨みつける機嫌の悪そうなサルビア。空腹を弱々しく訴えてくるカモミール。対照的な二人に思わず笑ってしまう。
食事の準備は間もなく出来る。また昨夜のように大勢での楽しい食事になるだろう。
三日目の朝は賑やかに過ぎていく。
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