3.重ね

 雨に濡れた日から一週間後。夕方の四時に優子さんが家に来た。

「こんにちは」

「悪い。家には誰もおらへんねん」

 両親には家庭訪問のことを伝えてある。仕事の父親や塾の弟はともかく、母親はわざとどこかに出掛けていた。いつもの手段だ。

 折角、来てくれたので彼女を家に上げた。リビングに通すとソファーに座ってもらい、俺は二人分のグラスに冷えた麦茶を注ぐ。窓の外からかすかに蝉の鳴き声が聞こえる。

「ありがとう」

 優子さんは微笑んでグラスの麦茶を口にした。俺も隣に座って麦茶を飲む。目の前にはテレビがあるのに電源も入れず、互いに何も喋らない。

 彼女が保護者不在の家庭訪問を経験するのは、これで十五回目だ。その度に二人きりで過ごしていたのに、俺は初めて焦っている。

「緊張してるん?」

 彼女が訊ねてきた。力の籠っていない柔らかな表情だが笑顔ではない。

「先生もちゃうん? 何で喋らへんの?」

 束の間、黙り込んでから、

「疲れてるから」

 やっと微笑んでくれた。

 あろうことか、彼女の表情を見た瞬間、俺は欲情に駆られてしまった。

 押し倒す代わりに、そっと唇にキスをする。

 ぶたれると思ったのは唇に触れた瞬間だった。

 でも、そうはならなかった。

 彼女は両手で俺の頬に触れると吸い付くようなキスを返す。

 その表情は同情してしまうほど苦悶に満ちていて、涙で濡れていた。

「ごめんなさい」

 優子さんの言葉を無視して、ソファーに押し倒すと彼女のワイシャツを強引に開けた。薔薇のレースがあしらわれた深紅のブラジャーだった。彼女の首筋にキスをすると、彼女も抱き付いて俺の耳に舌を入れてきた。

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