第6話 僕の血液がわかる日に。

 はしごをガレージの天井に掛け、降りると車が待機している。幾人かの群がる連中を撃ち倒し素早く車の中へ


 「お医者さん、場所わかるよね?

この車カーナビ付いてないからわかんない」

助手席には荷物が同乗し、医師は白衣で後部座席に座っている。猟銃に関しては持ちながらの乗車をするらしい


「真っ直ぐだ、先の白い建物。」


「道なりにあんのね、普通に行けるじゃん」

諦めモードで俯いていたので遠くにあるかと思ったが、少し走った先にある。ここからでも少し見えるくらいだ


「でも徒歩だと割と遠いのかな?

...これ以上歩くのも実際イヤだしなぁ」


「安心しろ、命は護ってやる。

お前は世界の足に..おっさんは手となり救うんだ、俺自信は武器となろう」


「…頼めるか?」


「勿論だ、元々自衛隊だしな。」


「はぁ..なんなんだよ」

少数でも団結が残る、静かに車に乗っていればいいのに。休み時間になる度に友達を誘ってトイレに行っていたタイプだろう。


「連れション嫌いだったな、めんどくさくて。一人で行けよって毎回思ってたな」

無理矢理の団結はかえって仲を悪くさせる、トイレに行くだけで嫌われるのだ。


「病院に着いたら研究室に向かう、資料は頭の中と手元のメモ帳にある。それを元にワクチンを作り、採取した血液サンプルを混ぜる」

アレルギー反応などが現れないか

それらを照合し生成を目指していく。


「そんな簡単にいくのか?

薬を作るのなんて随分とかかるんじゃ..」


「試作が既においてある。

前に似た症状の患者がいてな、今考えればあれは元凶の一つだったのかもしれない」

運ばれてきた患者が苦しそうに暴れ回り、看護師に噛み付こうとした。周囲が必死に拘束するなりで落ち着かせようとしたが患者はその後亡くなった。


「なんで死んだんだ?」


「舌を噛み切った、勢い余っての事故だ。

それ程に理性を失い荒れ狂っていた」

患者の血液を採取し、検査に掛けたところ見た事の無い病原菌が見つかった。


「身体が亡くなっても、菌は生きていた。

様々な薬を投与してみたが消滅しなくてね」

それから独自に薬を生成し始めた。

しかし開発途中でパンデミックが爆発した。


「その血だけでいいだろ、なんで俺たちの血まで必要なんだ?」


「ワクチンとして使用するなら、健康な血液での実験も必要になる。それにもしかしたら既に奴らに侵されている可能性もあるだろう」


「結局は疑ってるのか、俺たちを。」


「済まないな、研究は何かを疑う事から始まる。その対象が人であることもあるんだ」

研究者のサガ、理解するのは少しむずかしい


「…で、結果はいつわかんの?」


「どうだろうな、明確な時間は私にも..。」


「そんなにムズイものかね、まぁ確かにそれなりに掛かる印象あるけどさ。」

話を余り聞いていなかった、検査の結果は気になるが診察は苦手でいつもなんとなく聞いているフリをしている。長く夥しい待ち時間が無いだけずっとマシではあるが。


「会計したいだけなのに待たされるよなあれ、だから病院行きたくなくなるんだよな」


「あの建物か?」


「そうだ、ここだ。」

思ったより近いところにあった、見たところではもう少し遠いイメージをしていたが。


「‥駐車場ないな、どこに停めればいい?」

病院の近くには大体専用の駐車場が備え付けられている筈だ、目印の看板を探す。


「そんなの入り口の前でいいだろ」


「急ごう、研究室は三階だ。」


「入り口の前停めんの?

...ルール守らないタイプだなあの人。」

既に車の中にはいない、運転手を残して病院の中へいってしまった。同乗者は気にも留めないだろうが、皆が降りた後運転手側は車の駐車に悪戦苦闘を強いられている。


「簡単に言うよな本当に、どれだけ駐車場所探すの大変か知らないんだよなアイツら」

離れすぎても戸惑う、かといって近過ぎる場所はマナーに反すると適度な塩梅を要される


「……あ、あそこかな。」

〝病院駐車場〟とおそらく書いてある看板を見つけた。禿げて錆びれた文字なので明確では無いが距離も丁度いい、大丈夫だろう。


「一応新品だからな、擦らんといいけど..」

振り向きよくバックを確認しながら車庫入れを行う、新車での車庫入れは少し焦る。


「大丈...夫そうだね、よかった。さて、行こうか。直ぐ結果わかれば楽なんだけどなー。」

通うには家から遠過ぎる

かかりつけの場所ならばコンビニとさして変わらない距離にあるのだが、正直検査をしようという発想が無かったので仕方ない。


「また裏口なのかな..あでも入れそうだね、ショッピングモール程人入ってこないのかな」

普通に自動ドアが開き、中へ入れた。ロビーには思った程の人は無く、混んでいるという程の煩わしさは感じない。


「研究室は三階だったっけか。

..結果見にいくだけで三階行くの?」

診察室よりも奥に踏み込むと物凄く不安になるのは何故だろうか、白衣がそうさせるのか。診察室ですら血圧は家より高い


「その前に、トイレないかな..?」

行きの車の中で既に我慢していた。間に合ったのは奇跡である、そのくらい限界が近い。


「どこだ....あった、よかった〜。」

上へ上がる前で安堵した

ロビーの段階ならば直ぐに見つかる。


「ふ〜っ..。」

漸くの一息も束の間、少しの緩みが更なる面倒事を発生させることになる。


「…なんか騒がしいな」

ロビーへ戻り上へと続く階段を登っていると、何かが弾ける激しい音が聞こえた。


「三階からだな..」

二階を通り過ぎ、三階へ差し掛かる辺りでその音は響いている。


『ダン! ダン....』「あれ、止んだ?」

音が突然鳴り止んだ、それと同じタイミングで丁度三階へ辿り着いた。


「どの辺からかな?」

よそよそしく見渡しながら歩いていると、分かりやすく光る文字が目に入る。


「薬物研究室....ここだな」

あまりにも分かりやすい、目的地と断言できる確実な部屋だ。


「もう居るのか」

扉が軽く空いている、先に行った二人が既に作業を進めているのだろう。


「入るよ....って何してんの?」

大きな機械にもたれ掛かり、二人が項垂れ大量の血を流している。傍には幾人かの人間、恐らく一度死んだ事のある連中だろう。


「‥うん、死んでるな。博士は?」

猟銃の男は既に息絶えていた、横で倒れてい男は首が大きく曲げられている。


「うぅ....タケシくんか..」


「あ、博士大丈夫?」

震える腕に何かを握っている、プラスチックの四角いカードのようなものだ。


「...機械を動かす鍵だ..君に託す、一週間後にまたここへきて....回収しに来てくれ..。」

目の前の機械には幾つもの名前の書かれた容器に入った幾つかの血液とその中心に透明の液体が含まれた容器が並んでいる。


「頼んだぞ....」


「……結局一週間待たせんのかよ。」

またここへ通う事が今明確に約束された


博士の尽力により検査は終えた。

またここへ来るのは面倒だが、今はもうすることはない。あとは家に帰るだけだ。


「さて、扉の修理しに行くか!」

やる事はまだあるが、肩の荷は大分降りた。



     その頃ポピンズ邸では...


「……なんなんだこれは?」


「わかりません..。」


玄関に刺さる乗用車、中の乗人は酷い傷を負っている。


「ウチの家をぶっ壊す気か?」

討ち入りにしては遣り方が荒々し過ぎる。

こちらの扉にも修理が必要だ。

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