第4話 顧みずバイオレンス

 四階建てのショッピングモール、一階はスーパーで二階がホームセンター。三階は衣服を扱うエリアだが、生憎シャツは余る程ある


 「足元気を付けろ、下あんまり見るなよ?」

屋上から近くの建物までを橋を駆けるようにはしごで繋ぐ。表面に木の板を貼り固定しておけば足場は随分と安定する。


「オレが先に進んでロープを投げる、そしたらそれを掴んで橋を渡れ。」

体格の良い男を後で引き上げるのは少し無理がある、初めにはしごが壊れなければいいが


「端を押さえててくれ。

待ってろ、直ぐに向こうに渡ってやる」

看護師の女性が端を支え、男が脚をかける。道は細いが強度は充分に安定して道を進む事が出来た。


「……よっと、成功だ。縄を投げるぞ?」

渡った先の屋上から、ロープを投げてアシストへ回る。身体の軽い看護師ならば直ぐに問題なく渡る事が出来そうだ。


「……はっ、こわかった..!!」

渡り終えたハシゴは外して回収する。

こうして建物に立てかけ繰り返し行う事で屋上を渡り歩いていき目的地を目指していく。


「あの人、大丈夫ですかね..?」


「アイツが大丈夫って言ったんだ。

遅れるようなら現地で待っていればいい」

進み方を教えて別行動を選択した、彼は今街を単独で歩いて移動している。


「先へ進みましょう..!」 「ああ。」

道は違えど目的地は同じ、だとすれば辿る結末も同じだと願いたい。


「銀行が見えたら直ぐなんだよな..?」

大雑把に描かれた手書きの地図を片手に街並みを確認しながら歩んでいく。ショッピングモールから先は余り出た事が無かったので慣れない足つきでしっかりと迷っている。


「ヤッバイな..出不精が完全に災いしてる、上から行った方がラクだったかな?」

荷物がかさばると一人下へ降りたがかなり面倒な選択をしてしまった。しかし流石にシーツと工具を持って天井は歩けない。


「リュックとか買って中入れとけばよかったんだけどなぁ..まさか車を持ってかれてるとは思わないだろ、下行ったらホントに無いし」

突然言うなという話だ。

買い物を終えた後に急に伝えられても選ぶ時間はまるで無い、機能やデザインに至るまでこだわりたいタイプにとって迅速な行動など愚の骨頂。不可能の極みである


「今回ばかりは〝まぁいいや〟とはいかん。でも不思議なんだよなぁ、車にはそれ程こだわりがない。なんでだろうね?」

日用品には量や利点を求めがちだが車は多少の燃費の有無はあるものの〝乗れればいい〟という感覚がある。


「見た目も正直みんな同じに見えるし、工具とか家電の方が吟味してるわ」

車に求めている要素が移動手段という単純明確なものだからか、機能でいえば家電の方が奥行きがある。


「人によるって話なのかね、便利だよなその言葉。何でも許されそうだもんな」


〝行けたら行く〟レベルで協力なワードだ


「でもあるよな、そういう独自のこだわりってさ。何なんだろうなアレ、車の件もそうだし他になんかあるかなぁ..?」

顎に手を当て考えてみた、矛盾に近いおかしなこだわりを。


「‥あ、これちょっと違うかな..どうだろ?」

思いついたのち吟味する

既に独自のこだわりが出てしまっている。


「潔癖症じゃないんだけど....人の手料理が食べられない、別に変じゃないか。」

ルールは共感されにくいという事、多数の共感が得られてしまった場合こだわりではなくよくある出来事になってしまう。


「外気に触れた服とかも放置できるし菌がどうとか別に考えないんだけど手料理がダメなんだよなー、母親のならイケるんだけど」

心理的な要因だろうか?

疑問を感じるがそれを晴らして平気なった後の世界線を想像するとそれも恐怖だ。


「…あ、銀行だ。

ひとりごと言ってたら見つかったわ」

地図の目印、ここに辿り着けばすぐらしい。


「少し金下ろしていくか、結局はスーパー寄ってないようなもんだしな。」

カップ麺一つしか買う暇が無かった、帰りにコンビニなりでより充実させておこう。


「あの人たち何処までいったかな?

足踏み外して落ちてなきゃいいけど。」

早めに着きすぎても面倒だ、貰えるといえど人の車を勝手に持ち出す訳にもいかない


「もうちょっとゆっくりした方がいいか。

..嫌だな人に合わせるの、だから集団選ばなかったのに。結局気は使うんだな」

人と食事に行って相手より先に飯を完食したとき、その後何をすればいいかわからない。


「完食までのストロークむずいよな、静かに咀嚼の顔見てなきゃいけなくなるし」

早めに車を貰って帰りたいものだ。

下ろした金をそっと財布にしまい銀行を出た



「よし、ロープ投げるぞ!」

幾つめの建物だろうか、何度もはしごを立てかけては下ろしてきた。屋上という事もあり安全性は高い方ではあるとおもうが、はしごの下から床を眺めれば無数の死体が彷徨っている。必ずしもの安全保証ではなさそうだ


「引っ張るぞ、足元に気を付けろ」

アシストを受け橋を渡っていく。この際危険なのはやはり足元と、そしてガラ空きの背後


「……危ない!」 「え?」

縄を掴み渡る背後を彷徨い狙う人の影。

危惧していたが、やはり屋上へ辿り着いた猛者がいた。直ぐに渡りはしごを下ろさなければ、襲われる上にいらぬ補助をしてしまう。


「早く渡れ、急ぐんだよっ!」


「あ..いや...来ないでっ!」

背後を振り向き怯える事で、脚の動きがおそろかになっていく。注意を仰ぐと恐怖をそそり、より動かなくなってしまう。


「くっそ....縄離すなよっ!!」

看護師の握る縄を力一杯引っ張り上げ無理矢理に前へ誘導する。力技の荒療治ではあるが体格差もあり効力を発揮し、どうにか橋を渡りきらせる事が出来た。


「怖かったぁっ..‼︎」


「‥まだだ。」 「え...きゃあっ!」

後を追ってきた不死者がはしごの上を蠢いている、このまま橋を渡らせる訳にはいかない


「下がってろ、これでもくらえ!」

馬の尻を叩くように縄を振り上げ打ち当てる。

何度かあてると足元から体勢を崩してコンクリの床へと落下していった。


「見たかバケモンが!

...やばいな、下が湧いてきた。」

落下した衝撃に反応し、蔓延る連中が声を上げ騒ぎ立てる。


「直ぐにはしごを上げましょう。」

地面へ掛けているわけではないが、危害を加えられる可能性もある。行動はより早くだ


「危なかったな、怪我は無いか?」


「はい..大丈夫です。ごめんなさい、私看護師なのに助けて貰っちゃって...」


「生きている事を喜べ、オレは裏切らねぇ。自分がされてイヤだったからな」

肩を掌で支え、笑顔でそう言った。


「有難う御座います..!!」


「気にするな、それより見えてきたぞ。

次の建物がオレの家だ、横が車の倉庫だな」

はしごを掛けて移り飛び漸く着いた。

ここが最後の綱渡りだ、慎重に進みたい


「彼も辿り着いてますかね..!?」


「だといいな、行くぞ。」 「はいっ!」

屋上からの帰宅は初めてだ、是非ともこれで最後にしたい。


「よし..はしごを上げるぞ、これはここに置いておこう。移動手段として一応な」

屋上に確保しておけばいざというときの助力になるだろう。己の家といえど油断大敵だ


「中へはどうやって?」


「下へ降りる階段がある、そこを使おう。」

流石に自宅だ、勝手はわかる。

それよりも感心するのは彼の度胸と根性だ、脚をけがしている筈なのに痛がる素振りを殆ど見せなかった。元々浅い傷だったのか?


「荒らされていなければいいけどな..」


「……。」

よく見れば脚を引きずっている、やはり無理をしていたのだろう。看護師が怪我人に護られる、そんな事があっていいのだろうか。


「私が先導します!

その、階段は少し痛むでしょうから..。」


「…そうか?

悪いな、なら腕借りるぜ姉ちゃん。」

これが本来の姿だ、違和感は無い

肩を貸し階段を降りれば適切な治療も出来るかしれない、やっと恩を存分に返せる。


「休める場所に向かいましょう。

部屋は何処ですか?」


「階段を降りてずっと右へ進めばオレの部屋だ。誰かに喰い散らかされてなければな。」


「大丈夫ですよ、きっと綺麗なまま...」

階段の先に大きな塊が栓をしている。重たい荷物を積み上げた、バリケードのような物だ


「封鎖されてる、これでは通れません..!」

辿り着いたはいいが中へ入れない。

自宅においてこんな事は、想定をしなかった


「どうしましょう...。」


「…屋上からハシゴ、持ってきてくれるか」


「ハシゴ..ですか?」


「ああそうだ、持ってきてくれ。」

男を階段へ置き去りにし、屋上へ寝そべったハシゴを取りに行く。


「重たっ..」

これ程の重量の物をここまで持ち運んでくれていたのか、感謝がより強く募った。


「よい、しょ..取ってきましたっ!」


「少し力を貸してくれ、続け様で悪いな。

オレが合図をしたら思い切り前に押すんだ」

二人ではしごを肩へ担ぎ標準を定める。

バリケードが硬いなら、重い棒で突けばいい


「いくぞ突け!」 「はい!」


「突け!」 「はい!」


「…突けぇー!!」「はいっ!!」

力を加え、詰まれた荷物を突き落としていく。階段の凹凸が危険を煽るが配慮をしつつバリケードを崩し道を作る。


「うし、これでどうだ?」「道が開けた!」

多少の名残はあるものの跨げば何という事のない段差だ、怪我人でも容易に潜れる。


「潜入成功だ。まぁオレの家なんだけどな、これでやっとゆっくり休めるってもん...」


「危ない!!」 「え?」

帰宅して隙を見せた途端、後頭部を何者かに強打され気を失ってしまう。


「嘘でしょ...誰よアナタっ!?」

どうやら既に〝荒らされた後〟らしい。



 「……てか入り口どこ?」

外では青年が未だ目的地を探していた。

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