第3話 意図せずレジスタンス

 映画ではよくショッピングモールに立て篭もるのを見たことがある。食料もあれば武器になりそうな便利品が揃っているからだ。


 「名前は?」


 「……たけし。」

二階は既に基地と化していた。

工具は適度な武器になる、戦う者にとっては。


「何処から来た?」「……コンビニ辺り」

蔑ろにしたこの質問に返答する日が訪れるとは、何が起こるかわからないものだ。


「ずっと生き残ってたのか!?」


「私たちの他にも生存者がいたなんて..」

正直こちらから見ても珍しいと公開だ、話せる人間がこんなにも存在するとは


「離してもらえる?」 「ダメだ」「何で?」

迷彩柄のジャケットに機関銃、軍人か自衛隊の隊員であろうか。物騒な人がいるものだ。


「銃を押し当てられてずっと羽交い締め?

そんなに警戒するタイプじゃないでしょ。」

パーカーを着たくたばれ青年

最も疑念を持たないスタイルの人間である。


「傷は?」「無いよ別に、車で来たし」


「車で!? 冗談だろ!!」

二階には軍人風の男の他に金髪の男、金持ちそうな丸いおじさん、優しそうな女性


「ワン!」と犬。


「向こうで生き残っていたのか、他に生存者はいないのか?」


「うーん、どうだろ..たまに見かけるけど殆ど助からないかなぁ。」

気付いたら噛まれ姿を変えている、そして何処かへ消えていく。


「なら君一人だけか」


「うん、多分。」


「向こうで生き残ってんなら、なんでわざわざこっちまできたんだ!! 車まで使って!」

おかしな事を聞くものだ。

ショッピングモールに車で訪れたのならば、する事など決まっている。


「買い物。」 「‥なんだと⁉︎」


「外はどんな様子でした?」


「どんな様子...いつもと同じだったけど。

あ、でもちょっと人多かったかもな」

目立つところに集まるものだ、深夜の自販機にもよく虫がたかっている。丁度飲みたいジュースのボタン辺りに羽虫が止まっていると凄く嫌な気分になる。


「やっぱりウジャウジャいるのか..」


「スーパーの商品って鮮度大丈夫?」

賞味期限は平気そうだが、菌が心配だ。


「バリケードを壊したのか」


「裏口から入った、壊す訳ないでしょ。」

久々に来るホームセンターは広大でお求めの商品を探すのにも一苦労だ。


「シーツって何処にある?」


「向こうです」

穏やかな女性が指を指す方向へ進む。


「ありがとう」

少し暗い、被害対策だろうか。安易に電灯を付けると刺激の要因となるのだろう


「‥あいつ本当にただ買い物しに来たのか?」


「京子、後を追え」


「え..私が?」 「監視をしてほしい。」

戦力となる軍人が単独について行っては困惑が生まれる、適切な選択をしたつもりだ。


「待ってください!」「‥え、なに?」

余り知らない人間が後をついて来る。人見知りという程でないが、正直少し気まずい


「これ、暗くなったら見えないから。」

差し出したのは懐中電灯、長居をしろというシグナルだろうか。


「暗くなる前に帰りたいんだけど..。

まぁいいや、ありがとう」


「シーツ見つかりました?」


「……いや、まだだけど」


「こっちです」 


「あぁ..。」

(このままついて来るんだこの人)

純粋に〝邪魔だな〟と思ってしまった


「あいつ、裏口から出たって言ってたよな。

外に車があるらしい、使って遠くへ逃げるのはどうだ?」


「バカ言えよおっさん

外にはウジャウジャ連中がたむろしてるんだぜ、取って喰われて即死だっての。」


「だがまぁ..いつまでもここにいても助けは来んだろう。選択肢としては悪くない」


「アンタまでそんな事いうのかよ!?」

軍人の男は考えていた、上からの命令を受け長らく潜伏していた街にパンデミックが起き、命からがら辿り着いたのがこの場所だったが他の隊員はどうしているのか。


「基地としてここを選んでからはお前らのような生存者を何名か救助した。しかし仲間の隊員の姿は一切目にしていない」


「外を虫の息で彷徨ってんじゃないのか?」


「化け物の顔を屋上から一人一人スコープで確認した事があるが、それらしき人物は一人もいなかった。」


「確認したのかよっ!」 「用意周到だな」

青年の近くにも生存者はいなかったと言っていた、だとすれば他の可能性は。


「何処かで死滅したか、俺をここへ置いて全員が本部へこぞって帰還したかだな。」

彼はもう既に、腹を決めているのだろう

冷たい瞳は既に行動を起こそうとしている。


「これ..かな、中々安いなここ。」

思っていたより品が揃っていた、流石ショッピングモールだ。


「あとは工具だなー、電動の奴はやっぱり結構すんのかな。少し奮発も考えるか」

その為に待ち合わせも何割か増してきた。

不足する事は無いと思うが少し不安でもある


「…お金、払うんですか?」


「当たり前でしょ、取ったら泥棒じゃん。」


「そう、だけど..」

法律と呼ぶ程の難易度では無い常識の筈だが一本外へ出ると変わった事もあるものだ。


「ていうかいいの?

アッチの人たちと居なくて」


「…あなた一人では心配です。

一緒にいさせてください、邪魔しませんから」


「うん、別にいいけど。

もしかして一人じゃ買い物できないタイプ?」

友達を誘わないと恥ずかしいのだろう。

生憎こちらは一人で水族館へ行けるクチだ


「うわぁぁっ!!」 「なにっ!?」

下の方から悲鳴が聞こえる。声から察するに金持ちそうなおじさんだろう、何かあったのだろうか。工具を選びながら聞き流した


「ちょっと、行かないと!」


「ゴキブリかな?

暫く掃除してなさそうだもんねここ、退治するなら泡状のスプレー使ったほうがいいよ」

 ゴキブリの周囲を円状に泡で壁を作れば逃げ場がなくなるので、あとは上から泡をかけててそのまま新聞紙で掬えばいい。


「やっぱ電動の方がいいよなー、トンカチ的な奴は家にあるからハイテクなのを..」


「わたしやっぱり見てきますっ!!」

元来た道を走り去っていく

穏やかな優しさゆえの衝動だろうか。


「‥ちゃんとスプレー持ったのかな」

一応泡仕様の物を手に取り工具と共に購入する、やはり電動のものにした。


「4500円ってどうなんだろうな、相場がわからんからなんともいえん。」

電動で5000いかないのは結構お得なのか?

家庭用と考えるとどうなのだろう。


「まぁいいか、ウチ帰ろ。

...あ、そうだスーパー寄らないとな」

晩飯の事をすっかり忘れていた。

今のところ魚の煮付けを考えているが、鮮度の心配がやはりある。


「一度火を通せばいけるだろ、大概の菌が吹っ飛んでくれるだろうし。」

エスカレーターを降りつつ不安を押し殺して〝なんとかいける〟と言い聞かせる。


「人間の身体って丈夫だしな、腹もそれほど弱い訳じゃ別に..」


「助けてっ!」 


「あ、ゴキブリどうなった?」

半狂乱になり強く抱き着いてくる。

余程虫が苦手なのだろう、酷く怯えた様子だ


「ああぁぁ..痛い、助けてくれぇっ...!!」

成金オヤジが脚から血を流して倒れている。

さっきの悲鳴も、それの要因だろう


「嫌っ!」


「…怪我してんじゃん、包帯とかある?」


「え、いや..あるけど。」


「あるんだ」 「元々、看護師だから..。」

常に一巻き程度持ち歩いている

消毒液は、店内を探せばいくらでもある。


「悪いなお姉ちゃん、手間かけさせた」


「噛まれてないなら早くそう言って下さい!」


「ハナシ聞いてくれなかったろ!?」

訳を聞けば転んで切った傷らしい、不注意による事故であると必死に誤解を説いていた。


「他の人たちは外へ..?」


「ああそうだよ、人の事囮に使いやがって。

必死こいて逃げてきたよ、車奪われたけどな」


「……は?」


「アンタの車だよ。

アイツらが乗って行っちまったぞ」


「酷い..私たちを置いて逃げたの⁉︎」


「ふざけんなよ..!」

人の車を勝手に、これでは帰りの脚が無い。


「車がない...。」


「私たちこれからどうすれば..」

これ以上荷物を増やせない、徒歩での重量は限界がある。カップ麺で済ませるしかないか


「焼きそばなら腹に溜まるかな。」

湯切りの手間はあるが満腹感は充分だ、やむを得ずそれを一つだけ手に取りレジへ向かう。



「……はぁ...」


「..車ならある。」 「どこにだよ?」

男が包帯の巻かれた脚を押さえながら言う。


「ここから少し進んだ先にある自宅の倉庫だ。元々そこに帰る予定だったんだよ」


「それアンタの車だろ」


「ひとつくらいくれてやる!

命救われたんだからそんくらいはするぞ。」


「…差し支えないんだな?」「おう!」

そろそろ買い替えどきだと思ってはいたが、流石に車を工具のように吟味は出来ない。


「だったらそれ新車にさせてくれ」

交渉成立、早速行動に出る。

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