第7話 因縁の相手
扉を開けた先には、黒色のスーツを着ていて、髪は何もかもを吸い込むブラックホールのような色、何もかも見透かしているような目を持ち、威厳がある態度の男性が1人仏壇の前で立っていた。
「来たか、無能ども」
俺はその男から放たれた第一声の言葉を聞いた瞬間、自分が殴りに行こうとした。その時、創志さんが俺の肩を力強く掴んだ。肩を掴まれた俺は創志さんの方を見る。そこには今までに見たことが無いほど怒っている創志さんがそこにいた。それを見た俺は少し冷静になって、殴るのを止めた。そして創志さんは怒った顔のまま、優しい声で男に話しかけた。
「お久しぶりです、倉宮さん」
「エセ研究者か、」
「今日は奥さんに線香をあげに来ました」
「そうか、ならそれが終わったらすぐに帰れ、お前らは邪魔だ」
そう、この淡々と冷静に冷酷に話す感情がなさそうな男、これが俺たちの父親、
こいつの
父さんはこれを使いこなし、東京都異能力育成高等学校で、優秀な成績を収めた。これにより、父さんは過度な
俺が線香をあげ終わり帰ろうとしていると、
「そういえば、
雪さんそれは俺の母親、
創志さんが父さんに向かってそう言った。
「まだ分かっていない、だがお前には関係ないだろう?」
「いえいえ、関係ありますよ、貴方たちの子供を預かっていたのは私ですし」
創志さんは嫌味のように言った。
「そうだな、だが教えるには条件がある。廻斗、お前一人で私について来い」
「は?」
俺は話の流れが読めず、急に言われたので思わず声に出してしまった。
「なんで俺なんだよ」
「エセ研究者は関係者だが親族ではない。こういう話は最優先に親族にするものだろ」
俺はこいつの考えが分からない、昔から何を考えて、何をどう思っているか全く分からない。だがこれだけは分かる。こいつは俺を家族と思ったことなんて一度もないと。俺は不安になった。だが、俺もここに帰ってきた目的は母親の死因が気になったからだ。なら、行くしかない。
「分かった」
「それなら、例の場所でいいか?」
例の場所。これは父さんと俺にしか分からない秘密の場所。だがその場所にはいい思い出はひとつも無く、あるのは精神的な痛み、悲しみと言った苦しい思い出だけだ。
「あぁ、いいよ」
そう強く言った父さんは何も言わず無言で先に向かった。
「そういう事なんで、行ってきます」
そう、創志さんと恋奈に言うと
「頑張ってね」
「お兄ちゃん、気を付けてね」
そんな暖かい言葉が返ってきた。俺はその言葉を胸に抱き、例の場所に向かった。
例の場所、それは家を出てすぐ近くにある海岸沿いにある少し古い小さなログハウスの事だ。このログハウスは家の裏にあり、しかも小さな山が間にあるので家から見るとログハウスは見えないようになっている。なので家族でもこのログハウスを知っているのは父さんと俺だけだ。
俺は覚悟を決めて扉を開けた。
「来たか、遅かったな廻斗」
「父さん、ここに来たという事はどういうことか教えてくれるんだろうな?」
「まだまだ時間はある、ゆっくり話すか。
まぁ、椅子に座れ」
そう言われ俺は椅子に座る。この場所では家族ということを忘れ、まずは1人の人間として扱う場所として、お互いに決めている。この提案は、最初父さんから持ちかけてきた。理由を聞くと、たまにはお互いに息抜きが必要なんだとか。だがそれは俺の息抜きではない。俺は父さんの愚痴を聞かされたり、聞かれたりするだけだった。父さんは自分でお互いの息抜きお言っているのに。わけがわからない。
「なら、話すか」
父さんはゆっくりと話した。
「俺と母さんはお風呂から上がり、寝るまでの暇な時間、ずっとリビングでつまらない雑談をしていたんだ。その時はリビングに誰もいなかった。そうやって時間が経ち寝ようと思って立ったその時、なんの前触れもなく急に母さんがもがき苦しみ始めて、目の前で倒れたんだ。それから俺は慌てて電話して医者を呼んだ。そして亡くなられてると伝えられたんだ...」
多分、この話には嘘は無いんだと思う。何故なら、ここでもし嘘をついていたとしても、刑事さんの嘘が分かる
でも俺がそう思ったのはまた別の理由だった。別にこの父親を信用した訳では無い。そしてこれからも絶対に信用しないだろう。だが、この男、俺の父さんの、ここで話してきた事を、誰にも一度も言わず内緒にし、家には持っていかないという約束を、長い時間守ってきた人間性は信用している。だから俺はこの話は事実だと思った。
「そうか...」
「「・・・・・・」」
沈黙が2分ほど続いた。
俺は黙って母親の死因を推理していた。そうすると、父さんが口をあけた。
「俺は....何故母さんが死んだのかずっと考えてきた。たったの一日かもしれない、少ない時間なのかもしれない、でも俺は一番頭を使って考えたんだ」
父さんはいつもとは比べ物いならない、いや、比べられないほど熱く語っていた。
「そして俺は、一つの考えを導き出した......」
もしかして分かったのか?本当に?
嫌いだけど流石だな!そう思った。でも急に何かが引っかかった。
あれ?何故だ、何故犯人が分かったのなら警察署に行かない。犯人が捕まっていないのか?いや、それでもおかしい。何故なら父さんは一つの考えを導き出したと言った。つまり、自分の考えということ。そして犯人は捕まってない。しかも警察に言っていない。いやまさか、言えなかった?ということは、まさか!
「それはこういう事だ」
そう言った父さんの顔は口が裂けるほど笑っていた。その瞬間、俺の横にあった椅子が父さんと入れ替わり、父さんは俺の首を掴み上げた。
「ど...どういう事だ」
「分からないのか、さすが無能。俺はお前を殺そうとしているんだよ」
俺はすぐさま父さんの身体を蹴り、手が緩んだ瞬間、すぐに周りに物が少ない場所、ベランダに移動した。
「ゴホッ...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...」
さっきは本当にやばかった。あの話をなんも考えずに聞いていたら、多分今頃俺は死んでいただろう。本当に警戒してて良かった。そしてやっぱりだいたい予想通りだった。
でもやはり何かが引っかかる。父さんの考えは分かった。俺を殺す理由も大体分かる。でもそれなら何故俺を殺す?何故犯人を捕まえようとしない?怒りの矛先を俺に向けているだけなのか?
そして一番の違和感が父さんの情緒、感情だ。俺が知らないだけで実はとても感情的な人なのかもしれない。でも少なくとも俺の知っている父さんはあんなに熱くはならない。
父さんはゆっくりとこちらに歩いてくる。
「痛いじゃないか、大人しく死んどけばいいものを」
父さんが俺を殺す理由はわかったつもりだ。だが念の為聞いておくか。
「父さん、何故俺を殺す?」
父さんはケラケラと笑いながら答えた。
「そんなもの邪魔だからに決まってるだろう」
「なら殺した後はどうするだ?」
「いいだろう、特別に教えてやろう。お前は俺がお前を殺したら捕まる。そう思っているだろう?この時代、嘘なんてすぐにバレるからな。でも、俺が持っている、人脈、財力、
やっぱり父さんはおかしい。父さんはとてもリスクを嫌う人だ。そんな人が俺のためにリスクを背負うとは到底思わない。
「お前は、まだ
父さんはやはり俺の
ん?なんで俺は殺せるじゃなく、止めれると思ったんだ?
そうか、そうだったんだな。
俺は生まれて初めて自分の本当の気持ちに気づいてしまった。
俺は親が嫌いだ。でも、やっぱり数少ない家族だ。どんなに酷いことをされていても家族というのは変わらない。だから俺は家族を失いたく無かったんだな。ここに来たのだって本当は母さんに別れを告げるためだったのかもしれないな。
なら、やる事は一つ。俺の
父さんは俺に殴りかかってきた。俺は自分は死なない、死なないと自分の心に言い聞かせ、俺も殴りかかった。だが、俺の拳は空振りで終わり、その時既に父さんは俺の後ろにいた。父さんは容赦なく俺の首を掴み、さっきより力強く掴んだ。
やばい!痛いし苦しい。このままだと首が潰されて死んでしまう。どうしよう。でも俺の
死ぬか。
そう思い俺は全身の力を抜いた。俺は死んでも死なない。なら何回でも諦めてくれるまで挑み続けるだけだ。そう思い、意識を手放そうとした瞬間、俺が一回死んで生き返った時に見た、恋奈の泣きじゃくる顔が脳裏でよぎった。
やっぱりダメだ。死んだらダメだ!
俺は再び体に力を入れ、父さんの腕を掴んだ。
「や...やめ..ろ」
「まだ生きるか、お前が生きても何も意味が無いだろう?」
「それでも、俺が死んだら....悲しむ人がいるんだよ!」
俺は腕を掴んだ手に力を入れる。
その時、自分の体に慣れない感覚が襲った。
その感覚は初めて
すると手腕を掴んでいた手元が冷気が発生し急激に冷たくなった。その冷たさは、父さんの体を襲った。
「これはまさか、母さんの!」
それだけを言い残し、父さんは氷像のように凍った。
「どういう事だ、これは?」
俺は自分自身の手を見る。
なんで、母さんの
疑問に思い地面に手を付け、もう一度さっきのようにしてみた。するとさっきと同じように地面が凍っていく。
やっぱりなんでだ?俺は
気のせいか。
俺はゆっくりと凍った父さんに近づく。
「これでお別れだな・・・・・・さようなら」
俺はそう言い残し家に帰った。
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