第7話 アルバートと皇太子殿下

 山賊騒ぎで入学試験に間に合わない事が発覚した。


 俺は頭が真っ白になったが、すぐに切り替える事にした。


 間に合わないのなら仕方ない。

 過ぎた事だし、俺達がいなければ村は全滅していたかもしれない。

 そう考えると、まぁ良かったんじゃないか。と思えてくる。


 その後は何とトラブルも無く、学園に着いた。



「お待ちしておりました、ガリウス伯爵家のアルバート君ですね。遅れた理由も理解しました、既に授業は始まっているので、皆さん教室に居ます。

 到着して早々ですが、教室に行きましょう」


 学園に着き、受付を済ませた俺は教員の1人に案内されて教室に向かう。


 俺が準備をしていた入学試験は、子女の現在の能力を見る為のものであって、試験結果によって入学が出来ないというわけではない。

 だが、その成績により学園内での立ち位置が決まってくるのも否めない。


 表向きは貴族も平民も関係なく平等という形ではあるが、実際には小さな社交界なのだ。

 貴族たるもの舐められてはいけない。だから、皆必死に勉強する。


 その第一歩目が入学試験だったのだが、見事に躓いていまったな。


(む、あれは入学テスト結果か?)


 教室まで案内される途中、廊下に張り出された紙にテスト結果が記載されていた。


(1位は……皇太子殿下か! 500満点中486点。やはり素晴らしいお方だ。

 む、アレは憎っくきガイルの名前があるな、5位461点……ま、まぁまぁなんじゃない? うん)


 俺が受けていたら首席が取れただろうか……

 テスト内容がわからないので何とも言えないが、きっと満点だったはず。

 惜しい事をしたな、だがまぁこれからも俺の実力を発揮するチャンスは巡ってくるだろう。


 と考えているうちに、教室へと辿り着く。


「さぁ、ここになります」


 案内してくれた教員がドアを横に引き、ガラガラと音を立てる。


 教室の壇上には、若い男性が立っている。これが担任の教師だろう。

 授業の途中だったのか、ドアの音で静寂が走り、皆一斉にこちらを向く。


「お? お前は、アルバートだな。山賊に襲われたって聞いたが無事で良かった。

 ちょうど良い、こっちに来て自己紹介をしろ」


 壇上に立つ教師がそう言って俺を手招きする。


 くっ……視線が痛い。

「なんだアイツ遅れてきてよぉ」とか思われてそう。

 だが俺は凶悪な山賊と命のやり取りをした漢。

 同い年の視線如きで萎縮はしないっ!


 俺は壇上に立ち、生徒達の方を向き言葉を放つ!


「俺はアルバート・ディ・ガリウスだ。

 聞いての通り、山賊に襲われて遅れはしたが問題無く山賊共は成敗した。

 もし、この場に不埒な輩が現れたとしても安心するが良い!

 皆、よろしくだの、頼む!」


(噛んだ……)

(噛んだな……)

(噛んだわね……)


 まばらに起こる拍手と、クスクスとした笑い。

 くそぉ、途中までバッチリ決まっていたのに最後の最後でぇ……


「ブハッ! いや、すまん。頼もしい仲間が出来て良かったな皆。アルバート、お前はあそこの席だ」


 この教師めぇ、笑いおって……

 俺は道化師ではないんだぞ! 笑うなど以ての外だ!


 少し顔が暑いが、言われた通り大人しく席へと移動する。

 すると、隣の席の男が話しかけてきた。


「よぉ、掴みはバッチリだったな。俺はライアス・エフ・サイモン。子爵家だが、タメ口でいいよな?」

「ああ、さっきも言ったが俺はアルバートだ、アルとでも呼んでくれ」


 掴みたくて噛んだ訳じゃないわっ!と一喝したかったが、初日からトラブルを起こすわけにもいかんしな。

 しかし、このライアスは随分とフレンドリーだな初対面でもグイグイ押してくる。

 お前のような距離感おかしい奴はアルはちょっと苦手です。




 それから、授業は進んでいき昼の休憩時間となった。

 少し懸念であった授業内容は今のところ問題なく理解できるので良かったと安堵していると、ライアスが声をかけてきた。


「アル、お前昼はどうするんだ?」

「む……着いたばかりで昼食の用意はして無いな」

「なら食堂行こうぜ」


 ほぉ、食堂とな。

 確かに全員が昼食を用意できるわけでも無し、そのような施設があって然るべきか。

 良かろう、国有数の学園の食堂とやら、このアルバートが吟味してやる。


 ライアスの案内で食堂へと向かう。

 その時、廊下の先に見覚えのある後ろ姿。


(あ、あれは皇太子殿下! 殿下も食堂へ行くのか?)


 そう思っていると、殿下の元へ1人の少女が走って行き殿下とぶつかった。


 俺はそれを見て、急ぎ駆け付けたのだ。


「イタタ……ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「ハハ、大丈夫。でも廊下を走ったら駄目だよ?」

「あ、あの私マリアって言いますっ!」

「そう、僕は――」

「貴様ぁ! 殿下に体当たりなど、どういうつもりだっ!?」


 駆け付けた俺は少女を怒鳴りつける。

 女だろうが子供だろうが犬猫だろうが関係ない、皇太子殿下に害をなす者は排除するのが臣下の務め!


「ひっ……! す、すみませんっ!」

「すみませんで済んだら憲兵など要らんのだっ! 貴様は平民だな? この方が誰かわかっているのか! 一体何が目的でこんな事をしたのだっ!?」

「あ、あの、私……」


 ちゃきちゃき喋れぇい!

 こっちは腹が減って気が立ってるんじゃい!


 俺が少女を睨んでいると、殿下がそこへ割って入る。


「彼女はたまたまぶつかってしまっただけだよ。君、そんな凄い剣幕で捲し立てられたら彼女も困るだろう。

 あと、学園内では私は皇太子殿下では無く同じ一生徒だ。身分を振りかざすのは辞めたまえ」

「し、しかし……」

「これ以上は言わないよ? 君こそ婦女子に対してその態度はどうなのかな? 不愉快だよ」

「グッ……申し訳ありません……」

「謝る相手が違うだろう」


 殿下は少女に謝れと言う。

 おかしいな……? 一体どこで間違えたのだ?

 こんなはずでは無かったのだが……


 しばらく俺が混乱していると、それを見た殿下はどうやら謝る気が無いと判断されたようだ。


「もういい。君は平民に謝る気がないようだね、今回は代わりに私が謝ろう。

 済まなかったね、マリアさんだっけ? もし良かったらお詫びに食堂でご馳走するよ」

「は、はいっ! ありがとうございますっ!」


 ちょ、待てよ!

 違う違う、謝る気が無かったんじゃないの! 考え事してただけなんですよぉ!

 もしかしなくても俺はやらかしてますよねぇ!?


 俺は呆然として殿下と少女が歩くのを見る事しか出来なかった。



 アルバート生涯戦績『0勝30敗』

(変更無し)

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