第6話 アルバートと貴族の誇り

 山賊と命のやり取りをして、疲弊した俺はその場に座り込んでしまった。


 斬り付けられた肩が痛む、何だか、疲れた……もう動けない……。


 俺が覚えているのはそこまでであった。




 次に俺が目を覚ました時は、簡素なベッドの上。

 肩に包帯が巻かれている。


(うぅ、頭がボーっとする……日が高いところを見ると、それほど時間は経ってないようだな)


 ベッドから降り、凝り固まった身体を解していると外から声がかかる。


「アルバート様、お目覚めになりましたか」

「ああ、今起きた」

「身体の具合は如何ですか?」

「問題ない、多少切られた肩は痛むが。大丈夫だ」


 そう言って腕をグルグルと回す俺を見て、騎士は安心したようだ。


「それは良かった。御身に何かあったらと思うと、当主様に顔向けが出来ません」

「安心しろ、それより村の連中は無事か?」

「……何名か死亡者が出たようです」

「……そうか」


 死者が出てしまったか……。

 無辜の民の命が奪われてしまうなど、本来あってはならない事だ。

 我が領地でそのような事が起こってしまうとは、より一層の巡回強化をせねばならないな。


 俺は重い身体で外に出て村長に会いに行く。


「アルバート様、お身体はもうよろしいのですか?」

「村長よ、この度は済まなかったな」


 俺は謝罪の言葉を口にする。

 普通の貴族は平民に謝ることなどしないだろう。だが、俺は違う。

 母の教えを守っているのだ。

 母は言っていた


『貴族とは平民の上に立つ者です。上に立つ者は下の者に対して責任があります。

 下の者が不幸であるならば、それは上に立つ貴族の責任なのです』


 この言葉はアルバート辞典の上位に君臨する素晴らしい言葉だ。

 この薫陶は忘れる事はないだろう。


 だから俺は村長に謝罪したのだ。

 だが、頭は下げない。貴族が頭を下げるのは忠誠を誓う王族のみ。それが貴族の誇りなのだ。


「アルバート様、その御言葉だけで死んだ者も浮かばれるでしょう」

「この事は父に報告し、二度と同じ事が起きぬようにしよう。

 また、死者の家族には十分な補償を約束する」

「はい、本当にありがとうございます」


 涙を流す村長の前を辞して、俺達は学園への旅を続ける。


 また、村を出てすぐに問題起きないだろうな?と心配していた俺だが、流石に連続して事件か起きるはずもなく、今度こそ村を出発する事が出来た。


 道すがら騎士の1人が俺に話しかけてくる。


「アルバート様、先程は誠に御立派でした。今後もガリウス領は安泰ですね」

「ふん、世辞は良い。俺はまだまだ父には及ばぬ未熟者よ」

「とんでも御座いません。私を含め、騎士達は皆一層のガリウス家への忠誠を固めましたぞ」


 ふむ、そう言われると悪い気はしないな。

 むしろもっと褒めても良いんだよ?

 どうにも小さい頃から周りが凄すぎて(主に弟妹が)、ちょっと自信無くしてたんだよね。


 いやぁ、やっぱりこの俺は凄いんじゃん。立派なんじゃん。

 今までの努力も無駄じゃ無かったな。

 いや、あの天才双子がいなかったら俺はここまで努力して無かったかもしれない。

 そう考えると弟妹にも感謝だな。

 仕方ない、愛する弟妹の為にお兄ちゃんはお土産奮発しちゃうぞ。


 と、上機嫌になった俺は馬車の景色を楽しみながら進んでいくのだった。




 村を出発して、数刻が経った頃だろうか。

 俺は違和感を感じていた。


(んん? 何だ? 何かがおかしい気がする…)


 はっきりとはわからないが、どうにも胸がモヤモヤする。

 一体何が……?


 唸りながら頭を働かせるも、違和感の正体が掴めない。

 一体なんだろうな……と俺は馬車の外に目を向ける。


 馬車から見る景色はゆっくりと動いている。

 今日も天気が良く、洗濯物が乾きそうだ。と空虚な事を考えていると、違和感の正体に気付く。


 頭の上に電球が灯ったような閃き。

 違和感の正体は速度だ!!


 山賊騒ぎがあり、俺が寝込んだ事もあって本来の予定から大幅に遅れているはず。

 だというのに、馬車はゆっくりと進んでいる。

 一体どう言う事だ!?


 慌てた俺は騎士に問い掛ける。


「おい! この速度で間に合うのか!? 予定よりも遅れているだろう?」


 俺が問い掛けた騎士は、苦しげな顔をしている。


 あ、すっごく嫌な予感がする。

 ダメだ、聞いちゃダメだ。絶対悪い予感は当たる。


 そんな俺の願いも虚しく、騎士は言う。


「申し訳ありません、アルバート様はあの村で3日程寝込んでおりまして……。最早学園の入学テストには間に合わないかと……」


 うおぉぉぉん! 何と言う事だ!!

 俺は3日も寝ていたのか! どうりで身体が固まっている訳だ!

 えっ? てか待って、間に合わないってどう言う事!?


「か、確認させてくれ……俺は3日も寝ていたのか?」

「……はい」

「……つまり予定から3日も遅れている。と?」

「……はい」

「という事は試験があるのは今日だな?」

「……そうです」

「ここから王都までは?」

「……あと2日はかかるかと」


 俺は白目を向いて倒れた。

 遠くの方で俺の心配をする騎士の声が聞こえる……

 その間も馬車はゆっくりと王都へ進んでいく。



 アルバート生涯戦績『0勝30敗』

(入試 不戦敗)

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