第5話 アルバートと山賊

 魔法の才能は無いとキッパリとエリック先生に言われた翌日。

 俺は多いに悩んでいた。


 剣も勉強も音楽も魔法も勝てない。

 他に何があんの? 領地経営とか? いや、流石にこの歳では父も経営に携わらせてはくれないだろう。


 結局、何も見出せずに惰性で今までの習い事を継続しつつ俺は13歳になった。


 このままでは何も勝てない!

 なんて、俺は思ってはいなかった。


 実は密かに、「勉強とか剣術はさ、弟妹が凄いけど同年代なら俺って凄いんじゃん?」

 と思っていたのだ。


 だから学園に入学する13歳になってもそこまで焦っては居なかったのだ。




 学園は正しくはケンフォード学園と言い、王都のど真ん中に建てられた貴族の子女達の教育機関。

 13歳で入学し、5年間教育を受ける。

 貴族だけでなく、平民からも優秀な者が入学することもあるこの国で有数の学園である。


 ついに俺も学園へ入学する時が来た。


「アル、身体に気を付けてね」

「しっかりと勉強に励むのだぞ」

「兄上、休みの時は帰ってきて下さいね。お土産期待してます」

「兄様、帰ってくる時はお土産買ってきてね」


 家族に温かく見送られ、俺は領地を出る。

 弟妹はお土産がメインだったようだが、この兄は気にしない。帰る時はちゃんと買ってきてやろう。


 学園のある王都までは領地から馬車で3日程かかる。

 その間、俺はしっかりと準備をしていた。


 何の準備かというと、入学テストである。

 狙うは首席。この為に俺は恥を捨て、弟に勉強を教えて貰っていたのだ。


 その甲斐あって、入学テストに自信を持っていた俺。

 移動中も参考書を読むという念の押し様は我ながら完璧である。

 ただ、移動中に本を読んでいると気持ち悪くなるのが難点だな。


 そして、日も落ちてきた頃、ガリウス家の領地の端にある村にて一泊する事になった。


「アルバート様、本日はこの村で休みましょう」

「ウプッ……あぁ、護衛ご苦労」


 俺は護衛の手を借り、ヨロヨロと馬車から降りる。

 ああ……地面とは良いものだな……


 学園に向かうにあたり、同中の護衛として10名の騎士とともに俺は旅をしている。

 全員男である。

 しかし、ムサいな……我が伯爵家に女性騎士は居ないので仕方ないが。


 村ではそれなりの歓待を受け、空き家に泊まる事になった。俺は家で就寝、騎士達は外で夜営である。

 これが身分の差なのだ、フッ良いご身分だ。


 簡素なベッドで寝苦しくもあり、あまりグッスリとは寝れなかったが身体の疲れは取れた。


「アルバート様、良くお休みになられましたか?」

「うむ、村長。感謝するぞ、この事は父に良く言っておこう」

「有難き御言葉でございます」


 さぁ、また学園への旅の出発だ。

 となった時に事件が起こる。


 村を出て少し経った頃、村から若い男がこちらへ駆けて来た。


「はぁっ……! はぁっ……! 申し訳ありませんアルバート様! 村が、村が襲われておりますっ! お助けを!!」


 な……なんだってー!!

 今さっき出発ばかりなのに何というタイミングで事件が起こるのだ。

 見捨てる訳にもいかず、俺達は村へと引き返す。


 すると、村の入り口には山賊達が群がっていた。

 我が領地にて悪事を働くなど許さんっ!


「騎士達よ、全員で奴等を退治するのだ!」

「全員ですか!? そうするとアルバート様の守りが……!」

「俺の守りは気にするな! 奴等の数は多い、全員で行かねば死ぬ者も出るかもしれんぞっ!」

「クッ、わかりました……! 総員かかれっ!」


 山賊の数はおよそ30人、対してこちらは10人。

 3倍の数だが伯爵家の騎士は優秀だ、何とかなるだろう。


 しばらく剣と斧がぶつかり合う音が響き、徐々に形勢が決まってきた。

 山賊は数を減らし、騎士との人数は逆転した。


 その時、勝てないとみた山賊の1人が俺を人質にすべくこちらに走ってきた。

 フッ……たった1人でこのアルバートに向かって来るとはな、我が剣の鯖にしてくれるわっ!


 俺は馬車から降りて剣を抜き、山賊を迎え討つ気で構える。


「ア、アルバート様! 危険です! 馬車へお戻り下さいっ!」

「心配要らん! 見ていろ!」


 こちらに気付いた騎士が声を上げるが、俺はガリウス家の嫡子、アルバートだぞ?

 山賊の1人や2人、造作もない。


 そう思ったが、走って近付いてくる山賊を見て、俺は何故が足が震えた。

 武者震いかっ!? くそ、足に力が入らない。


 どんどん近付いてくる山賊。

 思ったよりも身体が大きい、目が血走っている。正に生死を賭けた特攻である。


 俺は冷静に山賊の様子を分析出来ていた。

 6歳から7年間、剣を振り続けたのだ負ける事は無いだろう。

 絶対大丈夫。な、筈だ……よね?


 だが、そんな気持ちとは裏腹に俺の身体は言う事を聞かない。


 足が震える……っ!

 て、手に力が入らん……っ!

 な、なんて事だ……こ、このアルバートが恐怖しているだと……っ!?


 ガチガチと煩い歯を食いしばり、俺は吠えた。


「う、ウワァアー!!」


 人によっては恐怖の叫び声に聞こえたかもしれんが、俺は気合いを入れる雄叫びのつもりだった。


 そこからは正に無我夢中でよく覚えていない。

 山賊と打ち合えたのは、数合だったと思う。


 技術は勝っていたが、体格差により弾き飛ばされ、薄く斬り付けられた俺は尻餅をついてしまったのだ。

 好機とみた山賊が俺に迫る。


(あ……し、死ぬ……っ!? 誰か助けて!)


 結果的に駆け付けた騎士が山賊を斬り付けて、俺は無事だった。

 だが、この出来事は俺の心に大きな傷をつける事になった。


(何という無様な姿か……あれ程修行したというのに、情けない……)


 俺が涙目で俯いていると、騎士が言う。


「アルバート様……貴方の年齢では実戦は怖いでしょう。実力を出し切れない事は仕方ありません。

 普通の子供なら、外に出て山賊とやり合おうなんて思わないですよ。

 だが、貴方は違った。その勇気は賞賛に値します」

「慰めは要らん。俺が恐怖で動けなくなるとは、情けなくて笑えてくる……」

「そんな事はありません。御立派でございました」


 騎士は恐らく本気で言ってるのだろう。

 だが、俺はわかるのだ。もし……


「もし、妹のリズが居たらどうだったと思う?」

「あー……リズベット様は……その、特殊ですので……」


 ほらな。




 アルバート生涯戦績『0勝29敗』

(vs山賊戦)



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