第4話 アルバートと魔法

 バイオリンでパトリシア侯爵令嬢に大敗を喫した俺は悩んだ。


 勉強も剣術も音楽も負けた。

 何かないのか、何か。


 俺は屋敷内をウロウロと彷徨っていた。

 後ろには弟妹が冒険パーティよろしく整列してついて来ている。


 ふと、外の庭で騎士達の訓練が目に入る。

 俺は何とは無しにその訓練をボーっと見ていた。

 弟妹は俺の両手にぶら下がって遊んでいる。ええい、邪魔だな。


 騎士達の訓練は過酷で、訓練用の剣での打ち合いだけでなく魔法をも使って闘っている。


 その時、俺の脳に電流が走る!


「これだっ!」

「うわ! 兄上、急に大きな声出さないで下さいよ」

「本当よ、ビックリしたわ」

「うるさい、お前達いい加減俺の腕を離せ」


 文句を言いながら弟妹は俺の腕を放す。

 そろそろ兄離れをしなさいよ君達。


 そんなことよりも、魔法である。

 魔法を使うには魔力が必要だが、貴族は魔力持ちが殆どだ。俺も例に漏れず魔力を宿しており魔法が使えるはずだ。


 魔法と言えばアルバート、アルバートと言えば魔法。そう呼ばれる日も近いだろう。

 ククク、良いではないか!


 早速、父上に魔法の教師を派遣して貰わねば!


 思い付いたが吉日。

 俺は父の執務室にやって来た。早る気持ちを抑え、扉をノックする。

 いくら家族とは言え、父が仕事をしている部屋へ突撃するなど紳士としてあってはならない(1敗)


「父上、アルバートです。入っても宜しいでしょうか?」

「うん? アルか、入れ」

「失礼します」


 どうやら今日はそこまで仕事が詰まっているわけでは無いようだ。父は椅子に座り、家令のトーマスと談笑をしていた。


「父上、今宜しいでしょうか?」

「何だどうした?」

「旦那様、どうやらアル様は願い事があるようですよ?」


 流石トーマス、鋭い。伊達に長い間ガリウス家に仕えているわけではないな。

 は願い事がなんて洒落も効いている、中々の手練れだ。


 冗談はさておき、俺は父に切り出す。


「父上、俺に、いや私に魔法の教師をつけて頂けないでしょうか?」

「魔法か? 学園に入学してからで良いのでは無いか?」


 そうなのだ、貴族の子供は13歳で学園と呼ばれる教育機関に入る事が義務付けられており魔法はそこで勉強するのが通常だ。

 だが、このアルバートは違う。


 今から魔法を勉強すれば同年代に2年ものアドバンテージが生まれる。

 すなわち俺がNo.1という事になる。


「学園に入ってからでは遅いのです。私はガリウス家の跡取り。我が伯爵家の威光を示すには他の貴族の子女達よりも先にいって模範とならねばなりますまい!」


 決まった。

 我ながら付け入る隙のない正論。これには父も頷く以外出来まい。


「お、おう……まぁお前がそこまで言うなら探しておいてやろう」

「ありがとうございます!」


 俺は計画が遂行出来たことで上機嫌で執務室を後にする。


「……アルの奴。これ以上習い事増やして大丈夫なのか?」

「アル様は努力家ゆえ、何事にも一生懸命なのでしょう。良い事ではないですか」

「だがアルはまだ11歳だぞ? もっと遊んでも良いと思うのだがな……」





 父との交渉を成功させた俺は3日後、待望の魔法教師と対面する。


「貴方がアルバート様ですね、私はエリックと申します。

 サルバ子爵家の次男で、今は王国魔法師団に在籍しております」


 王国魔法師団とは、魔法の専門家達の集まりで非常に高い実力を持つ者しか入れないという魔法使いならば誰しもが憧れる職業。


 まさか魔法師団の人間が来てくれるとは流石父上、人脈が広い。


 俺は父に感謝しつつ、エリック先生に魔法を教示してもらい1年が経った。


 魔法には適正があり、火・水・風・土・光・闇の6属性がある。

 測定したところ、俺の適正は火だそうだ。


 個人的には闇属性がカッコいいなぁと思ってはいたが、火か。

 まぁ、燃え盛るような熱い意思を持つこのアルバートに相応しいと言えば相応しいな。

 ゆくゆくは『紅蓮のアルバート』と言う二つ名を授かる日も近いだろう。


 魔法を教わる当初はそう思っていたのだが……



「では、アルバート様。向こうの的にファイアーボールを撃ってみて下さい」

「はい、先生。ファイアーボール!」


 魔力を練り、呪文を唱えた俺の手の平から同じく手の平サイズの炎の玉が出現し、ヒョロヒョロと力無く飛んで的に命中する。

 命中した的は一瞬燃えたが、すぐに鎮火して焦げ目が付いただけである。


「アルバート様……」

「先生、その先は言わないでくれ」

「申し訳ありませんが……アルバート様には魔法の才能は有りません」


 なぁんで言うのかなぁ?

 言わないでって言ったじゃん。

 そりゃ、俺も何となくわかってたよ? 1年教わったけど、バイオリンみたく手応えがあんまり無いなぁって。

 あとさ、隣にいる奴らがね。


「「ファイアーボール」」


 弟妹が揃ってファイアーボールを放つ。

 俺よりも二回り以上大きい火球が凄い速度で飛んでいき的を破壊した。


 これだもん、はっきり差がわかるのよ。

 ちなみに弟は水属性、妹は風属性だからね? 自分の得意属性じゃないファイアーボールで、俺の得意属性よりも凄い威力なんだからさ、やんなっちゃうよ。


 それでも先生に言わせると弟妹の魔法の才能は普通よりもちょっと上って位らしい。


 魔法もダメだったか……。

 いや、教えてもらってなければ学園でもっと恥をかくところだったと思えば無駄では無かった。

 そう思おう。



 アルバート生涯戦績『0勝28敗』

(執務室突撃、弟妹との魔法勝負)

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