第2話 アルバートと弟妹

 人生で2回の敗北を味わった俺は、まず身体を鍛える事にした。

 殿下の誕生祭の翌日から、伯爵家の騎士から手解きを受け、剣を振るのが日課になった。

 そして、剣だけで無く、頭の方も鍛えた。


 剣を振り身体を鍛え、勉強に勤しみ頭を鍛える俺を見て両親は喜んでいた。

 親から見たら息子の頑張る姿はさぞ嬉しかっただろう。


 それなりに頑張っていた俺はまた敗北を味わう事になる。それも家族である双子の弟妹に。


 俺が8歳になる頃、部屋で家庭教師に勉強を教えて貰っていた時だった。

 6歳になる我が弟妹は、兄である俺を慕い、よく後ろをついてくる可愛い奴らだった。

 だが、その愛する弟妹が俺に牙を剥くとは誰が想像しただろうか。


 家庭教師から出されたテストを受けている時、弟レイシスが俺の部屋に遊びに来た。


「あにうえ、暇だよ。遊んで」

「レイ、兄は勉強中だ。これが終わったら遊ぼうな?」

「えー、じゃあ俺もやるー」


 と言って弟レイシスは俺の隣に腰掛ける。

 フフっ、そんなに兄と一緒にいたいのか、可愛い奴め。

 その時俺は「まぁ同じようにテスト渡しておけば大人しくなるだろう」と軽く考えていた。


 だが!


「ふぅ、終わった。レイ、どうだ?勉強は難しいだろう?」

「俺も終わったー」


 こやつめ、適当に終わらせたのだな。全く困ったものだ。

 俺はそう思っていたのだが、テストを採点する家庭教師の顔が驚愕に変わっていく。


「……アルバート様、90点です。この計算をケアレスミスしましたね」


 む、間違ってしまったか。だが90点は中々高得点だ。と、俺は内心喜んでいたのだが……。


「レイシス様……100点です」


 ふぁっ!?

 100点? 100点ってアレだよ? 全問正解だよ? レイはまだ6歳なのよ!?


「おー、やったー! あにうえ、誉めて誉めて」


 無邪気に喜ぶ弟に俺は上手く笑えず引き攣った顔をしていただろう。

 家庭教師はレイシスの頭の良さを父に報告し、それからは俺と同じ勉強を一緒にする事になった。


 俺の弟レイシスは天才だった。




 打ちひしがれた俺は、気持ちを切り替えるべく庭で騎士と一緒に剣を振る。

 弟に勉強で負けたが、俺も90点という高得点だったではないか。

 腐る事はない、邪念を払うべく無心で剣を振るのだ。


 俺が剣を振り続けて2年になる。

 騎士からも筋が良いと褒められており、自分でも剣筋が良くなっているのがわかるので密かな自慢であった。


 だが、神は俺に更なる試練をお与えになった。


「兄さま、リズと遊んでー」


 妹のリズベットである。


「リズ、兄は鍛錬中だ。終わったら遊ぼうな?」

「えー、じゃあリズもやる」


 フフっ、そんなに兄と遊びたいのか可愛い奴め。

 俺の横で一生懸命木剣を振るリズ。

 アレ? 何か鋭くない?


 その時、俺は弟に負けた事を引き摺っていたのだろう。あろうことか、妹に勝負を持ち掛けたのだ。


「ど、どれリズよ。1つ兄と闘ってみないか?」

「え、兄さま遊んでくれるの? やったー」


 騎士は心配そうだが、案ずるな流石に妹に本気で打ち込むわけが無い。

 軽くチャンバラをやるだけだ。


 俺は、兄としての威厳を保つために必死だった。体格も年齢も、何より性別が違う。

 力は圧倒的に俺が上、力こそパワー。よって俺が負ける要素は1つも無い。

 その筈だった。


「じゃ、行くよー?」


 そう言って妹は走って、いや疾走ってきた。

 あまりの速度に俺は面食らってしまい、構えが遅れる。

 そこに妹の鋭い攻撃。

 俺の木剣は弾き飛ばされ、乾いた音を立てて地面に落ちた。


(何今の!? 全く見えなかったんだけど!?)


「て、天才……リズ様は剣に愛されている!」


 騎士はそう言って、屋敷の中へ駆けて行く。

 残された俺にリズは無邪気に話し掛ける。


「エヘヘ、兄さまに勝った! じゃあリズと遊ぼー」


 その後、リズベットも俺の鍛錬を一緒にやる事になる。



 俺はこの日、愛する弟妹に連続して敗北した。




 アルバート生涯戦績『0勝4敗』

(弟とのテスト勝負、妹との剣術勝負)

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