俺は負け犬じゃない!【負け犬アルバートは何とか勝利を手にしたい】
冷凍みたらし
第1話 アルバートと同年輩
俺の名前はアルバート・ディ・ガリウス。
13歳、男。2歳違いの双子の弟と妹がいる。
ガリウス伯爵家の長男として産まれ、跡取り息子として両親から多大な愛情を貰い、すくすくと元気よく育てられてきた。
ガリウス家はしっかりとした領地運営により財政も良く、その跡取りの俺は世間一般から見れば勝ち組の立場だろう。
だが、世間から見て勝ち組と呼ばれる立場に何の意味がある?
俺は、ただの一度も『勝ち』を体験したことが無いのだ。
思えば俺の負け犬人生は幼少期から始まっていたのかも知れない……
確か、最初の敗北は6歳の頃、この国の皇太子殿下の6歳の誕生日会だったように思う。
「さ、アル。殿下に挨拶に行こうか」
「はい、父上」
俺は父に連れられ、初めて貴族の社交場に参加した。
緊張でドキドキしていたが、初めての社交界にワクワクもしていた。
そして、皇太子殿下に挨拶に行く際に同じ伯爵家であるホランド伯爵の息子と対面した。
同じタイミングで殿下に挨拶に行こうとした両家は、どうせだからと一緒に挨拶に行く事になったのだ。
「で、殿下は、この度はおだ、お誕生日おめでとうごず、ごじゃいます」
緊張していた俺は盛大に噛んでしまった。
それだけならまぁまだ良い。問題は続いて挨拶した同い年のホランド伯爵の息子の方だった。
「皇太子殿下、御目通りが叶い嬉しく思います。私はホランド伯爵家のガイルと申します。お誕生日おめでとうございます」
俺よりもしっかりとした挨拶をかましやがった。
ふざけるな、俺のお陰で緊張がほぐれたんと違うか!? あぁん!?
「ふふっ、2人とも祝いの言葉有り難く受け取ろう。済まないが、君の名前も教えてくれないか?」
なんたる失態!
緊張のあまり名乗りを忘れてしまっていたとは、アルバート一生の不覚!
「も、も、申し訳ありません! 私はアルバートと申します!!」
今度は家名を名乗らなかったぁ!
まさかこの短時間で一生の不覚が二度も続くとは……厄年か!?
「申し訳ありません、殿下。息子は緊張しているようでして。我がガリウス家の跡取り息子に御座います」
「そうか、ガリウス家か。ホランド、ガリウスの両伯爵、今後も我が国の為に尽力してくれ」
皇太子殿下は流石である、6歳にして大人と同じ様に会話出来るなど天才か。
それに比べて私は、父に要らぬ恥をかかせてしまった……。
恥ずかしさと悔しさで俯いている俺は下を向いていた。その時、あろうことか俺の隣から鼻で笑う音が聞こえたのだ。
聞き間違いかと思い、そちらを見るとホランド家の息子ガイルが笑っているのが見えた。
あれが最初の敗北だったと思う。
皇太子殿下の頭の中でも ガイル>俺 の図式が出来てしまっているのではなかろうか!?
許すまじ、ガイル。
貴様が来なければもう少し殿下の印象も良かったものを……。
完全に八つ当たりではあるが、当時の俺は悔しくて悔しくてどうにかして奴の鼻を明かしてやろうと考えていた。
挨拶の場から下がったあとに機会を伺い、奴が1人で社交場から離れる隙を伺っていた。
程なくしてその機会は訪れた、奴がトイレに動いたのだ。
すかさず俺も父に断りを入れ、トイレへと向かう。
これがまた敗北のキッカケであった。
ガイルの後をコソコソを付けていき、奴がトイレから出てきた所を呼び止める。
勿論、周りに人がいない事は確認済みだ。その辺りはこのアルバート抜かりは無いっ!
「待て、貴様。先程俺を嗤ったな?」
「ん? ああ、君か……済まないな、可笑しくてつい、謝罪しよう」
「ええい! 謝罪など要らぬ! 決闘だ!」
因みに俺は決闘という物に少なからず憧れを抱いていた。
誇りを掛けて一対一で対決する、なんと漢らしい事か。
ただ、あの時の俺は客観的に見て癇癪を起こしている子供そのものだった。
俺は怒りのままガイルに殴り掛かった。
が、何と奴は俺のパンチを片手で受け止め、その上で蹴りを俺の腹に打ち込んできたのだ。
悶絶する俺に奴は言った。
「あ、済まない……反射的に手が出てしまった。大丈夫か? 誰か呼んでくるか?」
「グフゥ……出たのは脚だろうが……おのれぇ、覚えていろよ」
フラフラと何とか立ち上がった俺は心配する奴を尻目に逃げたのだ。
同じ相手に2連敗してしまうとは、情け無くて涙が出てくる。
(くそ……奴め、何か武術を嗜んでいるに違いない。そうと分かれば違う方法をとったものを……
うぅ、腹が痛い。内蔵破裂したかもしれん)
内蔵は破裂していなかったので、俺は無事だった。
ただその後、奴は事の顛末を自分の親に報告したらしく、奴の親が謝りに来てしまった。
俺は父にこっぴどく叱られた。
アルバート生涯戦績『0勝2敗』
(対ガイル。挨拶対決、決闘)
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