43 突入準備完了

 ルーツたちのカタツムリの魔物への挑戦は何度も続いた。他にも挑戦する冒険者や元破壊神討伐チームのメンバーがいたため、休憩を挟んで作戦を練りながらの挑戦となった。


 しかし、次第に挑戦が多すぎることに魔物が怒り始めた。喋ってなくても怒っている様子がルーツにも見て取れた。そして、あるメンバーの挑戦の時、魔物はルーツたちの挑戦と同じレベルの実力を出し始めた。そのメンバーは一瞬で敗北し、その次の挑戦グループも同じだった。


 第一段階に挑戦していた者たちは諦めてマーリの街に帰還する事態となった。残ったのはルーツたちだけだ。


「まあ、これで休みなく挑戦できるってことにはなったな……」

「た、確かに……」

 カタツムリの魔物は、ルーツたちの挑戦は今まで通り受けてくれた。しかし、強すぎる。少しずつ立っていられる時間は長くなっていたが、未だに勝ち筋が見えなかった。


 ある回で、魔物は打ち切りを提案した。


「い、いや待ってくれ!」

「そういうわけにはいかないのよ!」

 ルーツとサナがそう言うと、魔物は触手をサナの足元に向けた。魔法を習得するための魔法陣が浮かび上がる。


「え、これは!?」

「ど、どうして!?」

 ネロとシンディが呟いた。すると、魔物は触手を一本伸ばし、別の魔物を捕まえて連れて来た。何やらその魔物に説明している。


「え、えっと、僕から説明するぞ」

 連れて来られた魔物は喋れるようだった。カタツムリの魔物の代わりに説明してくれるということだ。


「本来は試練に打ち勝たなければ力は与えない。ただし、君たちの気持ちは伝わった。特別サービスで、一度だけ使えるという条件で、ある魔法を与える。君になら使いこなせるだろう、だってさ」

「ホ、ホントか……」

「あ、ありがとう……」

 ルーツとサナは疲労で崩れ落ちた。ネロとシンディもだった。


「あと、最後に。また来い、いつでも挑戦を受ける、だって」

 ルーツはその言葉にサムズアップでカタツムリの魔物に答えた。カタツムリの魔物は触手を振って立ち去っていった。


 ルーツたちはマーリの街に戻り、冒険者たちや元破壊神討伐チームと合流した。カタツムリの魔物のことが話題に上がる。


「あんなに強いんなら、あの魔物がオーデルグを倒してくれれば良いのに……」

「ダンジョンから連れ出せないから無理でしょ……」

 冒険者たちが疲弊した顔で言った。


「ちなみに、俺は剣を貰ったからな!」

 こう言って胸を張っているのはブルーニーだ。他にも何人か武具を貰えた者もいた。最も、それは魔物が怒る前の話だったが。


 ルーツとサナが村から持ってきた武具や、冒険者たちが色んな街に出向いて手に入れて来た退魔の武具もあったので、帝国突入メンバーの選定も始まった。ジャック、リリィ、サナ王女、バスティアンも選ばれた。


 皆の士気を上げるため、この日はささやかなお祝いのため、豪勢な食事が振る舞われた。


 マーリの街の貴族であるキャサリンや、その兄夫婦もせっせと元破壊神討伐チームや冒険者たちの世話をしている。


 そんな中、ルーツとサナは、二人だけで喋っていた。


「サナ、ユグドラシルの力が残り少なくなって来てるの、気づいているか?」

「うん……。私たち、いつまでこの世界で活動できるかな」

「分からない。せめて、戦いが終わるまでは持ってほしいな」

「そうね」

 ルーツはそのままサナの肩を抱く。サナもルーツに身体を預けて来た。ルーツの中には、ある予感が芽生えている。ルーツは、それを口に出すか迷っていた。


「ルーツ。長老の力が、残っていなかったとしたら、どうする?」

「ちょうど、言おうかどうか迷ってた」

「そっか……」

 村長は、ルーツたちコピー人間は、長老の力が無くては存在できないと言っていた。ルーツとサナの未来は、その言葉から推測できるのだ。


「一日一日を、大事にしよう。その日が最後だと思って生きれば、何か残せるんじゃないかな」

「そうね、それしかない……ね。この状況だけど、せめて二人でやりたいことも、やっておこ」

「ああ、そうだな」

 ルーツはサナと向き合い、口付けを交わす。抱き合いながら、残された時間を精一杯生きようとルーツは思った。



    ◇



 武具が揃い、突入メンバーはほぼ決まった。元破壊神討伐チームからは、3分の1程度のメンバーが参加する。マーリの街の冒険者も何名か参加することになった。


 残された者は、飛空艇での待機や、今まさに魔力結界で危機に陥っている地域の難民救助にあたる。


 突入作戦決行までの間、突入メンバーは最後の特訓を行った。


「うおりゃあ!」

「はぁ!」

 ブルーニーとルーツが剣技の模擬戦をしている。あまりにも気合が入っているので、二人が怪我をしてしまわないか、ハラハラしている者もいた。


「大丈夫ですよ。怪我したら私が回復魔法で治しますから」

「さらっと凄いこと言うね、サナ……」

「ふふ。まあでも、あの二人なら大丈夫じゃないかな」

 サナの言葉の通り、ルーツとブルーニーはある程度のところで模擬戦を切り上げた。


「やるなぁ、ルーツ。魔道士のくせに、すげーわ」

「いやいや、ブルーニーの剣技の鋭さの方がヤバいです! もう二度とやりませんよ!」

「まあでも、ありがとよ。結局、オーデルグの野郎とは模擬戦できなかったからさ」

「そんな約束をしてたんですね」

「ルーツ。お前は、裏切らないでくれよ……」

「……誓って、そんなことはしません」

 ルーツとブルーニーは拳をぶつけ合った。その様子を見た元破壊神討伐チームのメンバーもルーツの元を訪れ、拳をぶつけ合う流れができた。


「ルーツ、サナ。君たちがいてくれて良かった」

「ありがとな」

「オーデルグの方のルーツも、皆の前に引っ張り出して、とっちめてやるわ!」

「ああ、そうだ! やろう、やろう!」

 多くの者がその掛け声に加わった。ブルーニーの気合い入れが効いているようだった。


「飛空艇の出発準備をするぞ。いよいよだ」

「ああ、行くぞ、皆!」

 冒険者チームのリーダーとブルーニーが声をかける。


「「「おう!!」」」

 そして、気合の入った声が返った。

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