42 反攻作戦

 元破壊神討伐チームの飛空艇は、マーリの街の近くに着陸した。マーリの街には飛空艇の発着場が無かったためだ。


 ルーツとサナの活動拠点でもあったので、ネロとシンディと共に、冒険者ギルドと連携してチームを受け入れてもらった。


 帝国の首都から広がっている魔力結界の影響で、人々はどんどん逃げ出しているという情報が、マーリの街にも届いていた。マーリの街は帝国からかなり離れた位置にあるので、まだ難民の流入は起こっていないが、最終的にはこの街にも押し寄せるのは明白だ。


 冒険者ギルドは本業を休止し、今世界を襲っている危機の対応に注力することになった。ここを活動拠点にしている冒険者たちにも、創造神サカズエや破壊神トコヨニ、そして今回の事件の元凶である魔道士オーデルグのことが説明された。


「反帝国同盟は崩壊している。帝国への一斉蜂起も、戦場が帝国に近かったから、もう魔力結界の中だ」

「帝国の近くの国は全滅よ。逃げ出せた人たちもいるようだけど、足が無ければいずれ魔力結界に追いつかれてしまうでしょう」

 ルーツたちと同じように、帝国の近くからマーリまでやって来た冒険者が情報を提供する。


「結局、オーデルグを倒して、あの魔力結界をぶっ潰さないと、世界が滅ぶってことか」

 ブルーニーが言った。


「あの魔力結界に突入できる人材は限られている。飛空艇で上空には近づけるだろうが、それ以降は少人数部隊で帝国に降りる必要があるな」

 その条件を満たす実績があるのはルーツ、サナ、ネロ、シンディの4人しかいなかった。


「ルーツとサナは魔力で防御してるんだろ? 魔道士なら行けるんじゃないのか?」

「無茶言うな! その二人は超ハイレベルな魔道士だぞ!」

 冒険者たちが言った。


「でも、ネロとシンディはどうして大丈夫なんだ?」

「俺たちはこの装備のおかげだよ」

「西の迷宮ダンジョン第2層の魔物に貰ったのよ」

「ああ、噂のあれか。よく認められたな、お前ら、すげーよ」

「でもだったら、皆次々と挑戦して、装備を貰えば良いんじゃないか?」

「それだけの実力を持った者ならな。ちなみに、一度試練をクリアした者が手伝うことはできない。そうするとあの魔物、もっと実力を出して来ちゃうんだよ」

「そ、そうだったのか……」

 冒険者の説明に、ルーツは驚きの声を上げた。


「でも、腕に覚えのある冒険者は挑戦すべきだな。それで装備を手に入れることができた奴は、帝国潜入チーム入りだ」

「ええ、それで良いと思うわ」

「俺もやるぜ」

 ブルーニーが名乗り出た。ジャックやリリィも時間のある限り挑戦すると言い始めた。西のダンジョンの近くにキャンプ地を作り、挑戦する者は泊まり込むことになった。


 また、その魔物から貰える武具だけでなく、魔力結界に通用しそうな退魔の武具をかき集めるチームも結成された。彼らはしばらくの間、色んな街に出向いて調査をすることになる。


 そんな中、元破壊神討伐チームが集まっていた。


「今から確認しておくぞ。敵はオーデルグ、すなわちルーツだ。皆、覚悟はできているか?」

 ブルーニーがメンバーの皆に言った。ポジティブな反応は無い。未だオーデルグの行動のショックを引きずっているようだった。


「おい、いいか皆! あいつは確かに辛い過去を抱えていた! だけどな皆、ここは怒るところだ! あいつは俺たちに一切相談も救いも求めなかった! 俺はあいつをぶっ倒してぶん殴って叱りつけたい! もっと人を頼りやがれってな! 皆はどうなんだ!?」

 ブルーニーが凄い剣幕で叫んだ。冒険者ギルド全体が静まり返る。


 あっけに取られていた様子のメンバーたちだったが、徐々にブルーニーの言葉に賛同し始めた。


「ああ、そうだな、そうだよ!」

「私たちにいい顔して裏切ったこと、私も殴ってやりたい!」

「やろう!」

 冒険者ギルド全体に彼らの声が響き渡る。


「やるなぁ、ブルーニー」

「ホント。一気に空気を変えた」

 ルーツとサナが呟いた。


 喧騒が収まった後、サナ王女とバスティアンがブルーニーの前に立った。そして、元破壊神討伐チームのリーダーは、ブルーニーに変わることになった。


「俺たちも頑張らないとな」

「そうね」

 ルーツとサナが順に言った。ネロとシンディがそれに反応する。


「あん? お前らはこれからどうするんだ?」

「何かやることがあるの?」

 ルーツはネロとシンディに考えを説明した。創造神サカズエが失われたのなら、もうサナ王女が召喚獣タイタニアを味方にすることはできない。別の対抗手段が必要なのだ。それを相談するアテは、一人しかいないということだ。


 ルーツたちは、サナの召喚したルーンドラゴンに乗って、マーリ西のダンジョンに向かい、カタツムリの魔物の元を訪れた。


「というわけだ。伝説の召喚獣タイタニアに匹敵する力を探しているんだ。何か心当たりはないかな?」

 喋れなくても言葉を理解している様子の魔物に、ルーツは事情を説明する。


 カタツムリの魔物は触手で腕組をして何かを考えた後、別の触手をクイクイとした。


「お、おいおい! まさかまた挑戦しろってのか!?」

「ままま、待って! 私たち、一度試練をクリアしてるから、この魔物、さらに強くなるってことでしょ!?」

「いや、でもやるしかないよ!」

「そうね! 何かアテがあるみたいだから、何とか勝とう!」

 ネロとシンディは怯え、ルーツとサナは気合を入れる。


 しかし、4人がかりで挑んだその挑戦は、30秒持たず、ルーツたちの敗北に終わった。


「う、嘘だろ……?」

「つ、強すぎる……」

 壁で逆さまになっているルーツと、地べたでうつ伏せになっているサナが言った。ネロとシンディものびている。魔物は、勝ち誇るように触手でシャドーボクシングをしていた。


「く、くそ、でも時間が無いんだ! 倒れている場合じゃない!」

 ルーツの気合に魔物は何かを考える様子を見せた。すると、触手を4本全員に向け、魔法を放った。ルーツは、自分の傷が回復するのを感じた。


「こ、これは、回復魔法!?」

「さっさと第2ラウンドかかって来いってことね!」

「だああ、もうこうなったらとことんまで付き合うぜ!」

「ええ、やりましょう!」

 その後、何度も挑戦をし、敗北と回復を繰り返すことになったが、勝ち筋は見えなかった。ある時点で、魔物は触手をバッテンの形にした。今日はもうやめろということだった。


 ルーツたちは疲弊した顔でその場を後にした。カタツムリの魔物に挑戦しようとやって来た冒険者やブルーニーたちとすれ違ったが、何も言わずにダンジョンを出た。


 マーリの街に戻り、翌日の挑戦の作戦をまとめる。その後、ルーツとサナは一度村に戻ることにした。転移魔法陣のある家から村に戻り、村人に状況報告をした。


「お疲れ様、ルーツ、サナ」

 村長がルーツたちを労いに来た。


「この村の倉庫からかき集めて来た武具だ。その魔力結界とやらにも効果を発揮するだろう。持っていけ」

 そこには剣、槍、杖があった。これで突入メンバーを3人増やせることになる。


「ありがとう、村長!」

「さすがね!」

 ルーツとサナが村長と握手する。


「だが、悪いニュースもあるんだ。この村に残っている長老の魔力が減って来ている。もう転移魔法陣は何度も使わない方が良いだろう」

「……そっか」

「やっぱり……」

 全てが終わるまで、転移魔法陣は封印されることになった。ルーツとサナはしばらく村に帰れなくなる。


 ルーツもサナも、この日は村で家族と共に過ごした。特別なことは無い。ただ、村にいた時と同じように過ごした。そうすることが一番だろうと二人は思っていた。


 家族水入らずの夜を過ごし、一夜明けると、ルーツとサナは村人たちに送り出されて、マーリの街に移動した。

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