33 幕間:交錯する運命
創造と破壊の繰り返しによって生命はより強く、賢くなって来た。破壊を司っていたのが長老である破壊神トコヨニ。村長はルーツとサナにその話を聞かせた。
「創造神サカズエが今の世界を創り、人間が台頭してからは、長老は一度もサカズエに勝てなかったそうだ。しかし、もう一度勝ちたいと思い、そのために、人間を学ぼうとした。この村はそうして創られた」
「で、でも! 長老は俺たちに良くしてくれた! この村だって平和だし、全く矛盾してるぞ!」
「そうよ! それがどうやったら世界の破壊に繋がるの!?」
ルーツは人を食ったような長老の笑い声を思い出す。あれが、世界を破壊する者の姿には、どうしても思えなかった。
「人間に干渉はしない。長老はよくそう言っていた。力は与えるが、自分が導きはしない。身近なところで人間が自ら考え、どう決断するかを見たかったのだそうだ。だから、この村が繁栄しているうちは、少なくとも破壊神トコヨニとしての本業は封印するつもりだったのだろう。しかし、世界の方に異変が起こった」
「異変?」
「長老の力を使って、世界の破壊を自ら試みようとする人間が現れた。奴らは、過去の大戦で長老が破壊神トコヨニとして創り出した魔物の力を集め始めた。長老自身の力を求めてここを突き止められるのも時間の問題だったのだ。だから、長老は自分から出ていった」
「そ、そんな……」
「長老を追いかけよう!」
「もう遅いさ。長老は、ここを戦場にしたくなかったのだ」
そして、村長は語った。世界の破壊を目指しているのが、オーデルグと名乗るルーツのオリジナルであり、彼らの目的を阻もうとしているのがサナ王女であること。もし、暗黒竜ラグナロクの力がオーデルグの手に落ちれば、世界の破壊が近づくことを。
「俺のオリジナルがそんなことを……!? 一体、どうして!」
「動機までは分からぬ。だが、奴を野放しにすれば世界は滅ぶ」
「!? だったら、その男を止めないと!」
「ああ、そうだ! 何で俺のオリジナルがそんなことを始めたのか知らないけど、みすみす滅ぼされるわけにはいかないぞ!」
「ふふ、お前たちならそう言うと思っておった。ワシらも同じ想いだ」
村長がそう言うと、ルーツの母とサナの母も頷いた。
「だが、長老が戦う力を授けたのはルーツとサナ、お前たちだけだ。ワシらは手助けしかできん。それでも、やるか?」
「ああ!」
「もちろん!」
ルーツとサナは力強く言い切った。
「長老の力がオーデルグに奪われ、失われればワシらはもう村を出られん。ワシらは長老の力抜きでは世界に存在できない、不完全な生命なのだ。だが、ルーツとサナ。お前たちはユグドラシルの精から力を授かったな? それがあればお前たちだけは依然として外の世界で活動できる」
「そんな! なら、なおさら長老を取り戻さないと!」
「ええ、そうね! やりましょう!」
ルーツとサナは手をタッチし合った。
「さて、先ほども言った通り、ワシらはお前たちの本当の親ではない」
「そんなの関係ない!」
サナは立ち上がると、父母の元に向かい、抱きついた。
「私の両親はお父様とお母様だけ! 例え長老に創られた存在だとしても、これまで育ててもらった思い出が消えることなんて無いわ!」
「サナ……」
「ありがとう!」
サナの一家が抱き合う。ルーツも母の両肩を掴んで想いを告げた。
「俺も同じ想いだよ、母さん! 誰が何を言っても、俺の母は母さんだけだ!」
「ルーツ……」
ルーツと母も抱き合う。真実がどうあれ、彼らの絆を断ち切ることなど、できないのだ。
夜は、村の全員で会合が行われた。ルーツとサナを中心に、オーデルグから長老を奪い返すことを確認する。また、オーデルグ一味の目的を阻止することも。
全員でささやかな夕食を取ると、ルーツとサナは村の泉のところに向かった。二人で座り、しばし言葉を交わす。
「ルーツ、一応確認しておくわ。ルーツのオリジナル、オーデルグがどういう人であれ、ルーツとは別人。そうよね?」
「ああ、もちろん! 俺は俺だよ」
「うん。この先、何があっても、それを忘れないでね」
「サナもな。サナとサナ王女は別人だぞ」
「ええ、もちろんよ」
お互い、自分たちのオリジナルに影響されないこと。それを確認した。
◇
翌朝。
ルーツとサナは装備を整え、マーリの街に移動するため、転移魔法陣に向かった。見送るため、村人たちが多数訪れていた。
「ルーツ、サナ様」
「どうしたの、グスタフさん?」
「転移先の家、俺が管理していたんだが、お前たちが自由に使ってくれ。頼んだぞ!」
「ああ!」
グスタフと挨拶し、ルーツはサナと共に転移魔法陣に入った。次に見えたのは、マーリの街の家の地下室だ。
「さあ、まずはサナ王女を探さないとね」
「そうだな。合流を目指すべきだね。あと、オーデルグの調査もだな」
ルーツとサナは冒険者ギルドや、冒険者仲間の
サナ王女は、帝国に軟禁された後の情報が全く掴めなかったが、反帝国同盟の中でルーツという剣士が活動していたという情報を得ることができた。
「剣士か。名前が同じなだけの可能性もあるけど」
「でも、もう少し調べてみましょ」
ルーツとサナはマーリの街を出て、冒険者仲間のネロとシンディに会いに行くことにした。彼らは帝国と対立している故郷に帰ったので、反帝国同盟の情報を得られる可能性があるからだ。
サナの召喚したルーンドラゴンに乗り、ルーツたちは移動した。ネロとシンディは、すぐに見つかった。
「おお、ルーツとサナじゃねえか!」
「無事だったか、ネロ、シンディ!」
ルーツはネロと握手を交わす。サナとシンディも抱擁していた。ルーツたちは街の食堂に入り、食事を取りながら、これまでの一部始終を伝えた。
「創造神に破壊神だぁ……? 本当なのか、それ?」
「でも、それが本当なら、今立ち向かうべきは帝国より、その魔道士オーデルグ一味ということになるわね。だけど、私たちに会いに来たのはどうして?」
「反帝国同盟にルーツという名前の剣士がいたはずなんだ。もしかすると、そいつが俺のオリジナルで、オーデルグかもしれない。何か知らないかと思って」
「すまねえ。国のお偉いさんたちが反帝国同盟に接触してるのは知ってるが、俺たちは同盟に直接関わってるわけじゃねえんだ」
「そうか……」
「手詰まり感があるわね」
4人はテーブルで沈黙する。
「だが、うかうかしてもいられねえな。俺たちも手伝うぜ、ルーツ、サナ。世界が破壊されちまったら、
「そうね。幸い、帝国軍との争いは膠着状態になってる。私たちにも余裕ができていたところよ」
「ありがとう!」
「二人が加わってくれたら心強いわ!」
4人で握手を交わす。また共にミッションをやる、その約束はかなった形だ。
「それはそうと、お前ら、進展しただろ?」
「「え!?」」
急に切り込まれ、ルーツもサナも停止してしまう。
「わ、分かる……?」
「ええ。雰囲気が大人っぽくなってるわよ」
意味深なことを言われ、ルーツもサナも赤面してしまう。
「はっはっは! 初々しいのは相変わらずか!」
ネロは大声で笑うのだった。
その後、4人で食堂を出た。
「で、お前ら、マーリの街を拠点にしてるんだっけ?」
「ああ。冒険者ギルドで情報を集めているよ」
「じゃあ、私たちは準備を整えたらマーリに向かうわ。冒険者ギルドで会いましょう」
「ああ、分かった」
「それじゃ私たちは……え!?」
サナが叫んだ。ルーツもそれを感じ、遥か彼方の空を見上げる。
「何だ何だ、どうした?」
「物凄い魔力だ!」
「ほら、あれ!」
サナが指差した方向には、紫の光が漂っていた。
「あっちは、宗教国家スオードだな」
「何なのかしら、あれ?」
ネロとシンディが言う。周囲の人もざわついていた。
「あれは……ヤバい!」
「そうね。間違いない、あれは闇の力よ!」
「サナ、行こう!」
「うん!」
「え、おいおい! 行くってどうやって!」
「空を飛んで行くわ。いでよ、ルーンドラゴン!」
サナの声と共に、ルーンドラゴンが召喚される。
「えええ、何よそれ!」
「召喚魔法! 説明は後だ! 俺とサナは行くよ!」
「待て! 俺とシンディも連れてけ!」
「分かった、ありがとう!」
4人でルーンドラゴンに乗り、光の方向へ飛び立つ。ルーンドラゴンはグングンと目的地までの距離を縮めていった。
「街中があの魔力に覆われている。あれは一体!?」
「あのコロシアムだ、出どころは!」
ルーツは、ルーンドラゴンをコロシアムに向かわせた。紫の光の圏内に入る。
「うっ!?」
ルーツはその魔力の影響で倒れそうになってしまった。慌てて自分も魔力で防御して踏ん張る。サナも同じようにしていた。
「ネロ、シンディ! 大丈夫か!?」
「うぐぐ、何なんだよこれ! 魔法か!」
「大丈夫、この盾の魔法防御が効いているようね!」
それはシンディが、ダンジョンの魔物から貰った贈り物だった。どうやらネロが受け取った大剣も同じようにネロを守っている。また、ルーツがサナに贈った魔力石も効果を発揮し、サナの魔力消費は最低限で済んでいるようだった。
コロシアムの上空に到着し、地上の武舞台を見る。何人もの人が倒れており、一人、黒い闇の魔力を撒き散らしている者が歩いていた。
「ああん? あそこに倒れてるの、サナじゃねえか!?」
「だったらあれが!」
「サナ王女か!」
そして、これだけの魔力を撒き散らしているのは、魔道士オーデルグに違いないだろうとルーツは思った。
「ネロ、シンディ、上空で待機していてくれ」
「私たちが行ってくる!」
「なに!?」
「ちょ、あなたたち!」
ルーツとサナはルーンドラゴンから飛び出した。自由落下していくが、着陸の前に風魔法でスピードを和らげる。
勢いよく着地し、音が響き渡った。
「な、何だ……!? 誰が来たんだ!」
倒れている人が呟いた。
「え……? ル、ルーツ……!?」
「サ、サナ王女も……! え、どういうことなの!?」
さらに別の男女も声を上げた。恐らくサナ王女の仲間なのだろうとルーツは思った。
そして、闇の魔力を撒き散らしている男もルーツたちに振り向いた。
顔が分からない。視認できるほどの闇の魔力が、その顔をぼやけさせているからだ。
「サナ、王女を」
「ええ」
サナは仰向けに倒れてピクピクと痙攣している女性の元に駆け寄った。
「な、何だと……!? 一体、何者だ!?」
黒の男がルーツを見て驚きの声を上げる。闇の魔力の影響か、声までも雑音まみれだった。
「あんたがオーデルグか? 探したぜ」
ルーツが言った。
ルーツはオーデルグの事情を知らない。彼と、倒れている者たちの間に何があったのかも。
しかし、だからこそ、世界の破壊を食い止めるという目的だけを持って、オーデルグと対峙した。
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