27 武術大会(ルーツ視点)
俺はブルーニーとバスティアンと共に武術大会の会場に入った。大きなコロシアムだった。しかし、宗教国家のイベントだけあって、興行目的ではない。観客は関係者など、少人数だった。
国の強者たちが腕自慢のために参加しているようだった。噂を聞きつけた外国の冒険者の姿もある。
優勝者には王への挑戦権が与えられ、王に勝った者には大いなる力が与えられる。参加者に明かされているのはここまでだ。かかっている景品が暗黒竜ラグナロクの封印石と知っているものは少数だった。
選手控え室に向かう前に、付き添いで来ていたサナ王女、ジャック、リリィと合流する。
「みんな、気をつけてね。どうか、誰か勝って」
そう言いつつも、サナ王女はバスティアンに抱きついた。バスティアンもサナ王女を抱き締め返す。やれやれという心境だ。
「ルーツ、もう行きなよ」
リリィが話しかけて来た。いちいち見ている必要はない、さっさと行けということだ。
「リリィ、すまないな」
「ルーツ、こんなことになってしまって、色々すまない」
「どうしてジャックが謝る? ジャックもリリィも、そんなに良い人だと、悪い奴らに利用されちゃうぞ」
俺はジャックたちに声をかけ、選手控え室に向かった。
「お前ら、俺たち帝国のせいで、数奇な運命を辿らせちまったな」
ブルーニーはジャックとリリィにそう言うと、俺を追いかけて来た。
しばらくすると、バスティアンも選手控え室にやって来た。俺とは目を合わせない。随分前からずっとこうだった。俺もいちいちバスティアンに構う気は無かった。
予選は、大人数でのバトルロイヤル方式だ。各選手の力を予め測定し、強者同士が潰し合わないように組が作られた。俺もブルーニーもバスティアンも、別の組となった。少なくとも同じチームでの潰し合いは起こらない。
組には、10人程度の選手が揃っていた。戦士と魔道士が半々。俺は魔法剣を使い、体力を使わないように対戦相手たちを場外に吹っ飛ばし、予選を通過した。ブルーニーとバスティアンも危なげなく予選を通過したようだった。
残った8人で決勝トーナメントが行われる。それは、同じ日の昼過ぎからだったので、俺たちは一度合流した。
「良かった、3人とも残って!」
サナ王女が嬉しそうな声を上げる。当然のようにバスティアンとイチャついているのは放っておいた。
「で、他の皆は?」
「街に散らばってる」
「今の所、オーデルグ一味が現れた形跡は無いそうよ」
「そうか……」
俺とブルーニーは、しばしジャックとリリィと話した。
しばらくすると、トーナメントの対戦表が出来上がった。上手く事が進むと、俺は決勝でバスティアンと当たる。
「ルーツ」
「どうした、ブルーニー?」
「仲間同士が当たった場合は体力温存のためにどっちかが引くべきだとは思う。けど、決勝でお前がバスティアンと当たったら、好きにして良いんじゃないか?」
「随分なことを言うなぁ、お前も。優勝者は王とも戦わないといけないんだぞ」
「それでも、だよ」
大局を見れば、そんなことをすべきじゃない。ブルーニーも分かっているはずだ。それでもこう言ってくれるのは、俺とサナ王女の関係に、ブルーニーも思うところがあるからかもしれない。
「ちょっと、ダメよ、そんなの!」
どうやらサナ王女も聞いていたようで、俺とブルーニーに食って掛かって来た。
「もう、これ以上、個人の感情なんかで危機を広げないで!」
「あんたはいいさ。個人の感情とやらはバスティアンと舐め合えるんだからな」
「ブルーニー! どうしてそんなこと言うの!?」
「他の皆のメンタルがどれだけボロボロになってると思ってんだ、あんたは。ルーツだけじゃねえぞ。ちょっとは周りを見ろ!」
「!?」
ブルーニーの突然の追求に、サナ王女は黙ってしまった。ジャックとリリィも何も言わない。バスティアンも下を向いたままだった。
正直、他の皆のメンタルなんかに、俺は気を回していなかった。確かに、皆のバスティアンへの当たりが強いとは思っていたが。そういうことを敏感に感じ取れるブルーニーはやっぱり凄い奴だ。
「行こう。仮定で話していても仕方ない」
俺はそう言うと、ブルーニーと共に選手控え室に戻って行った。
俺の最初の相手は重装備の戦士だった。だが、それは魔法剣を使う俺と相性が良く、バスティアンの真似をして、雷魔法を一瞬だけ剣に伝わらせ、相手の装備の上からダメージを与えることで簡単に勝利することができた。
バスティアンとブルーニーも危なげなく初戦を突破した。彼らは準決勝で当たってしまうが、ブルーニーの申し出で、バスティアンが上に行くことになった。
俺の準決勝の相手は魔道士だ。国内の有力魔道士らしい。しかし、大悪魔ジャークゼンやドンドルスに比べれば繰り出す魔法も遥かに弱い。彼の放つ魔法を魔法剣で弾き、場外負けにさせることで俺の勝利となった。
ブルーニーは3位決定戦も棄権したため、その魔道士が3位ということになった。残るは、俺とバスティアンの決勝のみだ。
俺は武舞台の上でバスティアンと睨み合う。
「ルーツ、やる気なんだな……?」
「ああ。正直、俺はそうしたい。あんたはどうなんだ?」
「……私が魔法剣で勝ったら、もういたずらにサナを傷つけるのをやめろ」
「随分な言い分だな。俺が傷つけられるのは良いっていうのか?」
「彼女に背負わせるな! お前は男だろ! 引くところは引け!」
「勝者の言い分だよ。実に帝国らしい」
「!?」
試合開始の合図と共に、バスティアンが突っ込んで来た。相変わらず洗練された魔法剣だ。剣に魔法を伝わらせたことがほとんど分からない。
俺も魔法剣でバスティアンの剣を受け止める。バスティアンは連撃で俺を追い詰める。
「ぐぅぅ!?」
ただの剣技だけでも、ブルーニーを仕留められそうな技術だ。それに魔法が乗っているのだから強い。分かっているつもりだったが、実際に対戦してみると、本当にスキが無い。
「うぉお!」
俺は気合を入れて強打を繰り出す。バスティアンはまともには受けず、華麗に受け流すことで俺と距離を取った。
「はぁっ! はぁっ!」
俺は、あっという間の息切れ。バスティアンは涼しい顔。実力差は明らかだった。
「ならば!」
俺は剣に伝える魔力を高め、一撃必殺にかけることにした。バスティアンの方に踏み込み、その一撃を放つ。
「来い!」
バスティアンは避けることはせず、それを受けに行った。完全勝利を狙っているのだろう。渾身の力で撃ち込んだその一撃は、バスティアンにあっさりと防がれ、バスティアンが俺の左肩に剣を突き立てて来る。
「ぐっ!?」
剣が肩に刺さった。俺の左手がブラリと下がり、血が滴る。
「ルーツ、終わりだ! その腕ではもう剣は使えない!」
俺は、ペタンと座りこんだ。
「ああ、そうだな……」
そして、右手を突き出し、風魔法を唱えた。
「なにっ!?」
不意をつかれたバスティアンが吹っ飛ばされ、場外に落ちた。
「勝者、ルーツ!」
審判の声が響く。
「バスティアン!」
決着がつくや否や、サナ王女が走り込んで来た。真っ先にバスティアンのところに駆け寄る。
「大丈夫!?」
「サナ……。ああ、大丈夫だ。ちょっとビックリしただけだ」
「良かった……」
サナ王女はバスティアンに手を貸し、バスティアンはその手を掴んで起き上がった。
「ルーツ、これで満足? 勝ったじゃない、バスティアンに」
「いや、俺の負けだ」
「何を言って……っ!?」
サナ王女がこちらを見ると、左手から滴っている血に驚いたのか、絶句した。
「サナ、君の言う通りだ。魔法剣ならバスティアンが上。君こそ、これで満足だろう?」
「ち、血が……! 左手、大丈夫なの!?」
「王との戦いで魔法剣は使わない。左手は必要ないから大丈夫だ」
「い、いや、そういう事じゃなくて!」
意外だ。サナ王女は俺と王の戦いではなく、俺の怪我を心配しているようだった。まだそんな心も残っていたのか。
「俺の心配より、バスティアンの心配だろ。どこか打ったところが無いか、見てやりなよ」
「何でそんなこと言うの……」
何で、か。君がそれを言える立場か? 俺はそんなサナ王女に目を向けず、そそくさと控室に戻った。
王との対決は明日だ。それまで、どう戦うかプランを練ることにした。
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