26 封印を守る地(ルーツ視点)
俺は破壊神討伐チームの飛空艇に合流した。結局、俺の思惑とは関係なく、各地で反帝国同盟は蜂起を始めた。帝国にとっては痛い状況だろう。他国への侵略を中止し、蜂起の抑え込みのため、部隊を再編成するケースが多くなっていた。
俺は、飛空艇の大会議室でチームメンバーに状況を報告した。皆、沈痛な面持ちだった。
「私、破壊神のことを知らなかったら、蜂起に参加してたんだろうな……」
「俺もだよ」
「でも、真実を知ってるとなぁ。同盟にも破壊神のこと伝えた方が良いんじゃないか」
メンバーが口々に言う。
「まず、そんな話、信じて貰えるかどうかだな」
「そうね。私たちだって、大悪魔ジャークゼンと戦ったからこそ、破壊神の存在を納得できたわけだし」
ジャックとリリィが言った。
「サナ王女とバスティアンは?」
「創造神サカズエに会いに行ったっきり、帰って来ない」
「二人で駆け落ちでもしたんじゃね?」
「だったら、このチームも終わりだな」
俺の質問に、皆から想像以上の辛口コメントが返って来た。皆もあの二人に不満を抱えているのだろうか。
「そのうち帰って来るだろ。来なかったら俺が探し出してぶん殴る。この仕事からは逃げさせねーよ」
ブルーニーが言った。皆も賛同の声を上げた。本当に、影のリーダーというべき存在感だ。
「まあ、慰め合ってから帰って来るんじゃないか」
「あなたが言うと、まるで自虐ね、ルーツ」
俺とサナ王女の昔のことはもう皆知っている。腫れ物に触るような対応を取られることもあれば、このように直接突っ込まれることもあった。
◇
翌日、サナ王女とバスティアンが戻って来た。次の目的地は宗教国家スオードとなった。
「暗黒竜ラグナロクが封印された宝石を手に入れる。その後、その封印石は帝国で厳重に管理する」
「奪い取るってことか?」
「いや違う。スオードでは、年に一度、封印石をかけた武術大会が開催される。その優勝者はさらにスオード王と戦い、勝利すれば封印石を手に入れて大いなる力を得られる、という趣旨の大会だそうだ」
「そんなヤバいものを封じた石を手に入れられる大会があるってのか?」
「歴代、王に勝った者はいない。王は、そうすることでラグナロクの封印を守護する役目を代々果たし続けているそうだ。誰にも負けない力を持つ運命を課され、それが創造神への忠義だと」
「つまり、誰かが優勝して王にも勝つってのか?」
「そうだ。帝国はできればスオードを攻めたくない。だから正攻法で手に入れる」
「なにそれ? 私たちの国は攻めたのに、スオードは攻めたくないって……」
「すまない……。封印石入手に失敗したら、その時は攻め込んででも手に入れるそうだ」
「結局、最後は武力か。帝国らしいな」
「以上だ……。大会に挑むメンバーは、こちらで選別する」
バスティアンはうつむきながら大会議室を後にし、サナ王女が追いかける。
「バスティアン、ほんっと打たれ弱いな」
「ブルーニー、あなたがリーダーやったら?」
「冗談よせよ。俺にそんな資格は無いって」
皆はそんな冗談を言うと、大会議室を後にしていった。
「ねえ、ルーツ」
リリィが俺に話しかけて来た。
「どうした?」
「サナ王女はさ、確かに周りが見えなくなってると思う」
「リリィもそう思ってるんだ」
「う、うん。さすがにね……。でも、きっとサナ王女も不安なんだよ。破壊神討伐の宿命を背負わされてさ」
「病んでるだけだから、悪く思わないであげてってことか?」
「そこまでは言わない。でも、そう思ってた方が、ルーツの精神衛生上も良いんじゃないかと思って」
「あー……」
自分のことばかりのサナ王女と違い、リリィは純粋に俺を心配して言ったようだった。その優しさに、俺は胸が痛くなる。
「ありがとう。リリィは優しいな」
「無理しないで。あなたも私たちの友達なんだから」
そのままリリィはジャックと共に大会議室を出ていった。
俺はそのまま甲板に向かい、地平線を見た。
「長老……。皆……」
俺はかつて住んでいた村の皆のことを思い出す。
俺がやろうとしていることを、きっと皆は許さないだろう。でも、もう無理なんだ。この胸に宿る憎しみの炎はどうやっても消えない。
あの日聞いた、皆の悲鳴。ものが焼ける臭い。帝国とその協力者によってもたらされた地獄。ふと思い出す度に心が焼ける。
リリィに優しくされても、逆に心が傷んでしまうだけだった。
◇
スオードに到着すると、俺たちはほぼ全員で街に入った。一部のメンバーだけ連絡員として飛空艇に残った。大会への参加は3名しか認められなかったが、他のメンバーは、スオード内でオーデルグ一味を警戒する。大会参加メンバーは俺とブルーニーとバスティアンとなった。
宗教国家という名前の通り、住民は全員宗教服を着ている。外国人にそれを強制することは無かったが、街を漂う静かで厳格な雰囲気は、不祥事を起こすことを躊躇わせる雰囲気を持っていた。
彼らは、創造神を崇め、王が暗黒竜ラグナロクの封印を守り続ける宿命を背負ってはいたが、サカズエの正体そのものは知っていないようだ。帝国がサカズエと共にあることは、伏せることになった。
「ルーツ」
サナ王女が話しかけて来た。
「どうした?」
「ここでも、魔法剣を使うつもりなの……?」
「……そうなるな」
「何でそこまで……。ラグナロクの封印石、手に入らなかったら、帝国が攻めて来ちゃうんだよ?」
「君には、分からないさ……」
「ルーツ……」
俺は踵を返して、サナ王女から離れていった。そう、君には分からない、決して。
どうして俺が魔法を使わないのか、その本当の理由は別にあるのだから。バスティアンへの嫉妬だと思いこんでいるのなら好都合だ。このまま最後まで利用させてもらう。
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