25 魔道士と破壊神の対峙

 魔道士オーデルグは、暗黒竜ラグナロクと破壊神トコヨニを探していた。協力者を名乗っていても、オーデルグたちはトコヨニと直接会ったことがあるわけではなかったのだ。


 ラグナロクの封印場所は依然として不明だったが、トコヨニの気配を捉えることには成功していた。世界の各地にトコヨニの力が残されている場所があることをついに見つけ出した。


 後は、その力の残りを探っていけば、近いうちにトコヨニのいるところに辿り着けると思ったのだ。しかし、その探索は思わぬ形で終わりを迎えることになる。


「私を探しているというのは君たちかね?」

 オーデルグが同志たちと会議をしている時、どこからともなく声が聞こえて来た。その声は、自分がトコヨニだと名乗ったのだ。


「あなたが破壊神トコヨニだというのか?」

「いかにも、人間の子よ。代表者は誰だ?」

「私だ。我が名は魔道士オーデルグ」

「宜しい。直接会おうではないか。ここに、オーデルグ一人で来るがいい」

 地図の中に赤い文字が浮かび上がる。それは、オーデルグたちの拠点の近くの洞窟だった。


「向こうから呼び掛けて来たか、面白い!」

「旦那、さすがに罠なんじゃないですかね?」

 オーデルグにブラストが言う。


「そうよ。せめて私とブラストも連れて行くべきよ」

 ヒルデも続いて言った。


「いや、一人でいい。トコヨニの思惑に乗ってやるさ」

 オーデルグは同志たちに挨拶をすると、一人、アジトを出ていった。



    ◇



 オーデルグは洞窟に到着し、中に足を運ぶ。しばらく進むと周囲を青い炎に囲まれた空間があり、そこにクリスタルが浮かんでいた。


「来たか。このような姿ですまぬな。人の形に変身することもできるのだが」

「そのようなお気遣いは無用。その魔力をひと目見れば破壊神と分かる」

「ふ……さすがだな、魔道士オーデルグ」

 オーデルグは、目の前のクリスタルが破壊神トコヨニだと、見た瞬間から確信していた。それが分かるくらいには、彼は強力な魔道士だった。


「お初にお目にかかる、破壊神トコヨニ」

「初……か。さすがに覚えてはおらぬか」

「む?」

「お主と会うのはこれが初めてではない」

「なんですと?」

「当時、お主はまだ3歳ほどだったか。覚えていなくても無理はない。幼いお主をひと目見てすぐに分かった。類稀な魔道士の才を持っていると。私の目に狂いは無かったようだな」

「恐縮です……」

 オーデルグは素直に驚いた。自分が既に破壊神トコヨニに会っていたなど、想像もつかなかったのだ。


「それで、私の協力者と名乗っていたようだが?」

「ええ。我々の目的は世界の破壊。あなたの目的と相違ないはず」

「そのようだな。どうして世界を破壊したいのだ?」

「人間の世は、長すぎたのですよ。世界を牛耳るには、人間は愚か過ぎる。かつて、あなたと創造神サカズエが戦い、破壊と創造が繰り返されたことでより賢く、強いモノが生まれて来た。それをもう一度やろうというのです。より健全な生命を生み出し、新たな世界の支配者とするために」

「はっはっは。世界を破壊した後は、新たなモノの創造か。それでは私の協力者とは言えないのではないかね?」

「しかし、あなたの使命は果たされるはずです」

 オーデルグはクリスタルを真っ直ぐに見る。オーデルグにとって、正直、トコヨニの意志はどうでも良かった。もし、協力を拒むというなら、トコヨニの配下と同じく、力を吸収する計画だ。


「トコヨニ、我々と共に歩みませんか?」

「創造の協力はできんな。それに、私はサカズエの創造物である人間とは組まぬよ」

「そうですか……。残念です。ならば、無理やりあなたの力を奪うのみ」

「無理やり奪う必要はない。さっさと吸収するがいい」

「なに?」

「私はもう人間のやることに口を挟まん。破壊と創造が目的なら、好きにするがいいさ」

 思いも寄らない投げやりな言葉にオーデルグは面食らってしまった。


「もう、何連敗したか、忘れてしまったな。サカズエが今の世界を創り、人間が台頭してからは、私は全く勝てなくなった。いつか、もう一度サカズエに勝ちたかったものだが」

「そうですか。残念でしたね」

「オーデルグ。お主も人間だ。魔道士としての才があろうと、そこからは逃げられぬ。断言しよう。お主の夢は儚く散る」

「…………」

「しかし、本当に分からぬな、人間とは。一致団結して私に立ち向かったかと思えば、人間同士で傷つけ合ってお主のような存在が生まれる。理解不能だ」

「……俺にも、分かりませんよ」

 オーデルグはそう言うと、紫の宝玉をかざした。クリスタルが吸収され、トコヨニの声は聞こえなくなった。


「俺は、走り続ける。を果たし、世界を変革するまで……」

 オーデルグは小さな声で呟いた。

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