28 王との戦い(ルーツ視点)

 俺は包帯で固定された左手でチームメンバーが集まっている宿の一室に向かった。チームメンバーは悲鳴を上げていた。


「おいおい、ルーツその腕……!?」

「優勝したって言っても、大丈夫なの、それ!」

「バスティアンの野郎、バカじゃないのか!」

「いや、皆。戦いを望んだのは俺の方だ。この件でバスティアンは責めないでくれ」

 俺がバスティアンを擁護するとは。我ながら苦笑する。


「でも、それで明日は大丈夫なの?」

「ああ。策はある」

 俺はそれだけ皆に伝えると、自分の部屋に戻るために廊下に出た。


「ルーツ」

 すると、ブルーニーが話しかけて来た。


「ブルーニー、どうした?」

「お前、大丈夫か?」

「え? いや、怪我は心配ないさ」

「いや、そうじゃない。お前、大会から帰って来てから、思いつめた顔してんぞ」

「!?」

 ブルーニーは本当に人のことをよく見ている。明日に向けて、俺がを心に巡らせているのを見破られていたようだった。


「……大丈夫だ」

「ホントだな? 信用するぞ?」

「……ああ」

 俺は返答するのに少し時間がかかった。しかし、ブルーニーはそれ以上追求して来ず、歩き去って行った。


「ブルーニーが、一番鋭かったな」

 俺は小声で呟いた。



    ◇



 翌日。

 昼からの王との戦いに備え、俺は準備を整える。他の皆は、オーデルグ一味の警戒に出ていた。


 そして、時間となり、俺は何人かの付き添いメンバーと共にコロシアムに向かった。


「ここまででいいよ。今日は関係者も入れないらしいから」

「そっか。頼んだぜ、ルーツ」

「しっかりね」

 俺は皆と別れ、コロシアムに入っていった。


「ごめんな皆。本当にごめん」

 サナ王女やバスティアンはともかく、他の皆は優しい奴ばかりだった。さすが、正義感のある者で選別されたチームだ。ほんの少しの時間を共にしただけだったが、俺は謝罪の言葉を呟かざるを得なかった。


 でも、俺は皆とは違う。帝国士官アカデミーで同じクラスになったのは、反帝国同盟の活動として潜り込んだというだけだ。帝国上層部が選別したのではない。だから、皆は俺の出自を疑わなければならなかった。



    ◇



 時間となり、俺は武舞台で王と対峙する。王は銀色の甲冑に、人の手で持てるとは思えない大きさの大剣を持っていた。


「よく来た優勝者ルーツ。存じていると思うが、私に勝てば、そなたに大いなる力が授けられる」

「ええ、知っています」

「しかし、それは人の手に余る物なのだ。私は王として、それを渡すわけにはいかぬ。そうすることがこの国の王の定め。左腕を怪我しているようなのにすまぬが、全力で行かせてもらおう」

 王が剣を構える。


「見れば分かりますとも。その大剣を振るうために身に付けた筋力に、身体を巡る圧倒的な魔力。余程の修練を積まれたようですね」

「称賛は無意味。さあ、かかってくるがいい、ルーツよ!」

 いや、称賛するさ。その強さを身に付けて来たのはあなた一人ではない。歴代の王全てがそうして来たはずなのだから。


「王よ、一つ訂正させてもらう」

「何かね」

「ルーツの名は捨てた。今は、別の名を名乗っている」

 そう、それは3年前に捨てた名前だ。今の俺の本当の名前は……。


「我が名は魔道士オーデルグ。王よ、いざ参る!」

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