21 思い出の地(ルーツ視点)

 破壊神トコヨニの配下を探すため、俺たちは飛空艇で飛んでいた。トコヨニの配下を感知できる特殊な魔法道具を使って怪しい場所の探索だ。前回の大戦で配下が封印された場所を中心に探索したが、成果はなかなか上がらなかった。魔法道具が反応するかどうかを交代制で監視する日々が続いていた。


「創造神サカズエも、結構アバウトだな」

 俺は魔法道具の前で呟いた。いや、そうじゃないな。きっとサカズエは連続で勝利しているから、慢心しているのではないか。ある程度適当でも勝てると思っていそうだ。


 それは愚かなことだと思う。特に、今回の大戦においては。


「あー、うざい!」

 部屋にブルーニーが入って来た。不機嫌なのを隠す気もないようだった。


「ブルーニー、どうした?」

「ルーツか……。いや、上の部屋がうるさくてよ!」

「上の部屋?」

 ブルーニーの上の部屋は……、サナ王女の部屋だ。さっきバスティアンが歩いて行ったのが見えた。クソのような想像に俺はウンザリする。


「この飛空艇、防音はちゃんとしてるけど、上の部屋からの物音は通るんだよ。もう明らかにベッドがギシギシ言う音が聞こえてうるさくて部屋にいられやしねー!」

 ブルーニーは俺の前でもあまり隠そうとせずに堂々と言った。


「サナ王女、最近、人前でも構わずにバスティアンとイチャついてやがるしな。ルーツ。お前、あの女のことはとっとと忘れていいと思うぞ」

「……ブルーニー、お前いい奴だな。そういう奴ほど早死にする。気をつけろよ」

「露骨に話を変えんなアホ……。サナ王女、確かにスタイルは良いし美人だけど、いつまでも想ってたら辛いだけだぞ」

 ブルーニーは吐き捨てるように言った。豪胆に見えて良い奴なのだ、この男は。


 俺はトコヨニの配下を感知できる魔法道具に目をやった。正直、元のままの性能で探索をしていても埒が明かないから、俺の番の時は密かに魔力を与えて、探索範囲を大幅に拡大している。そろそろ反応があっても良い頃だと思う。


「で、どうなんだ? 破壊神の配下の反応は?」

「本当にこんなので見つかるのか、って言いたくなるところだけど……。お? かかったかな?」

 ついに反応があった。場所は……霊峰ギガントだった。



    ◇



 飛空艇は霊峰ギガントを目指して進んでいく。いつものように大会議室にチームメンバーが集まった。


「次なる目的地は、旧ミストロア王国領の霊峰ギガントだ。この季節は闇の魔力が渦巻いていて、雷雨も強い。特に、闇の魔力のせいで生命がとどまれない荒れ果てた場所だ。確かに、破壊神の配下にはうってつけの隠れ家かもしれない」

 バスティアンが状況を説明する。しかし、部屋の空気は重い。先日、メルトベイク帝国が、別の国に攻め入ったという情報が入ったからだ。帝国に反感を持つ者が多いチームであるので、雰囲気が相当に悪くなっていた。


「バスティアン! それはいいけど、帝国の続報は無いのかよ!?」

「そうよ! 私たちの使命は破壊神を倒すことかもしれないけど、状況ぐらい教えてよ!」

「……すまない、我々には不要と判断されて、情報が回って来ない」

「何よそれ!」

「使えねーな!」

 バスティアンは帝国の代表者でもあるので、皆の矛先になっていた。


「霊峰ギガントは闇の魔力に対応できる精鋭で乗り込む。残る者は、魔道士オーデルグ一味への警戒だ。話は以上だ……」

 バスティアンは力なく部屋を出ていった。サナ王女がそれを追いかける。


 俺は個人的な感情もあり、バスティアンのフォローに回る気は無かった。それに、俺や誰かがやらなくても、どうせんだろう。


「皆、悪い。俺も情報を集めたい所なんだが、皆も知っての通り、うちの実家に回ってくる情報なんて限られててよ」

 ブルーニーが皆に頭を下げる。ブルーニーは帝国の名家生まれだったが、当主が政治争いで盛大にめられ、今は没落の身だそうだ。ブルーニーがこのチームに配属になったのも見せしめの一環らしい。ある意味帝国の被害者とも言えるブルーニーに同情的な者は多かった。


「作戦の準備に移ろうぜ」

 ブルーニーのその言葉に、皆は素直に席を立って準備に入った。正直、バスティアンよりリーダー向きなんじゃないかと思う。



    ◇



 1時間ほど飛空艇が進むと、目的地が見えてきた。


「霊峰ギガント……か」

 思い出の地には違いない。何も知らなかったあの頃、ただ恋していた少女との約束が残る因縁の場所。そこへ彼女と別の目的で向かうことになるとは、何という皮肉か。


「懐かしい?」

 サナ王女が俺の元にやって来た。俺の呟きを聞かれてしまったのだろうか。嫌なタイミングで現れる。


「面倒くさいことを聞いてくるんだな、君は?」

「そんな言い方しないでよ。あそこは私たちの故郷でもあるんだから」

「故郷か、上手い言い方だね。何ならあの大木のところにバスティアンと一緒に行ってきたらどうだい?」

「もう行ったよ」

「……!?」

 嫌味を言ったつもりが、強烈なカウンターが飛んできた。墓穴を掘ったのは俺だが、苛立ちで心拍数が上がってしまう。


「ルーツはさ、バスティアンの剣技の正体、分かってる?」

「剣技? ああ、魔法剣だろ?」

 他の皆が気づいているかは不明だ。だが、それはとっくに分かっていた。バスティアンの剣戟には洗練された魔法が乗っている。一瞬しか剣に魔力を流さないのは、魔力の消費を抑えるためだろう。


「さすがね。常人なら言われなきゃ分からない。それが分かるあなたも常人じゃない。ただ、魔法剣そのものの腕前だったらバスティアンが上。違う?」

「何が言いたい?」

「足を引っ張らないでね、ってことよ」

 サナ王女は感情の見えない声で言うと、去っていった。


「はぁぁ……!」

 何より、言い方が酷い。俺に魔道士としての戦いを求めて、もしかすると焦っているのかもしれないが、俺をバスティアンと比較する必要があるのか。その配慮の無さに、俺は憤りを隠さなかった。


「いや、でも待てよ……」

 一瞬、冷静になると、逆にかもしれないと、俺は思った。

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