16 作戦開始(ルーツ視点)
俺たちは旧パルミスタ国の
「ジャック、そっちはどうだ?」
「ああ、問題ない」
俺はジャックと共にテントを組み立てている。しばらくの間、ダンジョン内にいる破壊神トコヨニの配下の探索をすることになるから、ここで寝泊まりをすることになるのだ。
「すまない、ダンジョンは今、帝国の特別探索のため封鎖中だ」
「お帰り願おう」
バスティアンの配下の帝国兵が、ダンジョンを攻略しに来たと思われる冒険者を追い返している。ここが帝国領だからできることだ。冒険者は怒りながら帝国兵と話している。
目的のためとはいえ、帝国の力を借りているなんて。しかも、帝国を憎んでいる者たちに敵対するような形だ。仕方のないことだが、チーム内の多くのメンバーが憤りを感じているのではないか。俺はふとそう思い、周りを見回した。
ジャックとリリィは黙々と作業をしている。他のみんなも概ねそうだ。帝国人であるブルーニーとその取り巻きは、雰囲気の悪さを感じ取っているのか、気まずそうにしている。
サナ王女とバスティアンはこの場にいない。まだ飛空艇内で打ち合わせをしているとのことだ。それは無性に俺の心を騒ぎ立てる。二人はこのチームの中心でリーダーを務めるのだから仕方のないことかもしれない。だが、本当に打ち合わせをしているだけなのか。
「……」
俺は正体の分からない不安を感じつつ、キャンプ地の設立をこなした。
作業自体は滞りなく終了し、サナ王女とバスティアンも合流して来た。初日から早速調査に入ることになっている。第10層程度までは地図も作成されており、これまでに多くの冒険者が探索を行ってきただけに財宝も残されていないそうだが、俺たちの目的は潜伏しているトコヨニの配下の調査だ。どこにいるか分からないから攻略済の階層も調べる必要がある。
同時に3班ずつが中に入り、交代で各階層を調査していくことになった。俺たちミストロア王国班は、最初の回は待機となった。俺はジャックとリリィと一緒にテーブルに座り、地図を広げて、担当することになっている第5層の調査の相談をしている。
「地図ができているってのはありがたいな」
「でも、魔物はいるよ。気をつけないと」
「ああ。トコヨニの配下にバッタリ出くわす可能性もあるしな」
出くわした場合は深追いせず、援護要請をすることになっていた。そのために、全員が特殊な魔力石を持っている。魔力を通せば、地上まで衝撃波が届く。それが合図だ。
「サナとバスティアンも俺たちの班に加わるんだよね」
「そうだな。サナ王女はともかく、バスティアンも、ってのは俺としてはビックリなことだけど」
「仕方ないでしょう。あの二人、随分と長いこと一緒に破壊神対策をやって来たそうだもの」
リリィのその何気ない言葉にも心がざわつく。こんな大事な時に。でも、サナ王女とバスティアンを一緒に考えるのが辛い。なぜなんだろう。いや、本当は気づいているんじゃないか。ある可能性に……。
しばらくすると、1から3層の調査をしていた班が帰還した。破壊神の配下は見つからなかったようだ。俺たちは準備を整え、サナ王女とバスティアンと合流し、ダンジョンの前まで来た。
「全員が共に訓練したわけじゃないが、カバーし合おう。ルーツ、何か付け加えることは?」
バスティアンが俺に聞いてきた。俺に聞く理由もよく分からない。
「いざという時の召喚魔法のため、サナを消耗させない。それでいいな、皆?」
破壊神の配下に出くわした場合は召喚魔法が重要になる。それは皆分かっているから、肯定の返事が来た。
ダンジョンの中は、歴代の冒険者たちが設置したと思われる魔力灯が光っている。第5層まで下りても同じだった。ありがたい。
周囲に探知魔法を撃つと、第5層にも多くの魔物が生息していることが確認できた。だが、破壊神の配下はいない。それはすぐに分かったが、俺が魔法に詳しいことをバスティアンの前で晒すわけにはいかない。バスティアンの手にある探知の魔法道具で第5層を隈なく探すのを見届けるしかないのだ。
1から3層はあっさり調査が済んだようだが、それより下は広さもあるから1回では終わらないだろう。俺たちは時おり襲ってくる魔物を撃退しながら前進していった。サナ王女とバスティアンが上手く連携している中、俺は単騎で魔法剣を振るう。なぜか、少しずつ苛立ちが蓄積していった。
半分ほど調査が完了したところで地上に戻った。半分進んだのは良い方で、4層と6層の班は3分の1も進めなかったようだ。
既に夜も近く、この日の調査は終了となった。
夕食後、俺はふとキャンプ地から離れた。俺の最終目的とは別のことに苛立っている自分の頭を少し冷やしたかった。木々の先に、空の見える草むらがあったため、横になって星を見上げた。
「……」
昔、サナ王女と一緒に星を見たことがある。あの頃は良かった。毎日が輝いていた。俺が城に行くわけにはいかなかったから、サナ王女が村に来ることを毎日期待していた。あんな日々が、帝国さえいなければ続いていたはずなのに。
「ルーツ」
サナ王女の声だ。今は独りで考え事をしたかった……。
身体を起こして声の聞こえた方を見ると、そこにはサナ王女と、後ろにバスティアンがいた。胸に針が刺さったような嫌な感じがした。
「サナ、どうした?」
俺は冷静を装って返答する。サナ王女は俺の近くまでやって来た。
「姿が見えたから」
「ふーん。何の用?」
「もう。用がなかったら声かけちゃダメ?」
「そんなことはないけど……」
調子が狂う。昔は確かにそうだった。用もなく声をかけ合える仲だったと思う。しかし、ここで再会してからのサナ王女はそうではなくなっている気がする。
「でもまあ、用はあるよ。ルーツ、本当は第5層のこと分かってるんじゃない……?」
結局、用はあるのか。サナ王女の言葉に苛立ちが募る。確かにサナ王女は過去の経験から、俺が探知魔法を使えることは知っている。しかし、魔道士であることは隠すって伝えてあるはずじゃないか。
「探知魔法のこと? バスティアンの前でそれを明かすわけにはいかないさ」
「ルーツ。バスティアンを誤解しないで。彼は私たちが憎むべき帝国人とは違う」
「いやだから、そういう問題じゃない!」
バスティアンの人間性のことなど言っていないし、知らない! 俺は思わず声を荒げてしまう。
サナ王女は怯んだ様子もなく、瞬きをしながら俺を観察した。そして、続けた。
「気を悪くさせたのならごめんなさい。でも、ルーツが本気になってくれると探索も早まるし、きっと皆の危険も減る。それだけは覚えておいて」
サナ王女は踵を返し、戻り始めた。俺は一瞬バスティアンの方も見たが、バスティアンは俺と目を合わせなかった。
「ルーツ……」
サナ王女が立ち止まり、振り返った。
「なに?」
「……いいわ、なんでもない。きっと、今じゃない……」
そう言うと、サナ王女は今度こそキャンプ地のところまで戻っていった。
「はぁぁ!」
俺は強くため息をつくと、再び草むらに寝転がった。この苛立ちの正体が分からない。……いや、分からないんじゃない。分かりたくないんだ。なぜなら……
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