第11話

 今日も今日とて眠り姫のお世話。朝のアクシデントこそあったものの、姫様直々の飯の催促を受けて準備に取りかかる。もともと朝の食事の準備は祖父とエリック二人が交互に準備する当番制であり。そしてこの日はエリックの担当日だった。

 二人だけの時なら『適当に済ませて』と簡単に投げ出すことも出来たのだが、ここ最近いるお客様のために手抜きは厳禁になっている。

 お客様でもあるお姫様はおなか一杯になったかと思えばお眠の時間のようだ。どうにも夢うつつの状態がずっと続いてる状態のようで、完全に覚醒している状態ではない様子。

謎の銃が伝えてくる情報によれば健康状態に異常はなし。ただ完全覚醒には何かしらの契機が必要とある。

 この調子のために彼女からは何の情報も得られていない。彼女が何者で、なぜあの場所にいたか、など聞きたいことは山のようにあっても質問自体に答えてもらうのが無理があり、どうにももどかしいとすら感じていた。

 もう一つの情報源になりそうな謎の銃に関しても一方的な情報の提示があっても望む情報を得るための操作などはまだ難しい。そんな中で得たはっきりと理解できそうな新たな情報。再び眠り姫となった彼女をベッドへと運び。ようやく落ち着いたところで改めて確認作業へと移る。


恐ろしいと思えるほどの情報が詳細に書かれた例の地図だったが難点があった。それはその情報が現在のものではないということだ。地形などのどうにか判断できる情報からこの周辺地図であることこそ分かったが地名などの名称が全く違っていたのである。おそらくは大昔のこの周辺地図なのだろう。確認のためには現在の地図と照らし合わせる必要がある。


「えっと確かここに片付けてあった…はずっと―――あった」


 物置部屋から引っ張り出してきたのは古びた地図。祖父が現役だった頃から使っている年代物の周辺地図である。使い古したそれは朝見た地図とは雲泥の差と言えるほどに粗末なものだが、あちらにはない強みもある。祖父が実際の冒険の都度に書き足していった手書きの情報達。それは探索者にとって千金に勝ると言える貴重なもので今のエリックにとっても重要なものだった。


「どこかで見たことある場所だとは思ってたんだよ。でもただの周辺地図と重ねてみても何も分からなかった」


 朝の時点で別の周辺地図と照らし合わせて目的地を確認していたのだが、山の中であるという情報しか読み取れなかったのだ。ただ頭の中で何か引っかかるものもあって思い出したのがこの地図で。


「それはそうだよな『遺跡』の場所なんて一般人にはいらない情報だもの。」


 そこに手書きで書かれていた情報とは―――


「『第二世代型遺跡群 魔女の里』か」


一つの遺跡の名前だった。


  引っかかっていた謎は解決した。小さなころから祖父の話を聞き続けて探索者に憧れを持っていたオレ。その祖父の昔語りの時に見せられたのがあの手書きの地図だった。その存在を知った時から何度も強請って見せてもらい。それこそ食い入るように隅から隅までを眺めてきた幼き日々。恐らくその時の記憶が残っていたのだろう。


「と言っても分かったのは名前『のみ』なんだよな。自分だけで調べるのは限界か…。となれば聞くしかないかこの地図の持ち主に。少なくともオレより情報を持ってるのは確実だろ」

 

善は急げと向かったのは家の書斎。その場所は地図の作成者である祖父ロランドの日常における定位置である。


「何じゃ慌ただしい、扉はもっと丁寧に開けんかい」


向かってきた勢いのままバタンと大きな音をたてて書斎の扉を開ければ迎えたのは気難しそうな声。注意を受けて今度は静かに扉を閉める。


「あの娘はまた寝たのかの?」


「ああ。相変わらずお腹いっぱいになった後はぐっすりだよ」


小言を続けられるかと思いきや、続けて出たのはこの家の新たな同居人の様子を気遣うかのような言葉。彼女に対してどう思ってるのかしっかりとした話し合いはまだ出来ていない。あまり感情を面に出さない祖父であるため予想も出来ていなかったのだがどうやら心配するくらい気にはしているらしい。


「何も説明も出来てなくて悪いね爺ちゃん。自分でもまだ整理しきれてないんだ」


「大まかに聞いた限りでも込み入った事情のようじゃからな。急かすつもりはない。考えがまとまったらしっかりと話してくれればそれで良い」


分かり難いがこちらを気遣うかのような言葉には嬉しく思う。


「それに…何故か、わし自身もあの娘が気になる。この胸騒ぎに似たナニカかがワシも説明出来んからの」


ほっこりとした気持ちに浸かっていたためかその後の祖父の呟くような言葉は聞き取れない。

少し気になり聞き返して見たものの『気にするな』という返事で終わり。これ以上聞き返しても答えは返してくれなさそうだ。

仕方がないのでそれの返事をもらうのは諦めた。何せ今一番聞きたいことは別にあるのだから。


「爺ちゃん、『魔女の里』って遺跡のこと教えてくれない?」


 


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三度目の世界の反逆者 虎太郎 @kuromaru

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