第6話

装置が動き始める、扉がスライドすると中にいた少女が前へと倒れこんできた、それを慌てて抱き止める。

密着した体から伝わってくる体温と鼓動、そして微かな呼吸の音。少女の身体は永い時を経て再び動き出したようだ。


 少女の柔らかい体を抱き止めたことで緊張で一瞬固まってしまった。


「ふぅ…まだ寝たままか。にしても名前が鍵になってたのかよ。まだ遺志を継ぐだの了承するだのしてないんだけど。それにそもそも神の打倒って何だよ」


少女がまだ安全に目覚めてない事に気づいて何とか落ち着きを取り戻すことが出来た。とりあえずいまだ眠り続けている少女地面へと寝かせた後で1人ごちる。改めて観察してみるが眠ったままであること以外異常は見当たらない、時機に目も覚めるだろう。


 生命維持装置の方は徐々に光が消えていき完全に機能を停止させてしまったようだ。これでもはや見なかったことには出来なくなってしまった。


 


 ため息をつきながら、次に視線は自然と『銃』の方へと向く。


「グレイプニルだったか、これもアーティファクトの1つ何だろうけど、いわくつきの武器とか厄介事の気配しかしないな…さてどうするかな」


 しばらく考えを巡らしてみるが特に良い考えは浮かばなかった。どうやらこの部屋が最終地点だったようで先に続く通路も見当たらない。

 


 



 ここにこのまま居続けても仕方がないという結論に至り、この遺跡から脱出することを決めた。いまだ眠りから覚めない少女を抱えて歩き出す、迷った末に『銃』も一緒に持っていくことにした。


 部屋を後にして階段がある場所までやってきたところで先ほどの戦闘のことを思い出した。その時に脇腹に傷を負ったはずなのだが痛みがない、傷口を確かめようと手を伸ばす。


「傷がない? 服は裂けてるし血の跡も残ってる…なのにないって、こんな短時間に治るはずもないだろ?」


 不思議なことに服などに傷を負った形跡があるものの傷自体はきれいさっぱり無くなっていた。再び混乱する中で別な異変にもようやく気が付いた。

 今いる場所からあの不思議な部屋までの歩いてきたその場所を見渡すーーーがあったはずのものがなくなっている。


「…何でいない?」


 それは先ほどの戦闘で倒したはずの男たちの亡骸だ。最後の一人まで間違えなくとどめは刺したはずである。自分でいなくなるなんてありえない、なのに現に目の前からなくなっている。

 

可能性があるとすれば―――そこまで考えたところで殺気を感じて少女を抱えたままでとっさに横へと転がった、自分が元いた場所から聞こえてくるのは何かが地面へと突き刺さる音。振り向けばそこには一本の槍が突き刺さっていた。


「今のを避けるか…ただのガキではないようだな」


声が聞こえてきた方向へと顔を向けるとそこにいたのは黒い鎧を全身纏った5人の騎士らしき集団だった。

こちらへと決して友好的とは思えない鋭い視線が向けられている。


「お前は何故ここにいる。私たちの仲間がここで殺されていたんだが、もしかしてお前の仕業か?」


そのうちの1人からかけられた質問に冷や汗が流れ出る。みれば男達の装備は先ほど倒した男達と同種のもののようだ。フルフェイスの兜がない他はまったく同じのように見える。


「ど、どうだったかな~。俺は偶然にこの場所を見つけただけだよ。それに俺が来たときにはもう倒れてたような気もするけど?」


誤魔化すような受け答えをしながら2歩、3歩と後ろに下がり距離をとる。そして、ある程度の距離が取れたところで抱えていた少女を後ろの方へとおろした。


自由になった両手で武器をこっそりと取り出す。右手には使えるかわからないが先ほど見つけた銃を、左手には先ほども使った短剣を握る。


先ほどの戦闘では相手の隙を縫って上手く倒すことが出来たが、仲間が倒されていたことで警戒している今回はその方法は使えそうもない。


「そうか。ところでその手に持っている銃はなんだ? 俺達が探しに来たものと似ているのだが、それをなぜお前が持ってる。それとそこで寝ている娘は…」


武器を取り出していたのはどうやらバレていたようだ。


しかし、その言葉で男達の目的がはっきりした。先ほどの奴等も部屋で何かをしようとしていたが、どうやらこの『銃』がそのターゲットだったようだ。


 さらに少女に関しても何かを知るようだが、その目は獲物を見つけたかのようなギラギラとしたもので友好的なものとは思えない。


男達は無言で視線をかわすと剣を抜き放つ。


「おいおい、いきなり剣を抜くなんて穏やかじゃないな。もしかしてそんな反応をするってことはあんたたちの目的ってこの銃の事なのかな?」


「その通りだ。それとどうやらそこで寝ている娘にも用が出来てな、連れてかせてもらうぞ」


「もしも仮にだよ? 素直に渡すって言ったら俺の命は助けてくれたりするのかな?」


「ふん、この場をみた時点でそれは無理な提案だな。それに仲間を殺してくれたのはやはりお前なんだろう」


時間稼ぎのつもりだった問いに意外にも返答があったので続けて提案をしてみるが、それはすぐに却下されてしまった。


「まあね。やっぱりこうなるか」


それは予想通りであったし、無論了承されたとしても少女の身柄を引き渡すつもりは全く無かった。


 それはいつの間にか心の内に生まれていた少女を守らなければならないという使命感からか、それ以外の感情からなのか自分自身でもよく分からない。


ともかく今は目の前の障害を排除するしか、少女を守ることも自分の命を守ることも出来ないというのが確かなことだった。

 

 覚悟を決めて逆手で握った短剣を前で構える。戦闘姿勢を取ったところで先ほどからこちらの問いに答えていた男が一歩前へとでてきた。


「ほう、戦うつもりか? 抵抗しなければ一瞬で楽に死ねたものを…こいつは俺がやろう。お前たちは下がっていろ」


 どうやらその男がリーダー格だったようで、命令を受けた他のメンバーが後ろへと下がった。一度に複数を相手にする必要はどうやらないようだ。

 だがそれに安堵する余裕もない。長剣を構えた男と視線がぶつかる、その持った雰囲気からかなりの実力者であることが窺い知れた。

 様子を探るが相手が動き出す気配はない、雰囲気にのまれたらこちらが負けると感じ先制攻撃をかけることを決める。

 

 臆しそうになる内心をを叱咤して走り出す。相手は重装備、ならば早さはこちらにアドバンテージがあるはず、相手までの最短距離を駆け抜ける。

 その途中にひっそりと地面の砂を拾い、敵目前でそれを相手の顔面へと投げつける。卑怯などという考えは頭の隅へ勝つために手段など選んでいられない。簡易煙幕で作り出した隙に死角へと回り込み鎧の隙間めがけて短剣を突き出す。

 その瞬間にガキンと金属のぶつかる音が響いた―――奇襲は失敗に終わった。ギリギリで滑り込んできた長剣に阻まれてしまったのだ。


「小細工を!!」


 怒号とともに短剣を弾いた長剣が円を描きそのままこちらの正面へと振り下ろされる。その攻撃を短剣で受け流すようになんとか避けるが、続けられる連撃にさらされる。奇襲が失敗したことを後悔する暇もなく防御と回避に専念さざるおえない。

 苦肉の策で左手に持つ銃を使うことも考えたがその引き金は固くやはり引くことすらできない。せめてその銃身を防御にまわすくらいだった。

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