第5話

その部屋は不思議な空間だった。

 

まず目に入ったのは、先ほどの幾学模様の壁とも異なった様々な光を放つ壁によって囲まれている。


その光は様々に形を変え続けている。これまで見てきたものとは大分雰囲気が異なっている。それを呆けてみるうちにあることに気が付いた。


「あれ、これってもしかして全部機械なのか? こんな複雑なものは初めて見るけど…というか部屋全体がそうなのか。爺さんの見せられた資料でしか知らなかったぞ、もしかしなくても大発見じゃないか!!」


それに気づいた瞬間に興奮で思わず大声を出してしまった。


今の世の中にももちろん機械というものはある、所謂蒸気機関といわれるものが今の主流だ。

それらを初めて見たときもその力に興奮したものだ。だがそれが子供だましに思えるほどの機械の数々が第二世代の遺跡からは見つかっているのだ。


それらの動力が何なのか解明できていないものも多く、使える状態で見つかることは稀であるが、それが持つ能力は絶大である。

 本来であれば調べ尽くされたと言われるこのベルカの遺跡のような場所では持ち出された後のために大したものはみつからない。

だからこそ俺も当初今回の探索に乗り気ではなかったわけだが今は違う。こうやって動いている状態のしかも見るからに複雑そうな機械をみつけたのだ。

何に使えるものなのかは定かではないが大発見であるのは疑いようもなくかなりの報酬が期待できそうである。


「初回でこれって凄くね!! 爺さんにも自慢できるぞ!! あっでもここを見つけたのを何と説明すれば…それにあの男たちのこともあるし……ってあれ?」


 まだ見ぬ未来に夢を膨らませながら思考に没頭していく。その途中、ふと視線を少しずらしたところで目に留まったものがあった。そもそも部屋に入った瞬間に目についた機械の壁だけをみて思考に没頭したために他のものを全く見ていなかったのだ。

 

それがこの部屋の中心となるものであると目にした瞬間に悟る。


そこから放たれる何とも言えない威圧感。透明なケースらしきものに囲まれてソレは部屋の中央へと鎮座していた。

 

 見様によっては祭壇とも見えるそこの中心にあったものは。


「銃? 鎖に巻かれてるみたいだけど…それにしてもなんなんだこの威圧感は」


 それは一つの『銃』。銀色に光る一丁の拳銃らしきものが黒い鎖を巻きつけられた状態で置かれていた。

その様は鎖によって縛り付けられているようにもみえてまるで封印されているようでもある。


 最初に気づかなかったことが信じられないほどに、目をしたその瞬間から『銃』から目を離すことが出来なくなっていた。

意識をそれに縫いとめられたまま気づけば一歩また一歩と近づいていく―――が。


「いてぇ・・・なんだこれ。透明な壁か?」


あと5mほどまで近づいたところで何かにぶつかってしまった。目では捉えることは出来ないがどうやら透明な壁があるようだ。

 


そしてそれを確かめるように透明な壁へと手を当てたその瞬間に異変が起きる。

水面に一滴の水を垂らした時のように手を当てたその場所から波紋が広がり。それに呼応するかのように光が全身に当てられる。


『―――――スキャン完了。精神アルゴリズム解析開始―――各種データOK。適格者と認められました。封印を解除します』


 そのあとすぐに聞こえてきたのは抑揚のない女性と思われる声。しかしそれは俺の知る言語とはまた違っているようで意味までは理解できない。

 声が聞こえなくなると同時に目の前にあった透明な壁はなくなったようだ。次々と起きる不可解な現象に訝しげながらもその歩みを止めようとは何故か思わなかった。


「―――ゴクッ」


 到着した『銃』の目のまえで唾を飲み込む、緊張で手が震えそうだった。『銃』を囲っていたケースも透明な壁がなくなると同時に自動で動くと上の方へと仕舞われた、もうエリックと『銃』を遮るものは何もない。


 そっと手を伸ばしその銃を掴み取る。


 最初に感じたのは予想外なその軽さ、何か金属で出来ているように見えて鉄ほどの重みは感じられない。


 見た目は大型の拳銃のようであり、その銀色の銃身にはなんらかの紋様が刻まれている。


よくみるうちにそれが何かの文字だということに気づいた。


それは今は使われていない所謂古代文字と呼ばれいるものだ。今までやってきた探索者になるための修行のなかにはそれら古代語に関する勉強もあった。

その知識からそれが古代語であることまでは分かったのだが意味を読み取るまでは出来なかった。

また、銃に巻き付いていた黒い鎖はグリップのあたりから銃本体と繋がっておりその鎖もまた銃の一部であるらしかった。


「これって使えるのか?」


少ない銃に関する知識を思い出しながら各部を確認していく。試しにと地面に銃口を向けると引き金を引こうするが、ロックされているのかピクリとも動かない。


「ロックの解除ってどうするんだ? そもそも弾丸が入ってるかの確認も出来ないな、どこだ?」


各部を弄って見ようにもどこから手をつけて良いのかすら分からない。


「あー分からないっつの…爺さんなら分かるかな。にしてもなんか不思議な感じがするんだよな…ん?―――つぅ」


 銃を観察している途中に突然右腕に激痛が走る。先ほど壁にぶつかった時とは違う強烈な痛みだ。

視線を向けると鎖の一部が針のようになっておりそれが右腕へと突き刺さっていたのだ。それを抜こうとするが痛みとともに体内に何かが侵入してくるような感覚を受けてで足元がふらつく。

 

痛みに耐えてどうにか落ち着いたところで、針が刺さっていた場所へと視線を向けるがそこには針もさらに傷痕すら残っていなかった。

何かの毒だったのではないかという疑念が浮かぶが、先ほどの痛みがあったこと以外は特に体の不調は無いように感じられた。


「なんだったんだ?」


首を傾げながら念のため体を確かめようとする。


―――が、それはさらに起きた異変によって中断せざるおえなかった。


銃が置かれていた台座が動き出して下へと下がってゆく、そしてそれと入れ替わるようにして長方形のきかいらしきものがせりあがってきた。


大きさは5、6メートル程か、その機械の正面が透明なガラスのようなもので出来ている。


「これは生命維持装置か?…ってえ…何を言ってんだ俺?」


その機械をみた瞬間に自らが口にした言葉に驚く。何故ならそれが今自分が口にした言葉にも関わらず初めて聞く言葉だったからだ。


その違和感に頭が混乱しそうになる。


自分が知らない筈の知識が頭の中に次々と浮かんでくる。どこからそれが涌き出てくるのか、得たいの知れない感覚に恐怖を感じる。


そんな思考の海に沈みそうになったところで頭を振って一度思考を断ち切る。


今一番大切なのはそれではない。


機械を目にした時に浮かんだ情報よると、「生命維持装置」とは緊急にあたり人間を冷凍休眠させて危機を乗り越えるためのものである。それが今も稼働した状態で目の前にある、それが意味することは何か。


カプセル状のその装置におそるおそる近づいていく、そしてその上部から中を覗き混んだ。


「っ!!」


その瞬間に一度言葉を失った。中にいたのは自分と同じか年下かと思われる1人の少女だった。腰まであるかという長い銀色の髪を持つその少女の容姿はまるで人形のように整っている。初めてみるような美少女だった。


「…死んでいるわけではないよな。装置は大丈夫、ちゃんと動いているみたいだし。でも何でこんな場所で眠ってたんだ?それにこの銃を手にした瞬間に現れたってことは何か関係があるのか?」


まるで死んだように眠る少女に若干の不安を覚えるが、装置が問題なく動いているようなのでちゃんと生きてるのだろう。


口に出すことで情報を整理しながら確認をとってゆく、その途中で装置に刻まれた文字が目にとまった。その文字は先ほどみていた銃に刻まれている文字と同種のもの、しかし先ほど読めなかったはずのその文字が今は簡単に読めるようになっていた。


「本当に気持ち悪いな、何なんだよ。―っと何々」






 [名も知らぬ未来の人よ、これを読んでいるということは『銃』に認められた人物ということだろう。


 かの武器はあの『神』に対抗するために我らの持てる技術の全てを注いだ最高傑作の一つだ。

 

 本来であればこの手で神を倒したかったのだがそれには時間が無いようだ。口惜しいが未来に現れるだろう同志に我らが思いとこの武器を託すこと決めた。。


 君がもし我らが遺志を継いでくれるならばこの力を使い神を打倒してほしい。



 それと図々しい話ではあるが君の目の前に眠っている少女は私の大切な娘だ。この娘だけでも助けたいと願い眠らせた。

頼む! 目覚めたならこの娘は過酷な運命を辿ることになるだろう、どうかその力を使って娘をどうか助けてくれ!!


娘1人も救えない愚かな親の願いではあるがどうかどうか聞き届けて欲しい。これが私の最後の願いである。


娘の名は―――]






「――――リリィ・ハイコープ」


刻まれたその名前を呟いたその瞬間、キィィーンという音と共に装置が一瞬輝いた。

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