第3話

「よし!! ここまでは順調だな」


 そして迎えたベルカの遺跡の探索。


ベルカの遺跡の外観は二階建ての朽ちた建物のようなものだ。

俺はワイヤーを駆使して遺跡二階にある窓穴らしきものから内部へと侵入していた。この遺跡は踏破済みのものなので入口と呼ばれるものはあるのだが、訓練の一環として窓から入ったのだ。周りに人の気配はない、このような遺跡で出会う相手は同業者や盗賊などだ、油断すれば己が危険に陥いることは間違いない、そのために周囲に気を配ることを忘れてはならない。


 さらに今回の遺跡は何人もの人が潜った後なのであまり警戒する必要もないが、未探索の遺跡の中には罠が仕掛けられていたり、魔物が住み着いていたり、はたまた遺跡を守る守護者ガーディアンなどがいるために常に危険が絶えない。それこそ死と隣り合わせの仕事なのだ。


 既に発動したあとの落とし穴を飛び越えたり、崩れかけた回廊をロープで橋渡しをしたりして乗り越えてゆく。外観こそ二階建て程のベルカの遺跡てあるがその本質は地下へと何層も続いていく降下型の遺跡である。そのために地下へと進むための階段や梯子を探しながらの探索になる。


「よし、ここが最終階層だな」


 そして特にアクシデントもなく地下20階辺りまで降りて来た。事前の情報ではこの階層が最終地点であるらしい。周りの壁はよく分からない素材で出来ており、幾学模様が踊りところところが光り点滅している。


「この階層にある、鉱石を持って帰れば試験合格なんだよな」


 師匠に課せられた試験は一つ。最終階層である地下20階にある特殊な鉱石を持って帰ること。その特徴を思い出しながら区切られている小部屋の中を覗いていく。


「あったコレか、丸くて薄い板みたいなの。本当に何で出来てるんだろう」


 それは机のような台の上に積み上げられていた。最初に潜って見つけた者は持ち帰ったらしいいのだが結局役にたつものではなかったようで、未だにここに大量に残されているとのことだった。


「よし、これで目的は達成だ。あとは戻るだけ、当然と言っちゃあ当然だけど楽勝すぎだなーっ」


 その中の一つを腰につけたポーチに仕舞いこんだその時だった―――カツンカツン。


 遠くからではあるが何者かの足音が聞こえてきたのだ。こんな深くまでもぐってくるような相手は同業者だろうか。足音からして複数人だと思われる。

 

 どんな相手かは分からないが極力鉢合わせにならない方が良いだろう―――敵対することになったとすれば複数が相手ではこちらの部が悪いのだ。


 近づいてくる足音に俺は慌てて近くにあった部屋に入り込みそこにあった棚の影へと隠れた。息を潜めて通り過ぎるのを待つ。


「この部屋だったか?」

「ああ情報と一致する。この部屋で間違いないだろう」


 運悪く足音の主が入って来たのは俺が隠れている部屋だった。心臓の音が速くなる中で物陰から様子を伺う。そこにいたのは黒ずくめの装いををした男が3人。全員が全身を黒いフルアーマーを着込んでいる、顔すら覆っているので声を聞かなければ性別すら分からなかっただろう。


 おそらくではあるが同業者ではなさそうだ。あんな重装備で遺跡へもぐる探索者なんてまずいない。


 どう考えても異常な状況だった。探索者には見えない上にどこか剣呑な雰囲気を持つ相手である、これは見つかったら命が危ない。そんな予感が俺の中で警鐘を鳴らす。


 そっと観察しているとそのうちの一人が口を開く。


「よし…この壁だな。周りに人はいないだろうな?」

「今のところそれといった気配はないと思うが」

「いないに越したことはない。処分するのも手間だからな」


 その言葉に思わず生唾を飲み込む、何とかバレていないようだ。俺は師匠からよく「隠れるのだけは一流だな」とボヤかれていたのだがそれが今回は役にたったということか。


 全く身動きが取れずに固まったまま男たちの様子を見つめる、男の一人が何かを取り出した。それは金属でできた一枚のカードのように見える。それを男はおもむろに壁にあった穴へと突き刺す、それは見事に嵌ったように見える。それから数秒後、僅かな振動が部屋を伝わりカードを刺した壁が動き出した、そして現れたのは階段だ。


「!!」


 思わず零れそうになった声を何とか押さえ込む。


「ん? 何か声がきこえなかったか?」

「いや、気のせいじゃないか、それより情報は正しかったようだな。さっさと目的を果たすぞ」

「ん、了解した」


 男たちがその階段から降りていくのを確認してから思い切り息を吐き出す。


「はぁ~危なかったな…。それにしてもまだこの階層より下があったなんてな。師匠ですら知らなかったみたいだし大発見じゃないか……でもな」


 目の前の階段を見つめながら考えをまとめる。


これは大発見だと思う。この先にいけばお宝を見つけることも出来るかもしれない。だがこの道を開いたのはあの謎の集団である。見つかればただではすまない確信があった。


 それから5分程の葛藤の後に―――――俺は進むことを選択してしまったのだ。今考えればこれが運命の分かれ道だったとそう思う。



 階段を降りるとそこは巨大な空間だった。螺旋状の階段があってかなり下まで続いていた。底の方を見ようとするがあまりに深くて見通せない。俺は見つからないように、足音を響かせないように慎重に歩みを進めていた。

 

 とても長い長い階段だった、歩くだけでも一苦労である。どれ程の距離をを降りてきただろうか、ようやく底へと到着する。


 降り立った場所から真正面、その奥から光が漏れてきていた。目を凝らすと先ほどの男たちもいるようだ。慌てて端の方へと身を隠して壁伝いに声が聞こえる辺りまで慎重に近づいていく。



「―――――おい!!どうやってアレを壊すんだ!! そもそも何だこの光の壁は!!」


「落ち着け―――――本隊に今連絡―――――」



何やら言い合っているようだがまだ遠くて聞こえない、もう少しと近づいたその時――――――



「――――――おい!! お前は何者だ!!」


 突然に背後から掛けられたその声に振り向けば俺へと剣を向ける男の姿があった。―――しくじった、言い争っていた男たちは2人、もう一人がどこにいるかの確認を怠ってしまった。



そして今、首筋に剣を当てられた俺は身動きが取れない。

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