第2話
世の中とは理不尽である。
俺の名前はエリック・ローウェル、一攫千金を夢みる探索者の一人だ。血反吐を吐くような修行をして十数年、ようやく師匠に認められて挑んだ最初の探索―――――そこで既に俺は死にそうになっている。
確かに危険の伴う職業だとは分かっていたし、覚悟もしていたつもりだ。
でも、それでもだ。体を鍛え上げ、武器の扱いを学び、数々の知識を溜め込んだのに…その努力も虚しくこんな風に、探索者としての第一歩にも届かないというところで人生を終えるなんてあんまりではないだろうか。
迫り来る刃を見つめながら俺は十数時間前のことを思い出していた。
12時間前。
「よしエリック!! 探索者として必要な知識、技術、今教えられることは全て教え込んだつもりだ。あとは実践で覚えていくしかないだろう。というわけでだお前には卒業試験としてある遺跡に潜ってもらおうと思う、覚悟は良いか?」
「はい!! 師匠」
師匠の言葉を前にして俺はとても興奮していた。俺の目の前にいる精悍な顔の初老の男性は俺の師匠であるダニエル・ローウェルだ。
名前でも分かるかもしれないが俺の実の祖父でもある。
長年探索者として生計を立ててきた祖父はその筋ではそこそこ有名らしい。らしいというのは俺が生まれた時には既に引退していたために実際に見たわけではないからだ。
早くに両親を亡くした俺はこの祖父の手で育てられた。
自分に教えられるのはこれだけだといって幼少の頃からその技術を教えられてきた。
それこそ血反吐を吐くような日々ではあったが、よく聞かされていた祖父の冒険譚に憧れていた俺は歯を食縛る思いで耐え抜いて来た。
そして今日、俺はようやく祖父に認められて探索に挑もうとしている。これが興奮しないでいられるだろうか。
「うむ気合は十分なようだな。お前に行ってもらうのはこの街から南南東にある『ベルカの遺跡』だ。あの遺跡については覚えているか?」
「もちろん覚えてはいるけど…今回行くのってあそこなのか」
告げられた行き先を聞いて少し俺は落胆してしまっていた。ベルカの遺跡というのは第Ⅱ世代の遺跡のことである。
この第Ⅱ世代というのは、科学と呼ばれるものが発達していた時代のものを指している。
これは今生きる人間にとっては常識であるのだが今俺たちが生きているのは三度目の文明であるらしい。
学者たちによると、過去には今より高度な文明をもった時代があり。その一度目の世界、二度目の世界はそれぞれに繁栄をを誇っていたらしいのだが何らかの理由で滅びたということだ。
ただそれが存在したという確かな証として遺跡の存在がある。
今も残る遺跡はその二つの時代それぞれのものがあり第Ⅰ世代が一度目の、第Ⅱ世代が二度目の世界のものである。
そこから発見される遺物は、ガラクタなども多いが中にはすごい力を秘めているものがあり、今の技術では到底再現出来ない力を発揮する。発掘されたそれらは今の世の中で様々な事に活用されている。
魔物の討伐に、結界の維持などだけでなく日常生活に必要な水の浄化などもだ。
最早人々の生活において必要不可欠とまでいえるそれの需要は当然大きく稀少価値も高い。
しかし遺跡には危険も多く、簡単に手に入れられるものではない。そこでその危険も顧みずに命懸けで遺跡へと挑むのが俺たち探索者である。
大きな力を持つそれを一つでも見つける事が出来たなら、それだけで莫大な富と名声を得られる。まさに一攫千金の代名詞でもあった。
俺達探索者が求めるロストテクノロジーの遺物、俺たちがアーティファクトと呼んでいるそれはそれぞれの遺跡で見つかるのだが、実際に使えるものが見つかるのは第Ⅰ世代の遺跡の方が多かった。もちろん第Ⅱ世代の遺跡でも良い物が見つかるケースはあるのだが、今回の試験が行われるベルカの遺跡は町から近いこともあって既に調べつくされていると言われている遺跡なのだ。
「何だやる気を一気に失ったみたいだな」
「わかってるだろ!! 爺ちゃん何であの遺跡なのさ?」
こちらの心の内を見透かしたかのように言ってくるので思わず言い返してしまった。
しかもついいつもの口調に戻っていたこれはヤバイ。
「馬鹿者が!! 鍛錬中はお前の師匠であって祖父では無い!! 何度言えば解るのだ!!」
案の定俺へと雷が落ちてくる。
もちろん雷と言っても天から降ってくるアレではなく祖父の説教のことだ。
常日頃から鍛錬中は血の繋がりなど關係ないと言い切り非情なまでの修行を課してくる祖父はこのように鍛錬中に言い間違えただけでも烈火のように怒るのだ。
……それ以外では優しい祖父ではあるのだが。
「そもそも、まだ見習いであるお前が獲物を選ぼうなどとは甘すぎるわ!! お前は舐めきってるみたいだがベルカの遺跡も危険は十分にあるのだぞ!! そんな心構えではすぐに命を落とすというのを理解できんのかお前は!!」
その後も続く説教に俺は只々聞くことしか出来なかった。そしてようやく怒りのボルテージが下がったのだろうか、咳払いのあとに元の口調である確認を問うてきた。
「それでだ、結局お前は今回の試験を受けるのか、受けないのか?」
「受けます!!」
その問にはっきりと頷き受ける意思を示す。確かに祖父、いや師匠の言う通りであった甘く見ていた自身の驕りを自覚して心を入れ替えよう。その意思が伝わったのか師匠は大きく頷くと言葉を続けた。
「よし、ならば頑張って達成して見せろ!! 今回の試験合格の条件は――」
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