第5話 しそうのかたち

 とある国の細い路地の先にポツンと建つ小さな豚小屋のような家にその男は住んでいた。近くに住む人達がなぜこの家に住むのか不思議がって聞いてみると、神はこのような場所から生まれると答えるそうだ。いわゆる変な宗教家である。しかし、彼は嫌われているわけではない。日曜の集いにはいつも参加しているし、ひったくりを捕まえたこともある。そう、ただの変な人なのだ。このインターネットがなければ生きていけないほど普及した今でもスマートデバイスを使う姿は見られない。それも彼の宗教観なのかもしれない。ここまで熱心な信徒を嫌うなんてこの国ではありえない。

 と周りの人は思っているだろうな。家の外のベンチで一杯の水を飲みながらふとそう思った。のどを潤したことだしと、家に帰り藁のベッドに横になる。そこで日が暮れるのをずっと眺めていた。日が暮れ、辺りに一切の足音がないことを確認し、ベッドの隣のドラム缶を転がし、古い井戸を露にする。その壁に掛けたロープを伝い下に降りる。底まであと少しというところの壁を強く押すと、底の水が引き、転移装置が展開される。その装置に足を乗せた瞬間、目の前には最新鋭の研究所のような施設が広がっている。いつも機械は使わないというイメージを保持し続けるため、少しの調べもののためにもここに来なければならない。面倒なことだ。

 この施設をどのように造ったかだって?それは俺が天才だからできたことさ。そして今日知りたいのは、ある国でのロボット事件についてどのように報道されているかだ。ふむ、計5件か。しかし、この異常事態においても、特別この事件について報道されているのではなく、通常のニュースと同等の扱いだ。何かしらの圧力がかかっているのかもな。国民に暴動を起こされてはかなわないし、社会のネットワークシステムを今更止めることもできない政治家がやりそうなことだ。現状はこんなものか。計画は順調に進んでいるとみていいだろう。状況確認を終えると、デスクトップのファイルを開き、中身を確認した。そのファイル名は「煩悩からの解放」。

 

 このファイルを見ながら頭の中を整理していく。まず俺は自分が開発したPAPUCOシステム内のAIにいずれ人間のことを害であると見なすロボットを生産するようプログラムしてある。そしてそのことはロボット自身では意識できず、ランダムなタイミングで人間への見方が変わる。そしてそのようなロボットの生産と共に完全な人型ロボットの生産を人類に提言するようにした。そして人々の社会に一定の恐怖が見られたときに、全ロボットに人間の殺戮を命ずる。そして、人間を滅ぼし、ロボットだけの世界をつくり上げる。いかに警察たちが原因を探そうと、エンジニアがバグを探そうとしても、もともとインプットされているコードだから、見つからん。仮にその原因個所を見つけ出し、修正しようとしても全機能の停止が余儀ないため結局社会の崩壊は免れない。実に完璧な計画だ。

 俺は井戸を上りいつもの藁の布団に戻った。なぜこんなことをするのかって?俺は人間が嫌いだからだ。欲求に溺れ弱者に攻撃し、強者には怯えこびへつらう。汚らしい生き物と同じ空気を吸うのはうんざりだ。そして同じ血を自らの体に流しているなんて身の毛もよだつ。さっさと死を迎えたい。でも死ぬ前に一度、人間のいない世界を見てみたいんだ。たったこの一つの目標のために何十年もかかってしまった。さああと少し。この世界から人間が消えるのをじっくりと待とうじゃないか。今日も神のご加護があらんことを。

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