第025話、それ以上近寄るな、毛を生やすぞ!
ここは居酒屋『のんだくれ』 二人の酔っぱらいを適当に相手してたら、更なる恐怖が俺を襲ってきた……
「おじゃましまーす★ ご指名ありがとうございまーす★ 店主の『ネネタン』でーす★」
キャピッ!
「あ、チェンジで!」
「ひっどーい★」
先程の店主が表れた、お客さんが減ってきたのでおしゃべりをしに来たらしい、キャピッ!ってなに? なんか古いし。
「改めまして★ 店主の『ネネタン』です★ これ名刺よ★」
受け取った名刺を見ると可愛らしいピンクのキラキラ星付きだ、顔のイラストまでついているがとても美人に描かれている、かなり加工技術が凄いな、話すときの★はなんか目がチカチカするから少し減らしてほしい。 それにしても雰囲気は怪しい、俺の中ではぼったくり疑惑はまだ晴れてない、不安がっていると店主は話しかけてきた。
「大丈夫よ★ ここは健全なお店だから、それにこの二人が連れてきたってことはあなたはきっと良い人なんでしょうね、良い人を騙すなんてことしないわよ」
「?」
悪い人ならどうするんだろう、やっぱり裏に連れていかれるのかな? 俺は無言で続きを待つ。 『ネネタン』はツルンさんとエステン師匠を見ながら話し始めた。
「この二人って少し変わってるでしょ? 私もほんの少~しだけ変わってるわ★」
"少し" というかこの三人の中でならあなたが一番変わってると思うが、なんなら俺が人生で出会った中でもトップ3に入るが。
「それでね★」
俺の冷めた視線をものともせず、話を続けつつネネタンは自分の胸筋を身体の中心に寄せて俺に近づいてくる、それ以上は近寄るんじゃない、その自慢の胸筋と無駄にツルツルした足に "ケガハエール" で毛を生やすぞ、いいか俺は本気だ。 意外だがネネタンの足はとても美脚だ。
「この二人ってここに来る時はいつも"二人だけ"なの、他に友達がいないみたいで、だからあなたを連れてきたのを見てビックリしたわ★」
「……」
「私もなかなかお友達が出来なくてね、でも二人は普通に接してくれるの★ 普通の女の子みたいに★」
「……」
「その二人が一緒にお酒を飲んで、こんなに自分をさらけ出すなんてね★ あなたに気を許しているのね★」
二人をチラッと見る、よく眠っているな、ツルンさんはスヤスヤとニヤニヤと、時々「ふへへ~」と笑ってヨダレをたらしている、エステン師匠は仰向けになりグガーッとイビキをかいている、お腹をボリボリしてる、年頃の女の子がそれはどうなんだ。
「この二人を…… そして私を受け入れてくれたあなたは良い人なんだと思う★」
いや、あなたは受け入れてない、受け入れた覚えはまったくない、さりげなく俺の内側に入ろうとしないでくれるかな。
「二人は… 初めて会った時からこんな感じですよ、たしかに変わってますし最初は俺も逃げましたけど話してみると意外と、楽しいかな」
これは本音だ、以前の仕事では毎日がつまらなかった、辛い日々だった、転職していろんな人に出会って今はそこそこ楽しい。
ネネタンは優しい顔で微笑んだ。
「あなたも変わり者なのね★ 類は友を呼ぶ」
締めのセリフとしてもう少し良い言葉はなかったのかな。
***
「ほんとにいいんですか?」
二人が完全に寝てしまって起きない、家に連れて帰るのはいろんな意味で怖い、どうしようかと思っていたがネネタンが店に泊めてくれると言ってくれた、二人が来た時はいつものことらしい。
「大丈夫よ★ いつ飲んでは泊まっているから★ まだ部屋はあるけど、よかったらサルナスさんも泊・ま・る? キャッ★」
「……枕が変わると眠れない体質なのでお気持ちだけいただきますありがとうございます失礼します」
俺は早口で息継ぎもけずに一気に話した。
「残念★ 今日はご来店ありがとうございました★ また来てね★」
***
家に帰宅したらシーンとした空気がやたらと気になった、さっきまでかなり騒がしい空間にいたからだろう。
布団に寝転んでふと以前の仕事から今までを思い出す、改めて俺は今まで小さく狭い世界にいたのだなと実感した。
以前は周りはオッサンばっかり、仕事ばかりで特に変わりばえのない日々、つまらない日々、寝不足の日々、そこから転職して治癒師になってドSの天使達と出会い、ムキムキで目つきの怪しい男に出会い、スキンヘッドで強面の男に出会い、その人と俺を見比べながら変な笑い方をするSM女に出会い、中身が年寄りくさくて酒ぐせの悪い幼女に出会い、やたらと胸筋をアピールしてくる女?に出会った。
世界は広い! 明日はどんな人と出会うのだろう……
最終回みたいな雰囲気だけど、違うからね、なんとなくセンチメンタルなことも考えてそんな雰囲気にひたってみたくなったんだ、飲み会が終わって家に帰るとそんな感じしない?
さて、明日に備えて寝ます、おやすみ~
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