第020話、幼女が、、、これって事案?
目の前にはどや顔をした、小さな女の子が立っている。 なぜか俺の師匠になると宣言してきた、新手の告白か? それにしては色気がない、どうしたらいいのかよくわからない。
「えーと、とりあえずどこかお店に入ろうか? 道端じゃ落ち着いて話もできないし」
「おっ! そうじゃな、ふむ、ワシはあの店に入りたい」
エステンが指差したのは、ピンクの可愛らしい外観をした一部ではかなり有名な甘味処『メイド茶屋』 雑誌で見たけどちょっと俺にはハードルが高い、いかがわしいお店ではないが話をするには向いてないだろう。
「……あの店?」
「うむ、前から行ってみたかったのじゃ! 可愛いのじゃ」
「えーと、あそこは一部の男性がよく通う店で女の子はあまり行かないんじゃないのかな」
「そうなのか? あんな可愛い店に男が通うのか? 女は行ってはいかんのか?」
「うん、まぁ、ダメってことはないけど…… 話をするには少し騒がしいお店なんだ、また別の機会がいいと思う」
「そうか、残念だが話がしにくいのであればしかたあるまい、それならあそこはどうじゃ?」
次にエステンが指差したのは普通の喫茶店 『とんとん亭』 なんの変哲もない普通の見本のような店だ、悪口ではない普通のお店こそ長年にわたり生き残るのだ。 さぁ入ろうかな。
「あそこなら話はしやすいかな、静かだし」
(良かった、普通だ、普通って素晴らしい)
「じゃあ、決まりじゃな」
***
俺は『エステン』と名乗る小さな女の子と喫茶店 『とんとん亭』 に入った。 ん~これも周囲から怪しいのかな、でも家とかメイド茶屋に行くよりはいいか、話を進めてみた。
「さて、じゃあ話を整理しようか」
「うむ」
「まず、君は俺より経験のある治癒師」
「そうそう!」
「そして、『治癒っちの大冒険』の作者」
「その通り!」
「それもあまり信じられないんだけど、でも本の中身を知ってるし、エステンという名前もたしかに作者として本に書いてあったのを思い出した」
「そうじゃろ!」
「わからないのは、俺の師匠ってのはどういうこと?」
「その言葉の通りじゃ、お前には才能があるその才能をワシが鍛えてやる!」
エステンはギラリとした目で俺を見つめる、うーむ可愛らしい幼女に見つめられるとは、一部の男なら泣いて喜びそうだ。 でもまだ会ったばかりだし、俺のことは何も知らないはずだよな。
「なんでそんなことわかるの?」
「あの本を理解し実践したのじゃ、それだけで才能があるのは明白、あの本に書かれてある内容は普通の治癒師からするとただの絵空事じゃ」
「実践した? そんなことまで知ってるの?」
「見ておったからな」
どこから見ていたのかエステンは俺が重傷者を治したのを知っていた、さっきの内臓の質問は確認だったらしい、そういやイワ先輩からも言われたな。
「たしかに、イワ先輩も本の内容について "空想だ" って言ってた」
「そのイワ先輩はよく知らんが、まぁその反応が普通じゃ、お前は元々は治癒師ではなかったのじゃろ?」
どこまで知っているのか、エステンはどや顔をしている。
「うん、魔法道具を作ってた、治癒師については勉強不足であまり知らない」
「それが良かったのじゃ、先入観なく本の内容を素直に受け入れることができた、そのうえお前は世にも珍しい "男の治癒師" 普通とはかけ離れた存在よ」
「そんな、人を珍獣みたいに……」
「似たようなものよ、じゃからワシがお前に更なる知識を授けようというのじゃ、習得すれば "聖女" にだってなれる!」
「なれる! と言われても俺は男だし、おネエさんになるのはやだよ」
(こんなムキムキして、笑顔がキモいおネエさんとか、想像しただけで寒気が……)
「ま、そこは "言葉のあや" というものじゃ、つまり聖女に近い存在になれる、ということよ」
「うーん、気が乗らないな~」
(俺はあまり出世したくない、"聖女"並みに凄いなら、お偉いさんと会ったりとかするだろうし、なんか地域によっては信仰の対象らしいし、そこから恨まれる可能性もあるよな)
「なんでじゃ? 偉くなれば金も手に入る、権力も手に入る、女も手に入るぞ、良いことばかりでないか」
「うーん、メリットとデメリットを比較すると、まだデメリットが大きいような……」
ブツブツ
「なんじゃ? 訳のわからんことをブツブツと…」
俺はよく考えた上で、エステンに質問してみる。
「……君を師匠に迎えると、俺の治癒能力はかなり上がるんだよね? 今まで救えなかった人とか魔物とか救えるんだよね?」
「さっきからそう言っておる、まだまだ能力を使いこなせておらんからワシが鍛えたら爆発的に上がる、だが…… 魔物も救うのか?」
エステンは不思議そうな表情をしている、さらに追及してくる。
「魔物は基本的に人へ害をなす生き物じゃ、それなのに救うのか?」
「えと、俺は少し前まで魔物と関わったことはなかったんだ、時々冒険者が魔物を狩ったという話を聞くくらいで、でも最近になってドラゴポイという魔物が狂って暴れてて、治癒魔法で助けた、その魔物は本来おとなしいと聞いたし、可愛いかった、だからそういった魔物は救いたい」
(そうだ、悪い魔物ばかりじゃないんだから、良い魔物は救いたい)
「ふむ、なるほど、ではおとなしくて可愛いかったら救うのか? では可愛くなければ倒すのか?」
「えっ?」
「今の話だと倒しても良い魔物とそうでない魔物がいる、という風に聞こえた、その区別は?」
「え、いや、、、人に害を与えるかどうか」
「人が魔物へ危害を加えれば魔物もこちらへ危害を加える、さきほどのドラゴポイの話は知っておる、子どもを取られた魔物が怒って、そこに瘴気がまとわりついて騒ぎになった、その場合は "害のある魔物" ではないのか?」
「でも、本来はおとなしいって……」
「その "本来" というのも人間が決めた基準じゃ」
(言い返せない、そもそもさっきのドラゴポイの性格も冒険者の人に聞いた話だし)
「まぁ良い、いきなり追い詰めるようで悪かった、もし聖女に近い高みまで上り詰めるのであれば、こういった悩みも出てくる、おいおい考えていけばよい」
「……なんかほんとに師匠っぽいね」
「ワシを師匠と認めるか?」
エステンはニヤ~っとしている、怪しげな目つきだ、妖艶な感じもする、あまりその目はしない方がいいかも、変な男が寄ってくるよ、防犯ブサーを渡しておこうかな。 俺は見た目は幼女だか、深い考えと頭脳を持ったエステンを師匠とすることに決め頭を下げた。
「そうだね、いや、そうですね、よろしくお願いします」
「うむっ!!」
「ところで師匠はおいくつなんですか? どこの治療院に勤めてるんですか?」
「女にはな秘密があった方が魅力的じゃ、あとワシのことは周りにはまだ言わないように、これは命令じゃ」
「なぜですか?」
「それはまだ言えん、もし命令を破った場合は "お兄さんにイタズラされた、ふぇ~ん" と言いふらす」
とんでもないことを言い出した、そんなことを言いふらされたら俺は社会的に抹殺されてしまう、エステンは邪悪な笑みを浮かべているように見えた。
「うぐっ!」
「では、これからよろしくじゃ」
「……はい」
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