第8話 お茶会

しばらく、ユウキと紅茶を飲んでいると扉を叩く音がした。すると、ユウキは眉をひそめて立ち上がった。その時「面倒くさい」と小さな声が聞こえた気がした。


「ミヅキ」


ユウキが扉を開けると同時に、名前を呼ばれた。声の主は王太子であった。


ユウキを王太子が入室すると、自席について書類を見ていた。ローテーブルには彼が飲んでいた紅茶はなく、座っていた形跡もない。まるで、ずっとそうしていたかのようである。


「ミヅキ」


もう一度名前を呼んだ王太子は、眉を下げてミヅキのそばにきた。

面倒くさかったが腐っても王太子であるため、立ち上がり挨拶をした。


「挨拶なんていい。どうして入学式に来なかったんだ。体調が悪かったのかい?」心配そうにミヅキを上から下までじっくりと見た。


「……ええ」頷くと「部屋で休みます」と言った。


瞬間、王太子はすごい顔でユウキを睨みつけた。ユウキは気づかないふりして書類を見ている。


「それでは」と言って扉の方に向かうと、王太子に止められた。


「体調が悪いのだよね」先ほどの怖い顔とは別人のような笑顔を作り「部屋まで送る」と言ってきた。


「ありがとうございます。ですが、殿下のお手を煩わせる訳にはいきません」

「照れなくても大丈夫だよ」


無駄にキラキラしたオーラを出して、手を差し出した。それに、普通なら魅力を感じるのかなと思いながら笑顔で断った。


「婚約者がいる方と、二人きりになるなって真似はできません」

「あぁ、レイージョのことなら気にしなくていい。あの能面は何も感じない」


一瞬、聞き間違えたのかと思った。あんなに表情豊かで美しい方を“能面”という王太子を軽蔑した。優しいレイージョを非難する王太子を殴ってやりたかった。


王族の彼を殴ったら、レイージョにもう会えなくなると思って「失礼します」と言ってその場を去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る