第7話 入学式欠席

校舎の正面玄関に来ると、新入生の生徒が多くいた。

ミヅキは校内の事務所に行って、事務員に自分の名前を言った。すると、事務員に上から下までじっくりと見られた。

気分が良くなかったがそれを悟られなように黙っていた。


「はい、生徒証」


ぶっきらぼうに言うと、写真の入ったカードをくれた。写真を撮った覚えがなかったので首を傾げた。


「この写真は?」

「魔力検査の時の写真じゃないのかい? もう次があるんだから行った、行った」


事務員にハエのように追い出された。

ため息を付きながら写真をもう一度見た。やはり、魔力検査時とは服装が違う。この写真はおそらく、知り合いの結婚式でおしゃれをしていった時の物だ。


通常、写真を撮る魔道具を使える人間なんて村にいないから高い金を払ってお願いする。

そこから流用したのか。


平民の個人情報の扱いが雑なのは知っている。自分程度の情報などはした金で仕入れることが可能だろうと思った。


入学式の場所が分からなかった。周りを見ると他の生徒は場所が分かっているようでその流れに乗った。

すると、大きな講堂に到着した。


講堂の入り口に席順を示す番号が書いてあった。それは生徒証の書いてあった番号と同じであった。


「一番前なの?」


一番前の真ん中の席を指定されていい予感がしなかった。


「うーん、やめよう」


何度か頷いて、進行方向逆を向くと講堂から離れていった。流れを逆走しているので何人かの生徒に見られたが声を掛けられることはなかった。


しばらく適当に歩いていると、生徒会室の前にきた。


「あれ?」


首を傾げて、そこから離れようとすると生徒会室の扉が開いた。


「本当にいた」


扉を開けたのはユウキであった。彼は驚いた顔をしてミヅキを見ていた。


「君、入学式は? もう始まっている」

指摘されてミヅキは笑いながら頭をかき「サボりました」と舌を出した。


それにユウキは大きなため息をついた。


「あのさ……」何かを言おうとしたが眉を下げて「まぁいいか」とまたため息をついた。


「中に入る?」

「はい」


ユウキに案内されて、生徒会室にあるソファに座った。彼は、奥の部屋に入って行った。


しばらくすると、彼は紅茶を持ってきてローテーブルに置き対面に座った。礼を言いながら、紅茶のカップに口を付けた。


「あ、そう言えば“本当にいた”って言っていましたが、私が来ることが分かっていたのですか?」

「あぁ、アキヒト様から連絡があった。ミヅキ・ノーヒロが入学式にいないと」


紅茶を飲みながら、ユウキが言った。その回答にミヅキは首を傾げた、彼の答えは“本当にいた”と言った理由にはならない。

その言葉を使う時は、相手に居場所を知っている時だ。


なぜ、自分の場所が分かったのか疑問だった。


「で、なんで入学式サボった? ダメじゃん」

「それはそうなのですが……」


わいた疑問を聞こうと思ったが、次の話になりタイミングを逃した。


「入学式をサボったからと言って何かペナルティがあるわけじゃないけど、周囲にいい印象与えないよ」

「……」


彼の言うことは正論だが、出席したらよくないことが起こりそうだった。それがなんだがはっきり分からないし証拠がない以上ただのサボりと言われても仕方ない。


「……何か感じた?」

「え?」

「いや、なんとなく。君は魔力が強いからわかることがあるかなと思った」


ミヅキは自分の手をじっと見た。以前、部屋の文字盤の光の色が赤に光ったのを思い出した。

強い、強いと周囲から言われるが実感が全くない。


「なに? 魔力に実感がないとか思った?」

「なんでわかるのですか?」

「普通はそうだからだよ。おとぎ話のように派手な攻撃ができたり何かを召喚できたりするわけじゃないから」

「普通は?」ユウキの言葉が引っ掛かった。そして、落ち着いて彼の言葉を頭の中で再生しなおした。


眉を寄せて考え込むミヅキをユウキは困った顔をして見ていた。微かに汗をかいているようにも見える。


なんだ?

何かを隠している?


“君は魔力が強い”と言った。この言葉は自分が特待で入っているから言った言葉だと思ったが違うようだ。

記憶を遡り、ユウキと出会った日の事を思い出した。あの時、彼は驚いていた。その時も“魔力の量”に触れていた。


レイージョが言っていた“特殊能力”という言葉を思い出した瞬間、線が繋がった。


「他者の魔力量とか強さとか分かるのですか?」

「……」


言葉を濁すことなく、はっきり言った。ユウキは乱暴に頭をかいた。


「そうだ」不満そうな声上げた。「明確な数字で見えるわけじゃないから、俺自身の魔力を0として他者の魔力を量っている」

「そうなんですね」


謎が解けてスッキリした。


「ってことは……」ユウキをじっと考えながら口を開けた。「他の生徒会メンバーにも特殊能力があるのですね」


楽しそうに話すミヅキにユウキはまた頭をかいて困った顔をした。


「あのさ、特殊能力って気軽に他言するものじゃないの」

「つまり、知らないってことですか?」

「知っていても言えないってこと。この件は“聞くな”、“喋るな”って話。俺のを教えたのだからいいだろ」


ユウキの言葉に小さく頷いた。確かに、好奇心で聞くものではない。まして、他人の能力を気軽に話す人間なんて信用されない。


「申し訳ございません」


反省。


「それで、さっきの質問答えてくれる? なんで講堂にはいらなかった? 前まで行ったんでしょ」

「え……? そこまで私の行動わかるのですか?」

「あ……」


その瞬間、ユウキは“やってしまった”と言う顔をした。


「う、うん。まぁ、そう。場所もわかる」


歯切れの悪い回答に違和感があったがそれ以上聞くのは、やめた。無理に聞いても答えてくれないだろうが、この人ならいつか口を滑らせるのではないかと思った。


「なんとなくですが、嫌な予感がしたのです。それだけです」

「ふーん」


ユウキは地面を見て考え込んだ後、立ち上がって机から“入学式”と書いてある束を持ってくると、また目の前にどかりと座った。


それをパラパラとめくった。


「それらしい所はコレだけどね」そう言って、ページを差し出してきた。


ミヅキはそのページをじっくりと見た。

そこには、入学式の流れが詳細に書かれていた。その文字に触れながら1つずつ確認していった。そうしないと飛ばして読んでしまうのだ。


「あ……」


気になったのは、自分を紹介する場面だ。“魔力量の証明”と書いてある。


「これはなんです?」

「文字通りだ。新入生の前で、君の魔力量を量る」

「なんで、です?」


今までの話では魔力は、魔道具を動かすためのエネルギーにすぎない。それを公開する意味が分からなかった。


「ふーん、本当に無知だな」馬鹿にしたように鼻で笑った。


それに腹が立ったが、今回は前回の“無知”の意味とは違う。


「申し訳ございません。教えてください」

「え?」ユウキは目を大きくした。「素直だな。生徒会メンバーを知らない時は怒ったのに」

「生徒会のメンバーはこれから知れば問題はないと思いますが、魔力を公開される意味は知っておかないと後悔する気がしました」

「ふーん」ユウキは意味ありげに笑った。「君は面白い」


ユウキは顔に手をやり考えた。


「俺は魔道具を作る天才なんだ」

「はぁ」


突然何を言い出すのかと言いたかったが、彼なりの考えがあるのだろうと黙って聞いていた。


「父親の影響もあって物心ついた時には魔道具つくっていたんだよね。俺の作る魔道具って性能がいいんだ」

「はぁ」

「性能がいいってことはさ。魔力をめちゃくちゃ食うんだよ」

「大変ですね」


ユウキは自分の頭を乱暴にかきながら「意味わかんないか?」と大きな目でじっと見ながらいった。


「俺でも扱えない魔道具があるんだ」

「えっと、私なら扱えるって話ですか?」

「そう」大きく頷いた。「君が俺の魔道具を使えば、国一つくらい破壊できる。その魔道具を俺が使ったら魔力不足で即死だ。特殊能力のある俺がだよ? それだけ高い魔力を持っている」


マジか。

それには流石に驚いた。魔力が強い、高いと言われていたがそこまでとは思ってもいなかった。


「それを公開するってことは各国から狙わるだろうな」恐ろしいことを平然と答えた。

「え、じゃ、なんで王太子は公開するのですか? 私を殺したいですか?」

「まさか」ケラケラと笑いながら、人差し指を立てた。「逆だよ」


「逆?」間抜けな声がでた。


「他国に取られないために匿うってことだ。もしかしたら、王太子の側妃にされるかもな」


ゾッとした。

そんな怖い話をユウキは面白がっているようだった。


「平民特待の公開魔力検査は珍しいことではない。学園の者に特待である意味を知らせるための物だからな。だた、ここまで魔力が強いとそうなるだろうな」

「側妃なんて……。レイ様がいらっしゃるのに……」悲しくなった。

「王族の結婚に感情なんてない。レイージョ・アクヤークとの結婚は彼女に家に力があるからだ」

「御三家貴族ですもんね」

「そして、君の魔力があればこの世界でかなり優位な位置にいられる。感情なんてものはない」

「そうですか」


平民でも、損得で結婚することがある。しかし、ここまで当人の感情を殺した話はない。


「そんな顔するな。俺も含めて、王族や貴族はそんなもんだ」

「え?」ミヅキは驚いて淡々と語るユウキをみた。

「驚くことないだろう。俺も御三家だ。婚約者候補はいる。父が決めかねいるようだ。まぁ、結婚を認められる年までまだ時間あるしな」そう言って紅茶を飲んだ。


その言葉でユウキが10歳であることを思い出した。年相応な外見をしているが、大人びた言動をするので忘れていた。


大きな黒い瞳に、さらさらな茶色い毛の少年は黙っていれば可愛い坊ちゃんだ。


「あ、君は平民だし。恋愛結婚を夢見ていたか」

「いえ、結婚なんて考えていませんでした」

「そうか。人気のありそうな顔をしているじゃないか」


ニヤリと笑うユウキを見てため息がでた。村で結婚前提の付き合いを求められたことがあった。しかし、自分が結婚するイメージがつかめなかった。

両親は仲が良く、結婚に悪いイメージはない。


付き合いを求められた人、全員がなんとなく私じゃない人と幸せになるような気がした。


「ほぉ」目を大きくしてユウキはミヅキをじっとみた。


「な、なんですか?」

「いや」軽く首をふった「なんでもない」

「そうですか」


意味ありげな様子が気になったが、深くは聞かなかった。それほど興味もなかった。

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