第140話 シン世界の神、誕生!? 8

「キドリさんとフリーデ――あれ?」


 カノンは、キドリとフリーデグントにもお礼を言おうとする。

 だが二人の姿はなかった。

 いつの間にか、どこかへ行ったようだ。

 その事にダグラスとユベールも気付く。


「トイレにでも行ったんでしょうか?」

「緊張する場面が続きましたしね。トイレが近くなっても仕方ないのでは?」

「二人とも、レディーに対して失礼ですよ。まったく、デリカシーのない人たちですね」


 呆れているものの、カノンも笑顔を浮かべていた。

 やはり一段落したので心に余裕ができたのだろう。


「それでは彼女たちが戻るのを待って――」


 その時、とある可能性がカノンの脳裏をよぎった。


「まさか、あのアマ!」


 なにかに気づいたカノンが走り出す。

 突然走り出したカノンのあとをダグラスたちも追いかける。

 女たちの残骸を踏まないよう、モタモタとしながら避けているカノンに、二人はあっさりと追いついた。

 

「どうしたんですか?」

「急がねばなりません。あの女は私を出し抜いて神になるつもりです!」

「えっ! でも、そんな素振りはなかったような……」

「そうですよ。きっとトイレでふんばってるんですよ」


 ユベールが落ち着かせようとトイレの話題を引っ張るが、彼の言葉をカノンは無視する。


「神の力を目の当たりにして目が眩んだのでしょう。神の座に興味がないと思わせておいて騙すなんて卑怯な! きっと自分の欲望を満たすために力を使おうとしているのです!」

「そうなんでしょうか……」

「絶対そうです!」


 カノンはドンドン進んでいく。

 やがてパソコンが置かれている部屋に到着する。

 部屋の扉は閉ざされていた。


「ほら、やっぱり!」


 カノンが扉を開こうとする。

 しかし、ドアノブを回そうとしてもびくともしない。

 まるでなにかで固定されているようだ。

 仕方がないので、カノンは扉を叩く。


「キドリさん! 中にいるのはわかっています! ドアを開けてください!」


 ドンドンと扉を叩く。

 しかし、中から反応はなかった。

 カノンは扉に体当たりをする。

 だが映画のように破る事はできなかった。。


「二人とも、ドアを開けるのを手伝ってください!」


 彼はダグラスたちに助けを求めた。

 ダグラスとユベールは顔を見合わせる。

 お互いに困った顔をしていた。


「どうします?」

「カノン様が望まれるのであれば……」


 二人とも神の力を得たアリスには遠慮せずに攻撃したが、相手が扉となれば話が変わってくる。

 ここは神の領域である。

 つまり神の家を破壊するという事だ。

 カノンが神になるとしても、やはり気を使ってしまう。

 だが、そういう事を言っている場合ではなさそうだ。

 仕方なく二人は扉を破る手伝いをすると決めた。


 まずは扉を調べるところからだ。

 ユベールが耳を扉に付けて、ノックをする。


「音の反響から判断する限り、ドアの向こうに誰かいますね。おそらくフリーデグントでしょう」

「ドワーフ相手では強引にドアノブを回すのは無理ですね。カノンさん、本当に壊していいんですか?」

「かまいません。やってください」


 フリーデグントがドアノブを固定しているなら、ダグラスとユベールの二人がかりでも回す事はできないだろう。

 ダグラスは早々に正攻法を諦めた。

 カノンの許可が出たので、エネルギーの残っているプラズマチェーンソーで蝶番とドアのラッチボルト部分を切る。


 ――だが、そこで失敗に気づいた。


「……このあとどうしましょうか?」


 扉の向こうにはフリーデグントがいるらしい。

 ならば蝶番などを破壊しても、結局は彼女を押し退ける力が必要になる。

 だがフリーデグントなら、人間二人とエルフ一人くらいならなんとか耐えるかもしれない。

 この扉を簡単に押し倒す事はできないだろう。


「ドアの上半分を切り落とすのです」

「なるほど」


 カノンの指示通り、ダグラスは扉の上半分をプラズマチェーンソーで切ろうとする。


「きゃっ」


 扉の向こう側からフリーデグントの悲鳴が聞こえた。

 プラズマチェーンソーに当たったかどうかは、扉を破壊し終わるまでわからない。

 その結果は、すぐにわかる事になった。

 扉の上半分が切り落とされると、フリーデグントが向こう側から睨んでいた。


「あっ、無事だっ――ぐへぇっ」


 彼女は扉を使ってタックルしてきた。

 ダグラスは避けたが、避けられなかったカノンとユベールが吹き飛ばされる。


「危ないじゃないですか!」


 フリーデグントは怒っていた。

 だが、カノンも負けてはいない。

 すぐさま復活した彼は彼女に言い返す。


「あなたもでしょう! 体中の骨が折れたかと思いました! サンクチュアリ内でなければ死んでいたかもしれませんよ!」

「先にそちらが危険な行為をしてきたからです!」

「それはキドリさんが――そうだ!」


 カノンはフリーデグントの頭の上から部屋の中を覗きこむ。

 彼の思った通り、キドリはパソコンでなにかをしていた。


「キドリさん! なぜそんな事をするんですか!」


 カノンが叫ぶ。

 キドリは振り向く事なく、パソコンに向かいながら返事をする。


「ついさっき世界が滅びかけた事を忘れたんですか? あれはスズキさんのリテラシーが低すぎたせいで起きた事です。スズキさんがそのまま神になったら、また同じ事を繰り返してしまう。だから私が神になるんです」

「自分なら上手くやれる。そう思うのは傲慢というものです!」

「それはスズキさんでしょう! 致命的な失敗したばかりなのに、自分なら神になって上手くやれるって思い込んでいるじゃないですか! 私は自分が上手くやれるとは思ってません。スズキさんよりマシだ・・・・・・・・・・と思っているだけです」

「くそっ……」

「スズキさんがITリテラシーを身につけるまでは私が神になります!」


 アリスの事を持ち出されると、カノンも強くは出られなかった。

 要求された権限を吟味するのが面倒だったので、よく考えずありとあらゆるアクセス権限を与えてしまったからだ。

 これは言い逃れようのないミスである。

 この話題は分が悪いと判断したカノンは話題を変えようとする。


「キドリさん、あなたは元の世界に戻りたいと言っていたではありませんか。この世界の神になるという事は、元の世界への帰還を諦めるという事です。もう家族に会えなくなるのですよ! それでもいいんですか!」


 カノンの言葉に反応してキドリが振り向く。

 その表情は暗い――ものではなかった。

 むしろ勝ち誇ったものである。


「神の力を使えば、同じ場所というだけじゃなくて、召喚されたのと同じ時間に戻れるかもしれないって言っていたのは誰でしたっけ?」

「それはあなたのために気休めで言っただけです! 力には責任というものが伴うのですよ!」

「その結果はもうわかります」


 キドリが“ターン!”と音を響かせてエンターキーを押した。

 彼女の体がアリスの時と同じく、神々しい光に包まれる。

 カノンの口から“ああっ……”と声が漏れた。


「お前も神になるのかよ……」


 またしても先を越されてしまったカノンは力なくその場に崩れ落ちた。


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おそらく次回辺りで最終回!

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