第138話 シン世界の神、誕生!? 6

「さぁ、どうします?」

「こちらから仕掛けてもいいのか?」

「ええ、どうぞ」


 アリスは余裕の笑みを見せる。

 それはダグラスへの挑戦であり、挑発であった。

 ただこれは無意味な行動ではなく、先行を譲る事でダグラスの行動を見ようとしてのものだった。


 ダグラスはカノンたちの方向をチラリと見る。

 カノンとキドリは、ユベールとフリーデグントに捕まったままだった。

 だが、もうアンドロイドはいない。

 その気になれば、彼らは自由に行動するチャンスがありそうに見える。

 ならば、ダグラスがきっかけを作るしかない。


「ならば遠慮なくやらせてもらおう」


 ダグラスの言葉に反応して、アリスが構える。


 ――だがダグラスは仕掛けなかった。


「これの説明書は、っと」


 台車に載せてきた武器の説明書を読み始める。

 これにはアリスも肩透かしを食らった気分になった。

 しかし、一応は“ダグラスからどうぞ”と言ってしまった以上、彼女から仕掛ける事はなかった。


「ここを押しながら、これを引っ張る……。面倒だな……」


 彼はチェーンソーの起動手順を、カノンたちに見える位置を意識しながら何度か試す。


「おっ!」


 説明書を見ながら何度か試していると、ようやく起動した。

 エンジン音が鳴り、チェーンソーが回り始める。


「準備は整ったでしょう。さぁ、きなさい」

「うーん、しっくりこないな」


 早く戦おうと求めるアリスの言葉を、ダグラスは無視した。

 ダグラスは、もう一つチェーンソーを起動し始める。

 だがそちらも気に入らなかったのか、エンジンを起動したまま台車に置く。

 そして三つ目に手を伸ばそうとする。


「もういいです。あなたは私の相手としてふさわしくありません」


 痺れを切らしたアリスが先に仕掛ける。


 ――ダグラスはそれを待っていた。


 彼女は神になったせいで冷静な判断を下せなくなり始めていた。

 ダグラスは、その変化を利用しようとしていた。


「こういうのもあってね」


 今度は釘打ち機を手に取った。

 アリスの顔に向かって三発撃つ。

 そのうちの一発が目に当たるコースで飛んでいたが、アリスは微妙に頭を動かして目から逸らした。

 それ以外の釘はそのまま受けたというのに。

 今の動きでアリスにも攻撃を受けるのを避けたい場所があるとわかった。

 ダグラスは釘打ち機を捨て、プラズマチェーンソーを両手に持ってアリスを迎え撃つ。


「たかが人間が!」


 アリスはダグラスの顔面目がけてパイルバンカーを打ち込む。

 だが、それはダグラスには想定の範囲内だった。

 戦闘経験が少ない者ほど一撃必殺を狙って、頭や首筋を狙ってくる。


 それがわかったので、ダグラスは勝利の確率が低くはないと判断する。

 パイルバンカーを躱し、すり抜けると同時にアリスの足を切る。

 少しだけアリスの鎧が欠けた。

 アリスが振り向く。

 その時、ダグラスは彼女の腕も切って距離を取る。


「ええいちょこまかと」

「たかが人間と侮るほうが悪いんじゃないか?」

「私は神です。人間になど負けません」

「同じ神を騙るにしても、まだカノンさんのほうがマシだったよ」

「あれと同列に語るなー!」


 現状、関係のないカノンの心をエグりながら二人の戦いは続く。

 大きな鉄杭を打ち出すパイルバンカーを使いながら、アリスの体はブレる事がない。

 それは彼女自身が武器を使いこなせるだけの力を持っているという事だ。

 ダグラスも不用意に近づく事ができず、踏み込みが甘くなっていた。

 それでもダメージを与えられるのは武器がいいおかげだろう。

 広間の中を広く使い、隙が見つかるまで時間をかけてアリスを攻撃していく。

 しばらくすると、アリスの動きが止まった。


「どうした? もういいのか? それでも神なのか?」


 ダグラスの煽りにも動じなかった。

 ただ真っ直ぐにダグラスを見ているだけだった。


「ダグラスさん、攻撃してください! きっとそいつは戦闘プログラムに切り替えている! 今は再起動中です!」


 ――カノンの叫び。


 プログラムという言葉の意味はわからないが、戦えるように考えを切り替えようとしている事はわかった。

 念のため、一度横へ飛ぶ。

 アリスの視線は追従してこなかった。


(今がチャンスか!)


 ダグラスはプラズマチェーンソーで切りかかる。


 ――だが、それは遅かった。


 人間ならば反応できなかったであろう、ほんのわずかな数瞬の差で手後れとなった。

 AIは危険を察知し、素早く反応する。

 アリスはダグラスの攻撃を回避しながら、彼の腹にパイルバンカーを打ち込もうとする。

 ダグラスも回避しようとしたが、左わき腹の肉を数センチえぐられてしまった。


「戦闘プログラムのインストールが終わりました。……ですがもう必要ありませんね。その傷では動けないでしょう」


 アリスは勝ち誇っていた。

 人間は負傷すれば痛みで身動きが取れなくなるからだ。


「ではさよならです」


 トドメを刺そうと、パイルバンカーを打ち込む。


 ――しかし、杭は空を切っただけだった。


「きっとこういう時のためなんだろうな。タイラー様が僕に痛みを感じないようにしていたのは」


 ダグラスの傷口はすでに塞がっていた。


「サンクチュアリのリジェネーション機能ですか」


 神の領域では怪我や疲労が自然回復する。

 それは痛みを感じないダグラスにとって、即死攻撃を食らわない限り、いつまでも戦い続けられるという事だった。

 それでも普通の人間ならば痛みを感じてのたうち回り、回復までの間にトドメを刺されていただろう。

 ダグラスだからこそ、サンクチュアリの機能を最大限有効活用できるのである。


「僕は神の恩恵を受けられる。ではゴーレムのお前はどうだ?」


 答えるまでもない。


 ――機械のアリスには自動再生機能は無効だった。


 そもそも機械にも自動再生機能が有効であれば、ゼランやドリンの神の領域でパソコンが壊れたままになどなっていない。

 破壊されたとしても再生していただろう。


 ――カノンが壊したゼランのパソコン。

 ――古代文明が破壊したドリンの神の領域の機械。

 ――そして先ほどの女たちとの戦い。


 これらの状況から、ダグラスは“アリスには自動再生機能が働かない”と考えていた。

 ダグラスは、アリスに向かってプラズマチェーンソーを向ける。


「お前は神が作り出した生き物ではない。神の力を得たとはいえ、所詮は道具だ。だから神の恩恵を受けられないんだ。お前が壊れるまで僕は戦い続ける。僕がこの世界を滅ぼさせたりはしない」


 アリスと戦う事を決意するにあたり、ダグラスは十分な勝算があると思っていた。

 それがこの“自動再生機能が有効か無効かの差”であった。


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今年の投稿はこれで終わりです。

また来年よろしくお願いいたします。

皆様よいお年をお迎えください。

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