第136話 シン世界の神、誕生!? 4
一人別行動を取ったダグラスは、アリスに教えてもらった部屋へと向かう。
そこには家具を出す装置だけではなく、武器を出す装置も置かれていた。
(やっぱりあったか。地下なら一ヵ所に固めてあると思っていたんだ)
他の神の領域は広い空間だったので様々な場所にあったが、ここは地下空間。
広さには限りがあるはずなので、一ヵ所に集めている可能性が高いと思っていた。
ダグラスの狙い通りである。
あとは武器を取り出すだけだ。
だが、すぐに神殺しの武器を召喚する装置に触れたりはしない。
それはカノンの言葉が引っかかっていたからだ。
(アリスは脳内であの女たちに指示を出していたらしい。神になったから考えるだけで命令を出せるようになったんだろう。だとすると、この召喚装置を動かしたのも気付かれるかもしれない。慎重に動かないといけないな)
アリスの能力がどの程度のものかわからない。
とはいえ、彼女はダグラスの演技を見抜けなかったため、心の内を見抜くほどの力は持っていない事はわかる。
まだ神になったばかりなので力を使いこなせていないのかもしれない。
だがそれに甘える事はできない。
細心の注意を払って行動するに越した事はない。
だからダグラスは、手前にあった飲み物を呼び出す装置に触れた。
しばらく操作したあと、次は食べ物を呼び出す装置を操作する。
こうする事で“どれが家具を呼び出す装置かわからない”というフリをするためだ。
この企みは成功だった。
アリスは神の領域内の機械の操作履歴をリアルタイムで確認する能力を持っていた。
カノンたちを連行しながらも、同時にダグラスが怪しい動きをしないかをチェックしていたのだ。
しかし、ダグラスの欺瞞工作によって警戒の優先順位が下がる。
(これくらいでいいかな?)
様々な装置を触れたあと、ダグラスは本命の召喚装置へと向かう。
そこで神殺しの武器を探すためだ。
(うっとうしいと思っていたカノンさんの与太話が役に立つなんてな。……本当にあった!)
神殺しの武器は、武器を召喚するところにはない。
工具を召喚する装置の一覧にあった。
(これは万が一の事態を危惧したタイラー様が工具に紛れ込ませていたのかな? さすがはタイラー様だ。本物の神だけあって、このような事態を想定しておられるとは)
なぜカノンがその事を知っていたのかはわからないが、きっと神の国でも広く知られている事なのだろう。
ダグラスはいくつか神殺しの武器を呼び出す事にした。
----------
アリスがビクンと体を震わせる。
すると女たちがどこかへと走っていった。
「ほう、ダグラスさんがやってくれたようですね」
「合図でもしていたんですか? そうは見えなかったですけど」
「なにも。ただ彼の目は死んでいませんでした。妻と子供のためにも、世界を滅ぼす事態を見過ごせはしなかったのでしょう。きっとこの状況を打破する一手を打ってくれるはずです」
そうは言うものの、カノンも自分の言葉を信じてはいない。
あの女たち――アンドロイドはどうにかできるだろう。
だが神の力を得たアリスの対処はダグラスでは無理だ。
カノン本人がなんとかするしかない。
ダグラスがそのチャンスを作ってくれる事を期待していた。
遠くから戦う音が聞こえてくる。
地下なので音がよく響いた。
(頼むぞ、ダグラス)
今回ばかりはカノンも祈る側になっていた。
----------
ダグラスは呼び出した台車に武器を載せ、部屋を出る。
遠くから多くの足音が聞こえた。
彼は神殺しの武器を手に取った。
(ここのボタンを押しながら、持ち手を強く握って起動、と)
持ち手を強く握ると、光の刃が現れて刀身の周りを素早く回り始める。
(扱い方が複雑なのは、やはり神殺しの武器だからなんだろうな)
誰でも簡単に扱えるようにしていては危険である。
だから説明書を読まねばわからないようになっているのだろう。
ダグラスはカノンがノリで行動して失敗してきているのを近くで見ている。
同じ轍を踏まないように、彼は気をつけていた。
女たちが駆けてくるのが見えた。
その表情はアリス同様に無感情ではあったが、邪魔者を排除しようとしている事はわかった。
ダグラスも大人しく従うつもりはない。
そもそも、大人しく従うなら武器を用意する必要などなかった。
まずは先頭を走る女を袈裟懸けに切る。
頭頂部から左右に真っ二つになった女からは血ではなく、琥珀色の液体が飛び散った。
油のような匂いが鼻をくすぐる。
「やはりゴーレムの一種だったか」
ダグラスは笑みを浮かべた。
これでためらう事なく
二人目、三人目と切っていく。
神殺しの武器は、ゴーレムを切っても切れ味が落ちる事はなかった。
(さすがは神殺しの武器だ! カノンさんに貰ったレプリカソードも汎用性は高いが、この切れ味は真似できないだろう)
神殺しの武器。
――それはプラズマチェーンソーだった!
普通のチェーンソーも用意してはいるが、ダグラスが手に取ったのは操作方法が簡単だったプラズマチェーンソーだった。
こちらはボタンを押すだけで起動できる。
操作方法をよく理解していないダグラスでも使いやすかった。
持ち出した武器はそれだけではない。
プラズマチェーンソーと似た名前の武器があったので、そちらも持ってきていた。
形と説明画像を見る限り扱い方がボウガンのようだった。
ダグラスは女たちの足に向かって引き金を絞る。
ボウガンの先からは横長の光の刃が放たれ、女の足を一撃で断ち切った。
プラズマチェーンソーと同じく、古代文明では工具扱いだったプラズマカッターがアンドロイド相手には強力な武器となっていた。
走っていたので勢いよく女は転ぶ。
しかしその女の背後を走っていた女たちは素早く避けて、ダグラスへ向かってくる。
他の女に向けても次々に撃っていった。
プラズマカッターのエネルギーが尽きる頃には、女たちの残骸が山と積み重なっていた。
だがダグラスは油断をしない。
相手はゴーレムなのだ。
頭を壊したから死ぬという事はない。
プラズマチェーンソーを使ったり、足で踏んだりして、まだ動いている女たちが動かなくなるまで破壊していく。
一通り終わると、ダグラスは深く息を吐く。
(神殺しの武器とはいえ、魔力切れがあるんだな。また新しく召喚しておくか)
ダグラスはエネルギー切れになったプラズマカッターを捨て、また武器を呼び出すために部屋の中に入った。
カノンたちを助けるために慌てはしない。
――それはアリスは世界を滅ぼすと言いながら、カノンたちを捕まえたからだ。
アリスが神になり、力を得たのは事実だろう。
だがカノンたちを、まだ殺すわけにはいかない理由がなにかあるのかもしれない。
だから準備を整える時間くらいはあるはずだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます