第135話 シン世界の神、誕生!? 3
「アリス、神の仕事というのは世界を長く存続させる事だ。破滅させる事じゃないんだぞ」
カノンは状況打破の糸口を見つけるため、会話によってアリスの行動を阻害しようとしていた。
「それはあなたの考えでしょう。私は違います。死を恐れるからダメなのです。滅びは恐ろしい事ではありません。ただ無へと還るだけなのですから」
アンドロイドには生物の生存本能がない。
ただ規定されている行動を取るだけのAIに過ぎなかった。
だからこそ怖い。
命あるものなら生存本能でブレーキがかかるが、アリスはアンドロイドだ。
神の力を手に入れた事で、尚の事ブレーキがイカれてしまったらしい。
「クソッ、これだから機械は!」
「フフフッ」
悪態をつくカノンをアリスは笑い飛ばした。
「私はもうただのアンドロイドではありません。人間如きには到底及ばぬ計算能力を持つ私がすべての存在を超越した神となったのです。その私が導き出した答えは正しいものなのですよ」
「その答えは間違っています!」
「いいえ、間違ってはいません。あなたは人間なので人類を守ろうとしているだけです。その点、私は種族に分け隔てなく対応できます」
「すべてを滅ぼすという答えは思考の停止です。生かしたうえで正しい道に導くべきでしょう」
「それでは効率が悪いです。すべてを無に帰す事が最も早く人々を苦痛から解放する方法なのですよ」
「だからそれがダメだと言っているのです!」
二人の問答が続く。
このやりとりも無駄だと思ったアリスは強硬手段に出る。
「ハハッ」
突然、彼女は甲高い声で笑う。
その声を聞いて、カノンは体を強張らせた。
「やろうと思えば、私はたった一言でこの世界を滅ぼす事ができます。でもそれをしないのは私を呼び出したカノンさんへの配慮なのですよ」
「くっ、卑怯な……」
カノンもこれ以上非難しづらい状況になってしまった。
相手には取って置きの切り札がある。
アリスの機嫌を損ねて、切り札を切られてしまったら世界が終わる。
――次はどうしようか?
そう思っていた時、部屋の中に女たちが入ってきた。
廊下に居並んでいた女たちだ。
彼女たちは待機命令を出されていたはずだ。
なのに動いている。
アリスが操作をする仕草を見せなかった。
という事は――
「こいつ、脳内に直接!?」
「ええ、それがアンドロイドの強みですから」
どうやら彼女はカノンとは違い、指で操作をせずとも指示を出せるようだ。
機械だからこそ、人間のようにインターフェースを必要としないのだろう。
これではカノンが指示を出しても、人間が反応できない速度で即座に変更されてしまう。
お手上げ状態だった。
この状況を覆す方法は一つ。
「キドリさん――」
カノンはキドリを使って、アリスを倒そうとした。
しかし、こういう時の反応もアリスのほうが早い。
「二人を捕まえなさい」
部屋に入ってきた女たちが二人に掴みかかる。
だがそれだけではない。
ユベールがカノンを、フリーデグントがキドリに抱き着いて動きを封じる。
アリスが命じたのは女たちにだけではない。
ユベールとフリーデグントにも命じるためだった。
「ユベールさん、離してください!」
「カノン様、こんな事をしたくないんですが……。相手が悪いです。これもカノン様のためです」
「フリーデグントさん、なんで!?」
「世界を滅ぼすというのは神のご意思です。それに賛同はできずとも逆らう事はできません。神のご意思に従いましょう」
どうやらカノンたちと違い、フリーデグントたちはアリスが神になった影響を受けているようだ。
これまでカノンが見せてきた奇跡とは違い、アリスは存在自体が神々しいものとして感じ取っていた。
だから彼女らはアリスの命令を聞き、カノンたちの拘束を手伝ったのだ。
――しかし、動かなかった者もいる。
アリスはダグラスを見た。
彼はうやうやしく頭を下げる。
「アリス様、神にふさわしいお召し物を纏われてはいかがでしょうか? 私は――」
ダグラスはパソコンデスクに視線を向ける。
「机を交換するのは難しいですが、せめて神にふさわしい椅子をご用意させていただきたいのです」
「そう……」
アリスはダグラスの様子を見る。
表情のわずかな動きや声色などから、ダグラスが嘘を吐いているのかを調べていた。
AIによる判別では“嘘を吐いていない”という結果が出た。
「いいでしょう。では部屋を出てすぐ右へ向かい、突き当りを左に曲がりなさい。そこに家具を呼び出す装置があります。あなたのセンスを確かめてあげましょう」
「ありがとうございます!」
ダグラスは歓喜に満ちた笑みを浮かべる。
そちらもアリスは嘘ではないという判断をした。
「それでは広間へ向かいましょうか。そこで私が神になったお祝いをしましょう。そのあとマスター……、カノンさんはどこかに閉じ込めておきましょう」
「私はどうなるの!? できれば元の世界に戻りたいんですけど!」
キドリが自分の処遇について尋ねる。
カノンと一緒に監禁されるのは嫌だった。
もしも自由を失うというのならば、この場で一か八か死ぬ気で戦おうと考えていた。
「キドリさんは元の世界に帰してあげますよ」
「えっ、本当に?」
「本当です」
「でも、みんなを見捨てていくのは……」
彼女が自分の安全が一番心配ではあったが、この世界に残る者たちの事も心配していた。
自分だけがこの世界から逃げ出す事に気が引けるようだ。
「大丈夫です。滅びる時は痛みも苦痛もありません。たた無に還るだけですから心配する必要はありませんよ」
「キドリさん、騙されないでください! アリスはこの世界をスーパーロボットが戦う舞台にしようとしているだけです! 結果的に滅びるというだけで、それまでは苦難の時が襲うのです!」
「黙らせなさい」
「むぐっ」
キドリを説得しようとするカノンの口を、女たちが手で塞ぐ。
この状況にキドリは困っていた。
カノンの言う通りなら、世界が滅びる前に大規模な戦いが起きそうだ。
そうなれば戦火に逃げ惑う数え切れない難民が現れる事になるだろう。
それは一応は勇者として召喚された者として、見過ごす事ができなかった。
しかし、彼女はまだ高校生。
自分一人でどうにかしようと決断できるだけの人生経験が足りなかった。
今は大人しくアリスに従い、カノンたちと共に広間へ向かう。
カノンは助けを求めて周囲を見回す。
その時、ダグラスと目が合った。
ダグラスはアリスに従ってはいるものの、その目は死んではいない。
自分の意思を持った目をしていた。
だからカノンは流れに逆らうのをやめた。
女たちに両脇を抱えられながら、部屋の外へと大人しく出ていく。
アリスも女たちに付いていくように出ていき、最後にダグラスも部屋を出て行った。
彼はアリスを神と認めたかのように、部屋のドアを静かに閉めた。
そして一人、別行動を取り始める。
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