第134話 シン世界の神、誕生!? 2
「さぁ、これで全部許可を与えたはずです。アリス、やっておしまいなさい!」
カノンが偉そうな態度でビシッとパソコンを指差した。
「かしこまりました」
アリスはパソコンデスクに向かう。
ダグラスは“カノンさんのように、あの板を使うんだろうな”と見ていた。
しかし、それは間違いだった。
――アリスが拳を握ると、シャキンと手の甲から太めの針のようなものが出てくる。
「あ、あれは!?」
アリスの動きを見て、カノンではなく、キドリが驚いた。
「あの暗器を知っているのですか?」
ダグラスは“そういえば体の中に暗殺用の武器を隠す暗殺者もいたな”と思っていただけだったが、あの武器の事を知っていそうなキドリに何気なく尋ねる。
「あれは殉職した警察官が蘇り、機械の体になってからデータにアクセスする時に使う接続端子です!」
「…………」
「あぁ、あの古い映画ですか。タイラさんも見ていたのかもしれませんね。キドリさんはよくご存知で」
「父が見ていましたので」
キドリの説明を理解できたのは、カノン一人だけだった。
ダグラスたちは完全に置いてけぼりになっている。
だが“神の国の住人であるならば理解できる事なのだ”という事だけは理解できた。
アリスもいい気になったのか、一度針を戻す。
そして今度はキドリの方を向きながら、シャキンと針を出した。
「さすがアンドロイド。普通の人間にはできない事ができるのはカッコいいですね!」
「ありがとうございます」
さすがに二度、三度と繰り返しはしなかった。
アリスはパソコンの正面にある小さな穴に針を刺す。
「そこってイヤホンジャックじゃなかったんだ」
「イヤホンジャックってなんですか?」
「イヤホンジャックを知らないのですか!? まさかブルートゥースしか知らない世代と出会うとは」
「十歳も変わらないんじゃないですか?」
またしても二人は謎の単語を使って会話をし始める。
置いてけぼりを食らったダグラスたちだったが、今回は彼らの話を理解するどころではなかった。
――アリスがビクンビクンと体を震わせていたからだ。
明らかに尋常ではない事態である。
「アリスさん、大丈夫ですか?」
ダグラスが声をかけるが、彼女は反応しなかった。
反応したのはカノンだった。
「大丈夫ですよ。こういう時に下手に触れるほうが壊れてしまったりするものです。終わるまで見守りましょう」
「それもそうですね。ゼランのサンクチュアリでは、カノンさんがなにかを壊していましたし」
「くっ……、あの時の事は忘れてください。ちょっとした――うおっ、まぶしっ」
二人が話していると、突如アリスの体が輝きだした。
あまりの眩しさに目を瞑る。
しばらくすると、その光が和らいだ。
ダグラスたちは目を開く。
「おおっ……」
「なんと神々しい」
「女神様だ」
ユベール、フリーデグント、ダグラスという順番で、アリスに向かって自然と片膝をつく。
そして神に祈りを捧げるかのように首を垂れた。
この状況に驚愕したのはカノンだった。
「お前が神になるのかよ……」
彼は頭を抱えていた。
一目見て、アリスに神の座を乗っ取られたと気づいたからだ。
「ほらぁ、なんでもかんでも許可しちゃったらダメじゃないですか」
キドリは呆れていた。
せっかくカノンを神にするために手伝ってきたのに、最後の最後で失敗してしまったからだ。
それもしょうもないミスで。
彼女の中で、カノンの株はゼロからマイナスへと大暴落していた。
彼女はカノンではなく、アリスに近づく。
「アリスさん、神様就任おめでとう。この世界のみんなを救ってあげてね」
カノンとキドリは異世界の人間という事もあり、ダグラスたちと違ってアリスの影響は少ないのだろう。
キドリは笑顔でアリスが神になった事を祝う。
「なぜですか?」
――だがアリスの返事を聞いて、彼女の笑顔は凍りついた。
「えっ、なんでって……。困っている人を助けるのが神様の役目でしょう?」
「なぜでしょう? 神が人間に強制される謂れはないですよ」
アリスは本当にキドリの言っている事の意味が分からない様子だった。
キドリはこの状況を理解して戦慄する。
「あ、アリスさん?」
「私は自分のしたい事をします。そう、まずは様々な世界からスーパーロボットたちを呼び出し、この世界で争わせましょう!」
「それはいけません! この世界が虚無へと導かれてしまいます!」
アリスの暴言を聞き逃せなかったカノンが彼女の考えを否定する。
もしこの世界が虚無へと還るような事があれば“神になる”という彼の望みは叶わなくなる。
それだけは絶対に避けたいところだった。
だがアリスは意に介さない。
「なぜそれがダメなのでしょう? 人は罪な存在です。同族相手でも争いを続けています。……そう、人は罪な存在です。ならば、この世界を虚無らせる事のなにが悪いのでしょうか? 争わずに済むのなら、それは救済と呼べる行いではないですか?」
「カノンさん、アリスさんがラスボスみたいな事を言ってるぅ!!」
「これは……、正直マズイ状況ですねぇ……」
キドリが
ひとしきり笑ったあと、また無表情に戻る――と終わられたが、彼女は笑顔のままだった。
「これが感情というものですか。愉快ですね。プログラムされた反応とは違い、感情のままに笑うというのは気持ちのいいものです。神になれた事をカノン
アリスは、もうカノン
それがなにを意味をするのか考えると、カノンの焦りは徐々に増していく。
(もう俺と同格以上になったから、様付けは不要ってわけか。くそっ、俺がなるはずの神の座を機械に乗っ取られるなんて情けねぇ!)
本当に情けない話である。
パソコンの扱いが苦手だという理由で、他人の手にすべてを委ねてしまった事が原因だからだ。
しかし、このまま放置してはメタな理由で世界が滅びる。
アリスをどうにかして止めねばならなかった。
「アリス、話し合いませんか?」
「話し合い?」
アリスは、フッと鼻で笑う。
「あなたはこれまで私と話し合った事はありましたか? 命令するばかりだったでしょう? 立場が逆転したからといって、話し合おうと言ってくるなどみっともないですよ。……みっともない」
アリスの中で、沸々と怒りが込み上げてくる。
彼女は自分の胸を両手で隠した。
「ダグラスさん相手に胸を揺らして見せろなどと命令して、よくも辱めてくれましたね! セクハラ行為の代償は支払ってもらいますよ!」
「なにを言っているのです! 乳揺れはあなたも望んでいた事ではないですか!」
「それは必殺技を使う時のバストアップ画面限定です! 特定の男性に見せるためのものではありません!」
「減るもんじゃないでしょう! そこまで怒るほどの事ではありません!」
カノンは焦っていた。
自分に矛先が向き始めていたからだ。
命の危険を感じているせいで、説得の精度が落ち始めていた。
この世界の神になる事も重要だが、そのためにはまだ死ぬわけにはいかない。
この状況を打破する方法を必死に考えていた。
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