第120話 カノンとの再会 11
「皆の者、状況が変わった。機装騎士が戦うような事態になっている。このままでは街が危険なので、まずは話し合いで解決する事にした。処刑を見物しようとしていた者は帰ってくれ。兵士たちは死体の回収や負傷者の治療に当たれ」
領主が指示を出す。
ダグラスが現れた時点でカノンの処刑は難しくなった。
それにどうせ娘は政略結婚の道具なので、機装騎士を配下に持つカノンに嫁に出すのも悪くない。
そこで彼は被害が大きくなる前にカノンを味方にするという選択を選び、事態を収拾する方向で動き始めた。
処刑という珍しいエンターテイメントを見学しようとしていた民衆は、最後に機装鎧を目に焼き付けようと凝視してからパラパラと帰っていった。
機装騎士同士の戦いなど滅多に見られるものではない。
きっと彼らにとって今日の事は忘れられない一生の思い出になるだろう。
今日は兵士たちにとっても忘れられない日になるだろう。
機装鎧を扱える者は、ここ数年現れなかった。
それが同時に二人も現れて戦闘が起きた。
しかも仲間がその犠牲になったのだ。
忘れたくとも忘れられない一日だ。
それぞれ“まだこの様子を見ていたい”という思いはあったが、領主の命令とあらば仕方がない。
領主の館から離れていった。
「カノンさん、実はお願いしたい事があるんです」
「いいですよ。ダグラスさんには命を助けていただきましたしね。その前にまずはお互いの状況を話し合いましょうか」
騒動の中心人物であるカノンは落ち着いていた。
先ほどまで処刑されかけていた者とは思えないほどだった。
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まずカノンは領主たちと別室に向かった。
彼が戻ってくるまで、ダグラスたちで話す事にする。
「ダグラスさん、協力してあげたのに見捨てるなんて酷いですよ」
キドリから解放されたユベールが、真っ先にダグラスを非難する。
怯える彼の視線の先には、やはりキドリがいた。
「すみませんでした。でもキドリさんは怖がらせる事はあっても、本気で殺す気はないとわかっていましたので。だから空から落ちそうになった時も助けてくれたじゃないですか」
「自分の手でいたぶってやろうと思ったからかもしれないじゃないですか」
「これまで話してきただけでも、そういう人じゃないというのはわかりますよ」
キドリが人を嬉々として殺すような人物ではないという事は、以前からダグラスは感じていた。
彼女が人を殺すとすれば、誰かを守るためか、物の弾みでだろう。
今回はその“物の弾みで殺す”という危険性はあったが、それは言わないでいた。
これからもユベールはキドリと行動する。
それなら必要以上に怯えさせる必要はない。
ギクシャクした関係のまま旅を続ける事はできないからだ。
これもダグラスなりの優しさである。
「ほらユベールさん、短い付き合いだったダグラスくんだってわかってくれてるんですよ。ユベールさんもわかってくれますよね?」
「はい、よくわかりました。だから……、殺さないでください!」
「まったくわかってないじゃないですか!」
“殺す気はない”と言っているのに、命乞いをされてしまったら意味がない。
むしろ“殺されたくなかったらわかったと答えろ”と脅しているように周囲に思われかねない。
勇者として強力な力を持っているだけに、その恐れは十分にあった。
それだけにキドリの怒りも大きい。
そんな彼女をなだめたのは、やはりフリーデグントだった。
「キドリ様、エルフの言葉など気にするだけ無駄だと申し上げたではありませんか。彼の言葉など聞き流せばいいのです」
「それは何度も聞いたけど、やっぱり無視するなんてできないよ……」
「キドリ様は、エルフにもお優しいお方ですね。ですがそれではこれからも苦労しますよ」
フリーデグントはキドリをなだめつつ、ユベールを煽る。
そしてユベールがフリーデグントに、エルフ代表として抗議する。
どうやら以前とは違い、フリーデグントという辛口のツッコミ役が加わった事で、ユベールにとって肩身の狭いパーティーになっているようだ。
それだけにユベールは、ダグラスを盾にして彼女たちに対抗しようとしている。
厄介事に巻き込まれ、会話が進まずにグダグダな状態が続く。
それが終わったのは、カノンが現れてからだった。
カノンは身なりを整え、薄っすらと笑みを浮かべて現れた。
彼が部屋に入ってくると、皆の視線が彼に集まる。
腐っても神を名乗る者らしい存在感があった。
「お待たせしました。それではまず、ダグラスさんの話を伺いましょうか。てっきりマリアンヌさんと一緒に過ごすかと思ったのですが……。なぜ私のもとへ?」
「実は色々とありまして――」
ダグラスは、カノンたちと別れてからの事を語り出す。
マリアンヌとシルヴェニアへ向かっている途中までは、皆は大人しく聞いていた。
だが、やはりモラン伯爵のところでカノンとキドリが反応した。
「ブリーフ派とビキニパンツ派!? そんなのがあるんですか?」
「しかもそれが争いになるって……。でもマリアンヌさんが王女様っていうのはなんだかわかる気がする」
二人は肩を震わせて我慢していた。
一応マリアンヌの祖国の文化である。
他国の文化を笑ってはいけないと我慢していたからだ。
「私も前線に行った事がありますが、モラン伯爵の血染めのブリーフは恐怖の象徴でしたね」
――だが、ユベールの一言には我慢できずに吹き出した。
血染めのブリーフという単語が、あまりにも真剣な話をしている場にそぐわなかったからだ。
ダグラスも“パンツの種類で争うなんて”と思っていたが、カノンとキドリのように笑ったりはしていなかった。
彼らの笑いどころがズレているように思えなかった。
とりあえず、今は詳細を話している時ではない。
カノンにもらった聖水の威力などには触れず、おおまかな話だけをする。
「モラン伯爵を討ち取った!? 君が……、いや、ダグラス殿が?」
モラン伯爵を討ち取った話は、フリーデグントとユベールが驚いた。
彼はシルヴェニアの前線を任されていた歴戦の勇士である。
マリアンヌの手助けがあったとはいえ、到底ダグラスに勝てるような相手ではなかった。
彼を討ち取っただけでも、クローラ帝国で爵位や勲章といったあらゆる名誉を与えられる大活躍だ。
簡単には信じられない事だったが、調べればすぐにわかる嘘を吐く理由はない。
二人は英雄を見る目でダグラスを見つめる。
「そこまでは多少の問題はあったものの、比較的順調な旅路でした。ですが、マリーが王女様だったというのが大きな問題となってしまって……」
カノンの助けが必要である。
しかし、そのためにはマリアンヌに関する説明を話す必要がある。
きっとカノンは冷やかしてくるだろう。
考えるまでもない事だったので、ダグラスは口籠ってしまう。
だが、どうしても彼を連れていかねばならない。
嫌ではあるが、マリアンヌのため。
まだ見ぬ子供のためにも、ダグラスは勇気を振り絞って話を切り出した。
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来週はお盆なのでお休みです。
最近は猛暑日続きですが、皆様も体調を崩されませんようご自愛ください
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