第115話 カノンとの再会 6
向かった先は大きな街の広場だった。
そこに黒山の人だかりができていた。
「あそこです」
飛行機は広場の上を低空で通過する。
その時、ダグラスにもカノンの姿が見えた。
「なんだ! なにやってるんだ、あの人は!?」
カノンは柱に縛られており、足元には薪が置かれていた。
ダグラスが叫ぶのも無理はない。
だが“どうなっているんだ?”ではなく“なにやってるいるのか?”という言葉に、彼に対する評価がよく出ている。
――ああなった元凶はカノンにある。
そう信じているからだ。
嫌な信頼である。
しかし思わさせるカノンにも責任はあった。
彼はなぜか他人をイラつかせるのが上手いからだ。
(てっきり人を集めて説法でも聞かせているかと思ったのに、あの人は悪い方向で期待を裏切らないな!)
「カノン様が危険です。助けないといけません」
ダグラスが呆れていると、アリスが話しかけてくる。
彼女の言う通り、カノンには危険が迫っている。
彼を助けなければならない。
だが大きな問題があった。
「どうやって助けにいけばいんだ?」
そう、今は空を飛んでいる途中である。
ダグラスも建物の屋根から飛び降りるくらいはできるが、空の上からはさすがに無理だ。
しかも高速で移動している。
馬車から飛び降りるのよりも、ずっと危険なのは明白である。
この状態で降りるのは自殺行為だ。
「大丈夫です。この機体はトランスフォーメーションにより人型――この世界で言われている機装鎧と同じ形態になれます。それならば街中にも着陸できます」
「トランス……。なんだか知らないけど、それで!」
「了解しました。それと私はターゲットを狙う補助はできますが、私は人間への攻撃をできないように設定されています。攻撃をするにはダグラス様の意思決定が必要となります」
「どうすればいい?」
「右側にあるスティックのボタンを押してください。今、光っているところを押している間、対象に向かって攻撃し続けます」
ダグラスの座る椅子の周囲には様々な機器がある。
だがアリスが言うように、ボタンが光っている手のひらサイズのスティックのある場所は一目瞭然だった。
ダグラスはスティックを握る。
しっくりとくる握りやすさで、ボタンも押しやすそうだった。
なんとなくダグラスはボタンを押してしまった。
機首から閃光が走り、腹に響く重低音が鳴り響く。
ちょうどカノンの方角を向いていたので、機銃弾が彼の周辺に着弾した。
「ダグラス様! まだ早いです!」
「ご、ごめん。ちょっと触っただけなんだ」
アリスが焦った声で注意する。
ダグラスもカノンを殺すつもりはないので素直に謝る。
(そうだ。これが機装鎧になれるなら、その破壊力はかなりのもの。もしかしたら街を破壊できるくらい強いかもしれないんだ。下手に触るべきじゃなかった)
機装鎧に対する憧れはあったが、扱う覚悟までは持っていなかった。
ダグラスは機装鎧が危険なものだと思い出し、興味本位で動かすのはいけないと思った。
そして、そこからとある疑問へと繋がる。
「これで人を攻撃するのなら、カノンさんの周囲の人だかり全員殺す事にならない?」
「大丈夫です。武器などの道具を目標にしますので」
「そんな事ができるのか。なら大丈夫だね」
人間を狙うのではなく、道具だけを狙うという。
それはそれで難易度が高いのだが、彼女にはそれができるようだ。
戦闘機を扱えるだけはある。
アンドロイドという名のゴーレムは、なかなか優秀らしい。
「それではいきます」
アリスの言葉と同時に機体が変形を始める。
どこからともなく手足が現れ、機体が半分ほど折れ曲がり、操縦席が機体の胸あたりに移動する。
「うぉぉぉ!」
機体の変形に合わせて座席の角度も変わっていく。
突然の異変にダグラスは悲鳴代わりの驚きの声をあげる。
その間にも動き続けている。
アリスが変形と移動を同時に操り、気がつけば地上に降り立っていた。
地上から十メートルほどの高いところから人々を見下ろすのは壮観だったが、感動している場合ではない。
いつの間にか正面に現れたモニターに無数の光点が、初見のダグラスにも敵を現しているものだとわかった。
「ターゲットロック、トリガーを引いてください」
「こうか?」
ダグラスは先ほど指定されたボタンを押す。
すると、光る弾がカノンの周囲にいる武器を持った一団の胸元を正確に打ち抜いていった。
「お、おいっ、人を殺せないんじゃなかったのか?」
ダグラスも人を殺す事に抵抗があるわけではないが、彼女が言っていた“武器などを狙う”とは大違いの結果に戸惑いを覚えていた。
「武器だけを狙うんじゃなかったのか?」
「鎧も立派な武具です。狙いを定めるのは問題ありません。殺しているのはダグラス様です。私が殺しているわけではありません」
「そんな屁理屈を……」
――これではアリスが人を殺す責任をダグラスになすりつけているだけ。
そう思わざるを得ない状況だった。
だが彼女の言う通り、アンドロイドとして人間に危害を加えてはいけないという条件付けをされていた。
それを本当かどうか知るすべのないダグラスには、ただの責任逃れのようにしか見えないというだけだった。
「ひらめき!」
アリスがなにかを叫ぶと同時に機体を大きく動かした。
ダグラスの体が座席に押しつけられる。
「なにが起きた!」
「敵の攻撃です」
「機装鎧に攻撃を仕掛けてくるなんて……。あれは!」
正面には機装鎧が光る剣を持って立っていた。
そして、その機装鎧には見覚えがある。
――キドリが扱っていたものだ!
「確かキドリさんもカノンさんに同行していたはず。この場にいてもおかしくない。なのに、なんでカノンさんを助けようとしない!? なんでこちらへ攻撃を仕掛けてくるんだ!?」
キドリの機装鎧はダグラスたちに向き直る。
彼女の機装鎧は三メートルほどなので、ダグラスが乗る機装鎧に比べれば小さなものだ。
しかし、彼女からは一撃でこちらを破壊してきそうな怖さを感じられた。
それはアリスも同じようで、周囲から射かけられる弓矢などを無視して、キドリの一挙手一投足に集中していた。
「ダグラス様、キドリ様は敵に回ったようです。必中させますので、魂を籠めて攻撃してください」
「ちょっと待った! キドリさんはこれに僕たちが乗っているって知らないんじゃない? まずは話をしてみようよ」
「なるほど、知り合いだからまずは説得ですか。それも定番ですね」
「普通はそうだよ」
「それでは外部スピーカーをオンにしますので、そのまま語りかけてください」
「わかった。キドリさん、聞こえますか? 僕はダグラスです」
ダグラスが語りかけると、キドリが操っている機装鎧の頭部が操縦席へ向けられる。
「ダグラスさん!? なんでこんな事を……」
返事があった。
やはり操っているのはキドリのようだ。
だが彼女は武器を収めなかった。
むしろ反対に戦闘態勢を取り、今にもダグラスたちに襲いかかってこようとしていた。
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