第114話 カノンとの再会 5
(やっとカノンさんと会える! これでお義父さんにも認めてもらえる!)
彼に腹が立つところも多いが、マリアンヌとの仲が進展すると思えば目をつむる事はできる。
ダグラスはウキウキと荷物をまとめていた。
だがその手をアリスに止められる。
「戦闘機は積載量が限られますので、カバン一つに収まる範囲内で抑えてください」
「ああ、そうか。空を飛ぶんだったね。じゃあ、どうしよう……」
飲み物や食料を入れたので、どうしてもかさばってしまう。
そうなると場所を取っている重い飲料水を諦める事になる。
渋々とジュースをカバンから取り出す。
ただ置いていくだけではもったいないので、一本だけ一気飲みしようとする。
「ダグラス様、こういうものもございますよ。口を開けてみてください」
アリスは小さな袋らしきものを手に持っていた。
ダグラスは彼女の言う通りに口を開いた。
彼女は袋の上部を千切ると中身の粉をダグラスの口の中に注ぎ込んだ。
「ごはぁっ!?」
突然、粉を注ぎこまれたのでダグラスは盛大にむせる。
(こいつ、一服盛りやがったな! こんなに甘いものを……。甘い?)
毒と錯覚するほど強烈な味だったが、体に異常はない。
口の中に強烈な甘みが残るだけだった。
ダグラスはジュースで口の中をすすぎ、そのまま飲み込む。
「それはなんだ?」
「粉末ジュースです。水に溶かせば十分な量のジュースを作る事ができます」
「……それを直接飲ませる理由は?」
「わかりやすいと思いまして」
彼女は“なにが悪いのですか?”と言いたげに首をかしげる。
実際、ジュースの代わりになるものを用意したので褒められると思っていた。
「水に溶かして飲まないといけないほど濃い味だったよ。でもこれを持っていけばかさばらずに済むだろう。ありがとう」
「お役に立ててなによりです」
ダグラスは彼女が取り出した粉末ジュースをかばんに詰め込む。
これならば確かに邪魔にはならない。
水に溶かすなら、薄めに作って長く楽しむという方法もある。
最初からこれを選べばよかったと思うほど素晴らしいチョイスであった。
「よし、準備はできた。じゃあ早速出発しようか」
「いえ、それはやめたほうがよろしいでしょう」
「なんでだ?」
アリスの目が真っ赤に怪しく光る。
まるでカノンに見られているような奇妙な気分だった。
「ダグラス様はお疲れです。体力は回復されておられるようですが、体が睡眠を欲しているようです。一度お休みになられたほうがよろしいでしょう」
「そうかな? ……そうだね。最近はゆっくり休む事ができなかったから、今日は休ませてもらおうか」
「それではお風呂とお布団の用意を致します」
「よろしく」
ダグラスは痛みを感じない。
多少の疲れは感じるが、常人よりも無茶が効く。
だからこそ適度な休憩の必要性は師匠から、しっかりと叩きこまれていた。
空を飛んでいけるという事は、伝書鳩のように早く移動できるはずだ。
彼女が寝る用意をしてくれている間、ダグラスは先ほど口に注がれた粉末ジュースの残りを指につけてちょっとずつ舐めて大人しく待っていた。
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翌朝、ダグラスの気力は充実していた。
やはり十分な睡眠は必要だったようだ。
気分よく朝食を取り、庭へ出る。
そこには鳥というよりも、イカのような平べったくも大きい鈍色に輝くなにかがあった。
きっとそれが戦闘機というものだろう。
アリスがすでに出発の準備を整えてくれていたらしい。
「それでは参りましょうか」
「これは馬とかとはまったく違うようだけど……。どう乗るんだい? 首元に座ればいいのかな?」
ダグラスは飛行機の乗り方を知らない。
そのためドラゴンやグリフォンのように、首の根本に座るのかと考えた。
「いえ、違います」
アリスが首元らしきところに近づくと、そこにガラスの蓋があったようだ。
そこにあったボタンを押すと、頭部にあったガラスの蓋らしきものが持ち上がる。
さらに彼女はどこからともなくハシゴを取り出し、それで前の席に座った。
「このように上って後ろの席へどうぞ」
「あ、あぁ……わかった」
ダグラスもハシゴを登って戦闘機の後部座席に移動する。
座る際にカバンが邪魔になるので、体の前で持つように座った。
「それではシートベルトを取りつけます」
アリスが一度降りてからダグラスの側のハシゴに上り、シートベルトを取り付けていく。
その際に取り外し方なども教わった。
「これで大丈夫です」
「そうか。ところで東に移動するのはいいんだけど、カノンさんを探す方法はなにかあるのかな?」
「戦闘機のシステムと連動する事により、私の探知距離も増大します。二百キロ圏内であれば発見できるようになるでしょう」
「よくわからないけどお願いします」
「お任せください」
アリスが前部座席に戻ると、ガラスの蓋が閉じていく。
それを興味深そうにダグラスはキョロキョロと見回していた。
「滑走距離が足りないため、カタパルトによる発進を行います。体全体を座席に押し付けてください」
「押し付けないとどうなるの?」
「よくてむち打ち、下手をすると首の骨が折れます。では発進!」
「ちょっと待っ――」
抗議の声をあげながら、ダグラスは慌てて体を座席に押し付ける。
すると激しい衝撃が体を襲った。
周囲の景色が目まぐるしく通り過ぎ去っていく。
(これが戦闘機!? ゴーレム用の乗り物じゃないのか? 人間が乗っていいものなのか?)
これまで空を飛んだ経験はないが、馬で駆けまわるのとは比べ物にならない速さなのはわかる。
外の景色を見るだけで一目瞭然だからだ。
しかも街が小さく見えるほど高く飛んでいる。
これでは落ちたら助からないだろう。
カノンを探すためとはいえ、ダグラスはアリスに自分の命を委ねた事を後悔し始める。
戦闘機の加速が終わる頃には、ダグラスも体を押さえつけていたなにかから解放されたような気がした。
「もう体を動かしても大丈夫かな?」
「巡航速度に入りましたので大丈夫です。お疲れ様でした」
「注意は動き出す前に言ってよね」
「以後、留意します」
「頼むよ、本当に」
ゴーレム相手なので、ダグラスは思いついた注意点はその都度指摘する。
こういう相手には先に言っておかねばならないからだ。
効果がどの程度あるかわからないが、念のためだ。
「カノン様の反応を見つけられたらお知らせいたしますので、ダグラス様はお休みください」
「いや、この光景を目に見ておきたいから起きているよ」
「かしこまりました」
今ダグラスが見ている光景は、限られた者しか見えない光景である。
空を飛べるのは一部の機装騎士と、ドラゴンやグリフォンに騎乗する騎士だけだ。
夢に見ていた機装騎士と同じ光景を目に焼きつけようとしていた。
外の景色に見惚れていると時間を忘れそうである。
実際、ダグラスが思っているよりもずっと早く時間が過ぎていた。
「カノン様を発見しました。あと十分ほどで到着致します」
「えっ、もう!」
出発から一時間ほどで、アリスがカノンの反応を発見した。
景色を眺めていたダグラスには出発してすぐ発見した気分である。
二ヶ月分の移動速度を瞬く間に追い付く戦闘機の早さに、ダグラスは度肝を抜かれる。
「ですがカノン様に危険が迫っているようです。戦闘態勢に入る事に同意していただけますか?」
「なんだって! もちろんだ! カノンさんを助けよう! まだ死なれたら困るんだ!」
(もしかして、俺のせいか!? でも勇者のキドリさんも同行しているはずなのに、カノンさんに危険が迫るなんてなにが起きているというんだ!? )
周囲の景色を見る限り、カノンはボールドウィン王国に入ってる。
ダグラスを追う者に“仲間でしたよ”と話してしまい、処刑されかかっているのかもしれない。
食べ物や飲み物などにかまけている場合ではなかった。
たった一晩のタイムロスではあるが、それが致命的だった可能性もある。
「できるだけ早く向かってくれ」
逸る気持ちを抑えきれない。
ダグラスはアリスに急ぐように伝えた。
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来週は諸事情によりお休みです。
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