第110話 カノンとの再会 1
まずダグラスは教会へ向かった。
この街にカノンが立ち寄ったのなら、必ずそこに顔を出すはず。
司祭になにかを話しているかもしれない。
その確認を取るためだ。
他の巡礼者は興味を持ったのか、それとも元々の目的だったからか、ダグラスと共に教会へ向かう。
彼らを鬱陶しく思いはするが、巡礼者の一団が教会へ向かうのは自然な行為である。
周囲の目をカモフラージュするのにも都合がいいので、ダグラスも追い払わなかった。
「司祭様はおられますか?」
教会に着くと、近くにいる修道士に声をかける。
修道士は困った顔を見せた。
「巡礼者の方ですね。遠路遥々ご苦労様です。司祭様にお会いしたいという方々はよくおられますが、司祭様も忙しい身。簡単に面会はできません。面会の予約をお取りください」
どうやらカノン降臨以来、この街の司祭に会いに来る者が増えたのだろう。
突然の来訪者の相手は、いちいちしていられないのかもしれない。
だがダグラスは、ただの来訪者ではなかった。
彼はフードを脱ぎ、顔を晒す。
「僕はカノン様と共にサンクチュアリに入ったダグラスです。カノン様の身に危険が迫っています。その事をご相談にきました」
「えっ……、い、今すぐ確認します」
カノンの名前を出せば一発だった。
修道士は早足で教会の奥へ向かう。
すると彼はすぐに戻ってきた。
――ダグラスと司祭がなにを話すのか?
その内容が気になった彼らは食い下がろうとする。
「重要な話ですのでダメです」
だが、ダグラスは首を振るばかりだった。
彼らに話した内容と同じ話をして、カノンの行き先を尋ねるだけである。
本当に重要な話などない。
その事をバラされないためにも連れてなどいけなかった。
「そうですか……」
巡礼者たちもダメで元々で言っただけである。
なにしろ相手は新しい神と噂されるカノンの従者だ。
これ以上食い下がるのは無礼に当たる。
キッパリとダメだと言われては我慢するしかない。
「では案内をお願いします」
「どうぞこちらへ」
修道士にとって重要なのはダグラスだけだ。
他の巡礼者たちの同席を勧める理由もないので、ダグラスだけを案内する。
司祭のいる部屋へ案内されると彼は出ていった。
「これはこれはダグラス様。カノン様がお越しになられた際に、あなた様があのヴァンパイアをシルヴェニアに送り届けにいったと。つい先日、クローラ帝国から手配書が届いて驚いていたところです。なにがあったのですか」
「実は――」
ダグラスは、マリアンヌを国元に届けに行ってからの事を話した。
もちろん自分に都合が良いように多少の脚色はしていた。
話し終わると、司祭が唸る。
「うーむ……。クローラ帝国の混乱はわからないでもない。私もカノン様の奇跡を目の前で見ていなければ、まだジョージ様が世界を見守っておられると思っていただろう。そもそもあのヴァンパイアを討伐しなくてはならないのなら、カノン様がそう命じておられたはず。カノン様の命に従って送り届けたダグラス様が非難されるいわれはない。大変でしたね」
「ええ、ここまでくるのはとても大変でした。ですがカノン様のご加護により、クローラ帝国を脱する事ができたのです」
ダグラスは心にもない事を言った。
そう言うのが相手の望む答えに近いと思ったからだ。
「さすがはカノン様です」
司祭は何度もうなずく。
どうやら彼の意に沿った答えができたようだ。
「カノン様にお知らせしたいのですが、目的地はともかく、今どこにおられるのかがわかりません。カノン様ならこの地に立ち寄ってからハーゲンへ向かうと思ったのですが……。司祭様はどのようなルートを通って行かれたかご存知でしょうか?」
「カノン様は二ヶ月ほど前にお越しになられました。それから一週間ほどサンクチュアリの中でなにかをされておられたようです。そのあとはハーゲンのサンクチュアリへ向かわれたという事しか私にはわかりません」
「そうですか」
司祭はカノンがどのようなルートを通ったのか知らなかった。
だが、ダグラスにとって希望のある情報だった。
(やっぱりここを通ったか! しかも二ヶ月前というのは良い情報だ!)
なんだかんだで、カノンとの差は三ヶ月分は離れていると思っていた。
それが二ヶ月分の差だという。
一人で行動しているダグラスとは違い、彼らは同行者が多いせいで移動速度が遅くなっているのだろう。
これは朗報である。
だが同時に悲報でもあった。
(けど追い付く頃には、ハーゲンに着いてしまっているだろうな……。無理に追いかけるよりも、戻ってくるのを待つほうがいいかな? いや、ハーゲンのサンクチュアリに居座られると困る。結局は追いかけないといけないか)
――結局、彼をハーゲンの神の領域まで追いかけなければならない。
東へ行けば行くほど、シルヴェニアに連れて行くのが遅れてしまう。
世界を救うための旅なので仕方ないが、ダグラスにとっては厄介極まりない。
一刻も早く彼らに追い付く方法を考える。
「……サンクチュアリ内部を調べてみる事にします。もしかしたら、カノン様がなにか書き残してくださっているかもしれませんから」
ダグラスは神の領域内に入る事にした。
ドリンでは飲食物を持ち出したせいで騎士の恨みを買ってしまった。
だが不必要なものの持ち出しをしなければ大丈夫なはずだ。
――領域内でカノンを追いかけるのに必要な道具を探す。
それだけなら問題はないだろう。
なにしろゼランにある神の領域は、様々な道具を取り出す事ができる。
疲れない馬などを召喚できれば一気に距離が縮まる。
ならば調べずに東へ進むよりも、調べてから進んだほうがいい。
「そうかもしれませんね。中に入れる人は限られますから。……ところで、私も同行してよろしいでしょうか? やはり中に入る瞬間は感動的ですから」
「ええ、もちろんかまいません」
「わかりました」
ダグラスも拒否はしなかった。
どうせ中の様子は彼らにはわからない。
中に入ってしまえばいないも同然だったからだ。
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(しまったな……)
教会を出てからすぐにダグラスは後悔した。
「まさかサンクチュアリの中に入るところを見られるなんて!」
「神に許されし者のみの特権!」
「なんと羨ましい事か」
巡礼者や修道士までついてきていたからだ。
大勢の教会関係者がダグラスに同行しているのを見て、暇な住民たちまで後ろをついてきている。
まるで見世物になったかのような気分である。
だが本番は丘を登りきってからだ。
ダグラスが俗世と神の領域を隔てる壁に入ろうとするところで観衆のボルテージがマックスになる。
ダグラスは一歩踏み込み――
「うわっ!」
――二歩後ずさりした。
「どうかされましたか?」
「数え切れないほどの機装鎧が立ち並んでいました」
「機装鎧がそんなに!? ……そういえば、カノン様が勇者キドリ様と機装鎧について話しておられたような」
司祭がカノンたちの話を思い出している最中に、ダグラスはもう一度顔だけを中に入れる。
(ここまで巨大な機装鎧があるなんて……)
ダグラスが驚いたのは、無数の機装鎧があっただけではない。
まるで神の領域を取り囲むように、巨大な機装鎧が壁を作るかのように立ち並んでいたからだ。
――十五メートルから二十メートルほどの白を基調としたトリコロールカラーの機装鎧や赤を基調とした機装鎧、緑色の機装鎧が屋敷を囲むように立っている。
これほどまでに巨大な機装鎧を見るのは初めてだ。
キドリが使っていた三メートルほどの機装鎧ですら、魔族を一掃できる力を持つのだ。
この巨大な機装鎧がどれほどの力を持つのか、ダグラスには想像できなかった。
ダグラスはザリガニのような機装鎧らしきものを見つける。
(人型ならばともかく、あんなものをどうやって動かすんだろう?)
この異様な光景に驚きはしたが、神の領域を守るゴーレムではなさそうだ。
ダグラスは中へと踏み込む。
外では奇跡の瞬間を見る事ができた者たちが喝采する。
だがダグラスの目的は喝采を浴びる事ではないので、彼らの声を無視して屋敷へと歩みを進めていた。
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