第275話 この王子に向けて制裁なる鉄槌を!!(2)

「ご、誤解ですよ!」


 洗濯日和な青空に、穏やかに雲が流れる城門に響き渡る野郎の声。

 誤解も何も女の子相手にそんなに大声で叫ばなくてもいいだろ。

 ヤッホー、マッホー(魔法?)、元気予報な山彦じゃあるまいし。


「レヴィ王子はあなた方の国に関心がなく、紅魔族のことさえも分からなかっただけで!」

「だからあなた方に喧嘩を売ろうとしたわけじゃないんです!」


 レヴィのお供連中が王子を護るように取り囲み、売るなど、買うなど、瓜買いなどと小鳥みたいにピーチクパーチクと。

 王子だからって、ちょいと甘やかし過ぎじゃないっすかね。


「おい、ワンパク王子!」

「あのイカれた相手は魔王でさえ恐れている紅魔族という種族ですよ!」

「ダジャレすらも本気で返してくる要注意人物だけに発言には気を付けて……!」

「わ、分かったよ。俺が軽率過ぎた。悪かったよ、なあ、ロリ娘!」


 護衛たちの混乱の道中、レヴィが焦った顔でめぐみんに弁解する。

 誠に惜しいな、褒め言葉か知らないが、コイツそれなりに歳食って、すでにロリな幼女じゃないんだけどな。


「フッ。ロリは一言余計ですが、今回は特別に許してあげましょう。でも次に失礼な物言いをしたらこんがり炭火焼きですよ?」

「我が名はめぐみん。紅魔族最強の爆裂魔法を得意とし、数ある魔王軍の幹部を灰にして……」


 めぐみんがむすっとした顔でマナタイトの杖を引っ込める。

 そこへすかさず、面白そうに先陣へと赴くアクア二等兵。

(対戦プレイヤー乱入!)


「何か意図の読めない謎の会話みたいだけど、悪いことをしたら、きちんと謝ることができるというのは、とても素晴らしいことよね」


 お前、自分のことを棚に上げて、どの口が言ってんだ。

 人のことならやけになんだな、この燃えないコミュめ。


「モモタローみたいな地味な家来と言ってた時は鬼退治ナメんなよとゴッドブロー(聖なる強パンチ)を放とうと思ったけど、その行為に免じて許してあげようじゃない!」

「な、何だと。何様だ貴様。攻撃もままならぬプリースト程度の分際で、この俺に口答えするとは……!」


 アクアが片腕の拳を宙に掲げ、格闘のポーズを決める中、それに反して、レヴィがムキになって食ってかかる。


 ああ、王子の気持ちは察するぜ。

 確かにこのプリースト、借金と酒瓶ばかり抱えて、ちっとも役に立たないんだよな。


「だああー、タンパク王子。アレも相手にしたら駄目です。噂のアクシズ教徒ですよ!」


 執事の一人が警戒心を見せつけながら、パクチー王子の盾となる。


「安楽少女よりもたちが悪く、アンデッド以上にしぶといあの化け物的な存在で……!」

「ヒッ、マジで!?」

「それにあの女神を真似たコスプレのようなヒラヒラなチャラい衣装……。馬鹿みたいにアクシズ教に熱中してるヤバめな信者に違いありません!」 


 執事がアクアとの距離を離そうとレヴィの腕を掴む。

 そして、数あるモンスターを超越した化け物だと知った王子の顔が恐怖に染まる。

 この恐怖から後戻りはできない……。


「ちょっと、私は安楽少女(第92話参照)とかアンデッドとかの仲間じゃなく、本物の水の女神なんですけど!」


 もうウォーターな女神とか鬱陶うっとうしいから、黙って市民プールの監視員してくれないっすかね。


「となるとだ……」


 レヴィが無言で突っ立ったダクネスの方に目を向ける。


「あっちにいる金髪の姉ちゃんも普通の騎士じゃないのか?」

「その通りです……! あの御方は近頃、何かと話題な例のダスティネスきょうですよ」


 ダクネスが呆れた表情で王子とその仲間たちを見たまま、何も口を挟まず、棒立ちしていた。

 このクルセイダーのカカシな置き物作ったら、エルロードの観光土産でじゃんじゃん売れそうじゃね?


「王族最強の盾と言われた有名な一族でもあり、強靭な力を持った騎士も多くて、敵対したら魔王軍よりも厄介な相手かと……」

「な、なるほどな……」


 レヴィがうんうんと頷きながら、俺の方を注視する。


「だとすると、残りのメンバーとなるあの冴えない男も、実は凄い重要人物なのか……?」

「フッ」


 やれやれ、やっとこのパーティーのリーダーでもある俺のことに勘付いてくれたか。

 髪をかき上げ、クールビューティフルな仕草で両目を瞑る俺。


「いや、流石さすがにアレは存じませんな。おそらくただの荷物持ちか、ド素人な冒険者であり、酒と女とギャンブルに溺れて、堕落したクズなレベルの低俗なる人物でしょう」

「何だ、人生終わってんな」


 ……テメエら、界○拳2倍で100回ぶっ飛ばされたいのかあああああー!

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