第24章 レヴィ王子に挑むアイリス王女の親愛なる仲間たち

第273話 このエルロードの城に偉大なる破滅を!!

 ──無数にある店舗に屋敷と続く洋風の建物。    

 その場所を切り取ったようなエルロードの城は高い城壁に囲まれて建っており、防衛面では完璧な城塞を誇っていた。


「ほええー」


「いかにもガチャ2000連チャンくらいの大金を注ぎ込んだような城だよな」


 城は豪華な金模様で、城門に繋がる階段まで丁寧に作られ、いかにも金と鯛で釣ったみたいな飾りがあちこちにあり、俺は額に水平に手を付け、ドクダミスペシャルアララちゃん風に驚くしかなかった。


 鳥山先生、天空の城、粉砂塔こなざとうハッピーダンから見ていますか。

 この異世界でも先生の人気ぶりを表現してみましたよ。


「王都の経済情勢も凄いというか、城もえらいデカイし、ここだけで一つの城塞都市って感じだな。アイリスの城とは比べ物にならない迫力だぞ」


 俺たちパーティーは横一列にきちんと整列し、巨大すぎる外観に怯んでしまう。

 えっ、もしや城の重厚さにビビってるのって俺だけ?


「うむ、そうだな。ひたすらに金をかけた城に見えないこともないが……」


 ダスティネス家からしてみたら、大した作りには見えないようだが、今はお前とマウンティングごっこをしてる場合じゃねえよ。


「これはヨダレものですね。この正面から爆裂魔法をぶっ放したらと思うと胸がゾクゾクして……」

「え、単なる風邪とかじゃないよな」


 いつもは塩対応なめぐみんの晴れやかな表情に少しヒイてしまうダクネス。


「ねえ、あのお城の上に立ってるお子様ランチみたいな赤い旗をアクシズ教団の信仰ペットのクラーケンズのビックリマークに変える芸を見せたら、もっと華やかな雰囲気になるかしら」


 アクアが無邪気な顔で旗を指さして、物凄いことを口に出す。

 二人の聖なる犯罪と新たな借金を防ぐため、ダクネスは必死の説得の連続だ。


「お、お前たちは何もせずにちょっとは落ち着け。いい大人がはしたないぞ!」


 フフフッ、図体が筋肉尽くしのマヌケ女め。

 問題児たちは異世界で騒ぎを起こしますよなラノベ曰く、俺だけを集中的に捉えるからそうなるんだ。


 ──それから約一時間が経過(腹時計)した……。


「──それで何だ、こんにゃろー」


 決してこんにゃくゼリーが食べたい気分ではなく、おでんのこんにゃくをツルリと食べたい俺。


「ここで待つべしと武士口調に言われてみたものの、一体いつまで待たすつもりなんだ。あの野郎、どんだけ時間にルーズなんだよ」

「うむ、王子自らがお出迎えすると聞かれたのだが……」


 待ちくたびれた俺がヤンキー座りをして待つ中、他のメンバーは平然とした顔でこの場に立っているから不思議なもんだ。


「クッ、一国のか弱い王女に風が吹き荒れて大量のハウスダストが舞い散る城門で、長時間立ち仕事みたいなことをやらせるとは。俺が直接城内に乱入して、その悪どい心とやらを鍛え直してやるぜ」

「おい、馬鹿者、ふざけた鍛冶屋のような素振りな行動はやめろ!」


 単身で城に乗り込もうとダッシュで向かおうとした俺の片腕をガッチリと掴んで離さないダクネス。


「大体、お前が言っていた昨夜の言葉は全部嘘だったのか!」

「これ以上おかしなことをするつもりなら、昨日預けたペンダントを返してもらおうか!」


 ダクネスから後ろから羽交い締めにされ、身動きが取れない俺。

 おのれ、その攻撃を戦闘で上手いように使えないのか。

 みんなを守るクルパークルセイダーだからと阿呆みたいに力を見せつけるのも大概にしろよ。


「……お前、さっきからギャンギャンうるさいぞ。俺たちは国から代表に選ばれてやって来た聖なる守護神のような存在でもあるんだぜ。発情期か知らんが、もっと礼儀よく接することはできないのか」

「ちょっと待て、そこで何で私が注意されるはめになるんだ!」


 俺は技を固められ、目線だけでダクネスに忠告する。

 そんな投げかけにダクネスは怒った口調でやや乱暴な言葉を返してきた。


「くすくす」


 俺とダクネスのボディーランゲージなやり取りに思わず苦笑するアイリス。


「皆さんのお陰で今日の面談は緊張すらもしません。とても心強い味方です」

「どうもありがとうございます」


 勇気爆発ブレバンか、M-1グランプリの空気か、アイリスは吹っ切れたような横顔をこちらに見せる。


「ほれ見たことか。アイリスは実に冷静に物事を見極め、大人な対応なのに家臣であるお前が羽虫レベルで最高にブンブンうるさくてだな……」

「お前な、誰のせいでこんな目にあったとっ……!」


 俺とダクネスの相撲遊びは終わりをみせない。

 土俵がないせいか、余計に……。


「何だ、人様の城の前で喧しいぞ!」


 乾いた靴音で鳴らし、こちらに意識を持っていく自然体な流れによる行動。

 その瞬間、整理券ではないが、主導権が向こう側に渡った。


「野蛮な輩め、歳だけ食って礼儀というものを知らないのか」


 それはジャパンであった節分の豆まきの風習ではないのか。


「全く、田舎者丸出しのベルゼルグどもは……」


 赤い革のローブを着込み、頬にそばかすがついたショートカットの赤髪の少年が兵士をぞろぞろと引き連れて、俺たちの小さき争い? を小馬鹿にしてくる。


「あ……いえ、あの、これはですね……」


 向こうの方が上の位という立場上、言葉にもならないダクネスが慌てて、俺に腕を回していた拘束を緩める。


 ふーん。

 この上から目線の生意気なこいつがアイリスの南蛮漬けじゃなく、許嫁の相手か……。


「これは失礼いたしました。あなた様がエルロードの第一王子のレヴィ様でしょうか?」


 アイリスが静かなブーツの足取りでゆっくりと前に出てきて、レヴィ王子の前で止まり、小さく会釈をする。


「私がベルゼルグの第一王女でありますアイリスと申します。あなたに一目お会いしたく、この地へと遠慮遥々やって参りました」


 胸に片手を当てて、未だに行儀よく頭を下げていたままのアイリス。

 この絵面、フランシスコ・ザピエルのあの肖像画に似てないか?


「本日はあなたとじかに会えて嬉しい限りです」

「……」


 アイリスがとびっきりの可愛い笑顔をする中、不意に無言となり、真顔となったレヴィ。

 分かるぜ、俺の妹は美少女を超えた枠の超美少女だからな。

 髪質も派手な金髪だし。


「……なるほど、お前さんが俺の許嫁ねえ」


 すると、レヴィが顎に手を添えて、今度はニヤケ顔となり、ジロジロとアイリスの顔や体をじっくりと眺めてきた……いくら俺の妹が可愛いからって、この犯罪者小僧めが!

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