第272話 このやたらと薄衣なダクネスと心地よい一杯を!!(4)
「本当に呆れますね。こんな場所で二人揃って何で欲情してるんでしょうね」
ダクネスの暴動で蜂の巣になるよりはマシだろ。
「別に行為を否定する気はないですが、同じ宿にアイリスも泊まってるのですよ?」
「イチャイチャラブラブプロレスごっこなら家に帰ってからにしてほしいですね」
赤いパジャマ姿のめぐみんが腕組みし、汚れたケモノたちを見るような冷めた眼差しを向けてくる。
俺たちは冷凍食品やっちゃん堂と言う名の冷めきったからあげくんさ。
「だ、断じて違うぞ。これには深い理由があって!」
めぐみんの発言に必死になって否定するダクネス。
「何、ガラスの仮面みたいに語ってんだよ。俺を眠り薬で落とそうとしたのによ」
「あたふた……」
「そんな下着同然の姿で何が違うと言うのです」
ダクネスが俺とめぐみんを交互に見て、酌量の余地を求めている。
おい、そんなに激しい動きをすると肩にかけた紐が解けて、最悪ポロリになってしまうぞ。
いつになっても脱ぎ立てをくれず、都合の良い痴女二号になりたいのか。
「そんな格好では言い訳にしかならないですよ。本当の本音を聞かせてください」
「うう……う……。これは何というか……」
ダクネスは言いづらそうに言葉を発する。
──明日、自称妹アイリスの一大事で俺の頭が急におかしくなって、新たな罪を重ねても困るので、薬をグラスに盛って眠らそうと任務を遂行しようと思っていたが、夢と天国な娯楽大国のエルロードで遊ぶことも出来ずにずっと眠り男のままでは惨めかなと思い……なるほどな。
つまり、俺に後悔の念が残らないように、こんなセクシーな格好でお酌をとダクネスは考えたのか。
「それから未練が残らないように自身の体も捧げて一夜を共に……とちょっとだけ淡い期待もしていたんでしょうね」
めぐみんの言われっぱなしが効いたのか、それとも図星なのか。
赤ら顔で俯いたダクネスが黙ったまま、反論もしない。
「ほんと、ゲスが出るほどの下品でやらしい貴族令嬢ですよね! 是非とも紅魔族の里にある成年小説の売り場に並べたいくらいですよ!」
めぐみんの高圧的な視線がダクネスに容赦なく突き刺さる。
めぐみんもそんな本を読むんだな。
確かあるえとかいう著者だったかな。
「ち、違う……いえ……もう言い訳はしません。私は下品でやらしい貴族令嬢で間違いありません」
ダクネスは未だに顔も上げず、めぐみんに言われるがままだ。
まあ悪いのはダクネスだけどな。
「アハハ。本当に家畜以前の問題ですよ! ダクネスのお父さんにこのような光景が知れ渡るとどうなるかと思うと体がゾクゾクして……!」
「ほらほらいつもの勢いは出ないのですか。もっとハキハキと言ってご覧遊ばせ、はーっ、はーっ!」
あー、ゆんゆんに続いてまたやってるよ。
コイツのいじめっ子気質、どうかならんかね。
息も上がって目もイッて、めっちゃ興奮してるし……イケない犯罪者の人相だな。
「まあめぐみんの言い分も分かるが、少しは落ち着けよダクネス」
俺は腕を組んだまま、ひとまずダクネスの心とやらをこちらの世界に呼び戻す。
「俺はアイリスが迷惑になりそうなことを平然とやるほど愚かな男じゃねーぞ?」
そんなことをしたらとばっちりを受けることも十分に理解してる。
エビのチリソースに粉チーズをかけるようなものだ。
「アイリスとの婚約もアイリス本人が望んでいたら邪魔立てはしないさ。でも本心ではそんな気持ちもないのに、この身を削って嫌々結婚するというのに納得がいかないんだ」
「それに俺の身近な知り合いがそんな不幸せになることも嫌だし、例え俺の恋人じゃなくても、他のいけ好かない野郎の手に渡るなんて考えただけでもモヤッとするんだよ」
俺の話が的を得たのか、めぐみんとダクネスが呆然とした表情で俺を見て、黒目のない蝋人形みたいに固まっている。
この際、俺直伝のエッセイでも書いたらバンバンバーンと儲かるかもな。
「この男ときたら、昼間に私たちをナンパ男に気安く差し出したクセして、あんな軽薄な口振りで……」
「めぐみんの言う通りだ。こいつの頭を一度バラして、どんな構造をしてるのか覗いて見たいものだな」
二人して俺の脳を探っても錆びて外れたネジなんか浮いてないぜ。
脳の液体はミネストローネでできてるけどな。
「へん、好き放題言ってろよ」
「まあ、出会って2秒でアイリスの婚約者に先制攻撃とかしないから安心してろよ」
変に威張ってアイリスへの忠誠心を刻み込む特殊隊員でもある俺。
今の俺は自衛官とまではいかないが、実に姿勢がしゃんとしていい。
「カズマの言い分は理解した。私は下手なことは言えぬ。今まで見合い相手を断ってきた私が言えた義理でもないしな」
「何かがあったとしても当家がフォローするから好きにするといい」
ダクネスが胸元で腕を絡ませて、半分不安そうに俺の顔色をうかがう。
上薬草の回復までとはいかないが安心しろよ。
「おおっ、超強力な後ろ盾が二つになるとか無敵だな。クレアもお前と同じ流れになってこのペンダントをくれたんだぜ」
「な、何だと。クレア殿が半身ともなるそのペンダントを預けただと?
俺はクレアからの大切なペンダントを見せつけて、何段もの地層でもある、大層な自慢話に持っていく。
「いや、あの気難しい性格からして俺への信頼はないと思うが、ダクネスよりかは信頼してるっぽいな」
「クレア以上に付き合いが長ーいダクネス、お前なんかよりズートピアにな!」
ホレホレとダクネスに餌のようにペンダントをちらつかせ、巧みな罠へと誘う。
「うう……」
「カズマ、私もお前を見込んで当家のペンダントを渡すことにしよう……っ」
俺の熱意に折れたダクネスが目をそっぽに向けながら、ダスティネス家のペンダントを俺の前に差し出すが……優柔不断という成分の根っこは抜けないようだ。
「うう……でもこんな大事な物をお前に渡す……のも……どうかと」
「あー、ウザいな。くれるんならさっさと寄越せよな!」
ウジウジと決意が固まらないダクネスからペンダントをひったくる。
こんなスキだらけな相手に盗賊スキルを使うまでもない。
「これで話は決まったな。明日のことは俺に任せな。要するに防衛費がほど凍らないように上手に交渉をしたらいいんだな?」
ペンダントの紐を握り締めたまま、明日への抱負じゃねーな、明日への決意を声に出す……あいううえおオッケー。
「それなら悪い結果なんてゴメンだ。俺の手でアイリスを幸せにできる方向へと持っていくぜ」
「うむ、その意気込みは買ったぞ。明日はお前に任せるからな。どうかアイリス様を守ってやってくれ」
自身の痺れた台詞で余韻に浸る俺を前にして、今世紀最大ジュラシックな頼み事をしてくるダクネス。
「それで全ての出来事が丸く収まれば、今度は頬にキスという子供みたいな礼ではなく、きちんとした大人の対応を……」
ダクネスが顔を地に向け、蚊の鳴くような言葉を喋っていたが、すでに俺の心はアイリスへの思いで山盛り一杯だった……。
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