第271話 このやたらと薄衣なダクネスと心地よい一杯を!!(3)

「や、やましいことなんてないし、飲むことも飲まれないこともしないからな!」

「この酒はお前をねぎらうために用意したものだからな!」


 グラスに細工がしてるとバレても、今もなお、無駄な行為を続けるダクネス。

 もうお前さんが逃げ場を失っても、血迷ってこちらに突撃をしてきても、しかと受け止めるからな。

(帰ってきた闘牛士カズマ)


「ああん!?

さっきから五目(御託では?)を並べるんじゃねー。盤での勝負を諦めて、ようやく俺の言うことに耳をすますようになったか!」

「だったらそのやる気とやらを見せてみろ」

「ぐぐぐ……」


 ダクネスが頬を赤くして、悔しそうに歯を食いしばる。

 その鋼鉄の歯は湿気った煎餅さえも噛み砕く。

 なあ、そんな硬いのガッちゃんしか食べないぜ。


「そうかカズマよ!

なまじ生温い酒よりも、ほんのり温かな体を尽くしての労いの方を選ぶか!」

「そんなにも骨まで尽くされたいルートを選ぶなら、是非とも体で労ってやろうじゃないか!」


 露出が激しいネクリジェ姿も気にも止めず、ダクネスがムキになって、強制的な選択肢を俺に実行させる。

 俺に初めから選挙権はもとい、選択権などないのだ。


「さあ、さっさとベッドの上で仰向けになれ!」

「最悪だなお前、睡眠薬で眠らないと思ったのがバレて逆ギレかよ!」


 頭の底までキレたダクネスが部屋にある空いたベッドを指で指し示す。

 しかし、気分が高揚しない俺は窓際の壁に背を向けて、ダクネスに反発する心境だ。


「まあ、そこまで念じるように労いワードを繰り返すなら、精々労ってくれよな、この鍛え抜かれた俺のエブリボディーを!」


 だが、ダクネスの威勢に丸めこられそうになり、その場で迷うことなく、プラマイも気にせずにベッドに寝転がる。

 そのまま蝶の脱皮のようにシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になってだ。


「ほらっ、とっととかかってこいやー!」

「なっ、お前! 破廉恥ハレンチにもほどがあるぞ!」


 痩せて見えても脱いだら着痩せするセクシーで細いマッチョな俺の体。

 その裸体が直視できずに目を背け、恥ずかしそうに顔を両手で塞ぐダクネス。


「何だよ? 乙女色全力なダクネスは所詮しょせんは口だけでしたかよ」

「だよな、俺のことヘタレの腐った死霊のような男とか言っても、実際は頬に軽く一回、口づけをするだけでも、三日三晩は照れて眠れぬ夜を過ごす、純情なお姫様であるもんな!」


 ダクネスが覆っていた両手を外し、の例えをしてる俺を横目で見ている。

 女の子だって異性が気になって、木になってる実が知りたくて、何が悪いソリー大臣的な。


『がばっ』


 そして次の瞬間、俺の体にずっしりとした重みが伝わる。

 目の前には俺のこけんに馬乗りで自由を制し、自分中心で異世界を牛耳るクルセイダーの女。

 ヘイヘイ、このナイスガイな俺というファンタジーな世界を支配したいのなら、このブービートラップに止まれ。


「上等だ、このヘタレレンコン! これ以上辱めを受けるのも我慢できんぞ!」

「お前の望み通り、この体で労ってやろうじゃないか!」


 穴の空いたレンコンはスカスカだが、煮物にすると立派な主役に……いや王者カモネギ肉には負けるか。


「おい、お前、労うって言っても、このまま体をマッサージするとかじゃないよな!」

「な、急に何を言い出すんだ!?」

「俺は至って真面目さ。お前、言ってることとやってることの区別できてるのか。いつもいけてない病的な妄想で頭の容量が足りてないフリばかりしてよ!」

「い、いけてない妄想とか言うでない!」


 お前の妄想は度を過ぎて、時に大火傷をするからな。

 ジャパン同人誌、カチカチ山の狸がいい例さ。


「私の名はダスティネス・フォード・ララティーナ!」

「どんなに不利な状況だろうと逃げるなんて野暮なことは……」


 覚悟を決めたダクネスが俺の長ズボンに手をかける。


「うっさいですね。全然寝れないじゃないですか。あまり部屋でドタバタと暴れないでもらえますか!」


 その瞬間、部屋の扉が勢いよく開き、幼女めぐみんが怒鳴る。


「ほんと、明日は早いのに、こんな夜中に何をフザケて……」


 めぐみんの目が俺とダクネスの絡み合う動作を見つめて動きを止める。

 彼女の思わせぶりな日常から早くもこんな爛れた関係(修羅場)を思い知ることになるとは。


 でもこれはチャンスバッターでもある。

 力が強い男だからと薄着な女からガッチリと動きを封じられ、挙げ句にはダイナマイトな色気を武器にし、俺に密着しようとしてるんだ。


「めぐみんヘルプミー!」

「野蛮な脳筋女に犯される!」


 俺は声を荒げ、めぐみんに助けを求める。

 当のめぐみんは呆れて無言のまま、冷めた目つきでベッドで一緒な俺とダクネスを見下していたのだった……。

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