第251話 この頼れるお兄様に護衛任務を!!(3)
「あのな、人の話はちゃんと聞け。今回だけは非常に危うい相手なんだ」
「何だ? 突撃パッパラパーな先陣の戦士らしくもないな」
「私は生きてるし、真面目なクルセイダーだ。実はだな……」
ドMクルセイダーなダクネスが言うには、今回のアイリスの結婚相手は隣の国のエルロードの第一王子であるが、この王子は性格がひねくれた面があり、俺たちがいつものコメディアンな言動で癪に障れば、すぐさま外交問題に発展するとか……。
明後日の方向にひねくれた王子?
そんなに顔色を変えたダクネスが言うなら、余計にアイリスを守らないといけないじゃねーか。
俺は半目になり、仏のような人相で腕を組んだまま、気を集中させるため、精神統一を始める。
「ねえ、ちょっとエルロードって言ったわよね? エルロードって、あのカジノ大国として栄えてる場所よね?」
アクアがキラキラと目を輝かせ、両手を組む。
何か、アクアの周囲だけ別のオーラが出てるんだが。
くれぐれも足元のレッドカーペットは浄化させるなよ。
意外と値段が張る代物だし、場合によってはレッドカードで家から追い出すからな。
「ふむ……しかし、カジノの大国ときたか。実にまた楽しそうな妄想が広がるな」
「やったー! これで私もお金持ちよー!」
アクアが両手を宙に上げて、クネクネと踊り出す。
おまけに扇子なんか取り出して、あのバブル時代の再来である……。
俺、生まれてないし、生前の広○苑とかいう分厚い辞書から知った事実だけどな。
「あのな……アクア、今回は護衛の任務だから遊ぶことは出来ないからな? カジノなら別の日で暇を作った時にゆっくりと楽しんでくれ!」
「ええー、私、忙しい身なんですけど!」
ダクネスが片手を突き出し、頭を下げてアクアに丁重な断りを入れる。
待てよ、この状況は逆にチャンスじゃね?
「フフッ、アクアご婦人もこの依頼にやる気満々だぞ」
アクアを仲間に引き込んだ俺は悪魔のような微笑みで口を弧の字に曲げる。
「それじゃあ、めぐみんを加えて、多数決で決めようぜ! あの勝ち気なめぐみんのことだから断ることもないだろうしな!」
「アハハッ、これで私は優雅な札束ライフをおくれるわよー!」
「なっ、卑怯だぞ!?」
ダクネスが止めに入ろうとしても俺たちの計画は終わらない。
俺たちは新たな黄金の切符を手にするために……。
「なあ、話は聞いてただろ、めぐみん。お前はどっ……」
「──嫌ですよ」
俺の話を最後まで聞かないめぐみんの即答に能天気アクアを除いたメンバーたちが、その場で凍りついた……。
****
──意見の食い違いで、ダクネスにアクアにと別れて数時間後……。
俺は屋敷内の廊下を堂々と通るめぐみんの後ろ姿を追っていたが、決してストーカー行為ではない。
「──なあ、めぐみん」
「お前らしくもないじゃんか。これは新たな強敵の予感、我が爆裂魔法でドカーンとか言ってオッケーするのにさ」
「オッケーも風呂桶もないですよ」
二人の足音が廊下に静かに響く。
めぐみんが俺と同様に両腕を抱え、こっち側に振り向きもしない。
「おおっ、その反応、もしかして嫉妬してんの?」
俺は少年のように白い歯で笑いながら、めぐみんの本意を知ろうと距離を詰める。
すると、めぐみんが難なく振り向いた。
「その通りですよ。私は妬いてるんですよ。あんなことがあったのに」
「少しは私に対して気遣ってくれても良くないですか」
いつになく真剣な表情の女の子。
ハートを焼いたどころか、感情に任せて、焦がしてしまったか。
「えっ」
「あっ、いう……はい」
俺は動揺して声も出ない。
あれれ……この子、こんなデレ発言を言うようなヤツだったか?
いつもならすぐに逆ギレして、お前ら、爆裂魔法の餌食にー! とかなのに、何か大人の女になったというか……さっきから胸の高鳴りが止まらないぜ。
まだジジイじゃねーけど、心臓病の発作かも知れないけどな。
「カズマはそんなにアイリスが気になるんですか」
「ま……まあっ……。というかさ」
俺たちは足を止めて、アイリス王女への協議を開く。
「男として放っておけない子でもあるけどさ。好きという気持ちじゃなくて、妹って感じかな」
「王族という立場上、自分の感情さえも抑えて、わがままも言わずに、いつも周囲に気を遣って、何ていうか寂しそうな女の子だよなって気分にさせられるんだ」
めぐみんが大きく目を見開いたまま、話に聞き入っている。
別にショートコントしてるわけでもないのにな。
俺は多少残念な気分になり、軽く息を吐く。
「でもさあ、めぐみんが断るんなら別の手段を練ってみ……」
「任務を請けましょう」
またもや俺の会話を遮る、めぐみんの即返事。
何の隠れスキルだよ!?
「……は?」
「私もアイリスのことは気になりますし、行くことにしましょう」
めぐみんが今度は玄関に向かって、再び歩き出す。
どうやら気持ちはところてんの助のように固まったようだ。
「まあ、ちょっとだけ嫉妬していただけですし、このままじゃ、
「……お……、おう。お嬢……」
俺は照れ隠しに頭をかく。
どうやら大人気ないのは俺の方だったな……。
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