第250話 この頼れるお兄様に護衛任務を!!(2)

 相も変わらずよく晴れた俺の屋敷のフロアにて、一人の勇敢なる男が動き出した。


「おい、そこで惰眠を貪るロリっ娘よ」


「首ありデュラハンの首根っことやらを捕まえに行きたいんだが」

「カズマ、私はくつろいでるだけですし、さっきから、何意味不明なことを言ってるんですか」


 俺はめぐみんが腰掛けてるソファーの縁に片ひじをつけて、もう片方は腰につけ、ナンパ術のスキル(なんちゃって素人)を発動させる。


「あらら。カズマさんってば、ようやくアクシズ教に入りたくなって、アンデッドのたぐいを滅ぼしたくなったのかしら?」


 俺の後ろにいたアクアが指を宙に突き立てて、軽くウィンクをする。


「まあ、それは偉大な水の女神としては嬉しいけど、デュラハンの異母兄弟とかそう簡単には出会えないわよ」


「そうね、身近にいるウィズやバニル相手をジワジワとイタぶりながら経験を重ねていかないとね」

「お前の小さなものさしで俺を測るな、すったもんだ女神」


 この鬼畜ババアの言うことは無視して話を続ける俺。


 俺がデュラハンの兄弟を探す理由は死の宣告というスキルを取得するためだ。

 例の計画には欠かせないスキルでな。

 あー、どこかに犬のフンみたいに落ちてないかな。

(外でしたペットのフンは持ち帰りください)


「はあ……カズマってばドレインタッチといい、悪役染みたダークなスキルを覚えるのが好きよね」


 首だけのデュラハンが、よう久しぶり、元気にしてるか、俺の兄ちゃんは難問な筆記試験に合格し、見事に堕天使デュラヘルになったぜ、ハハハッと目を細めて笑う絵面が脳裏に映る。


「しかしそんなヤバ気なスキルを身に着けたいとか葬儀屋にでもなるのか?」


 俺の直線上にある向かい側のソファーのヘッドレストに体を寄せて腕組みしてたダクネスが体重をソファーに預け、怪しげな瞳で俺に質問する。


「そうですよ。カズマ。何の心境の変化ですか」


 俺に背を向けていためぐみんさえもスキル習得を反対している。


「まあ……そういう強いスキルを覚えたいなんて、これまでの人生で最強な敵が立ち塞がったということですね?」


 ああ、小学の頃に寝てる布団に黄金色の聖水をぶっかけた次の日の朝、俺の母ちゃんは魔王軍のように怖かったぜ。


「カズマ……これまで幾度もの魔王軍幹部を炭火焼きにしてきた私の爆裂魔法ではお役目ごめんでしょうか?」


 めぐみんが胸元に片手を当てて、爆裂魔法ならぬ、爆発した熱い想いを俺にぶつけてくる。

 いつにも増して、めぐみんが大人の女に見えるんだが、俺の目が腐ったのか、それともまた筆者の悪ふざけか、こらっ!


「フッ、でもめぐみんの気持ちはとても嬉しいよ、いつもありがとう」


 俺もめぐみんに負けじと今世紀最高のイケメンとなり、美しい星屑を散らし、色気のある流し目でめぐみんに応対する。


「そうだな……俺の配下になって隣にある国に乗り込むことから始めようか」


「それから隣のお偉いさんの宮廷に花火をドンパチとぶち当てて、王様が昼寝中の城に米粒で糊付けした脅迫状の手紙を送りつけるんだ」


 ──こんな爆裂魔法で土地や建物が滅ぼされるのが嫌ならば、アイリス姫との婚約をなかったことにしろ。


 我ら魔王軍でもアイリス姫との婚約できるのは、料理のの前線で踊り狂う頭文字にサが付く、甘く優しい男だけだと──。


「大バカか、このクズマが!」


 歯を食いしばって怒ったダクネスが俺の襟首を思いっきり掴む。


「何か挙動不審だと感じて聞いてみれば、そんなおかしなことをずっと思ってたのか!」


「もしやその死の線香のスキルを覚えてアイリス様の婚約者をポックリと……!」

「線香じゃなくて死の宣告だ。やる前に埋葬してどーする! アイリスの許嫁に遠方から、この呪いを大人なふりかけのようにまんべんなく振りかけるんだよ」


 ──あれれ、許嫁様、

これは魔王様による災いですね。


 お姫様を誘拐するのは魔王の専売特許。

 許可も得ずに横暴に横取りなんかしたら、そりゃ、温和な魔王様だって怒りますよ。


 ウチのパーティーのアークプリーストの魔法でその呪いは浄化できますが、とりあえずは魔王を消し炭にするまで婚約破棄した方が最善策であり───、


「さ、最悪ですよ。このロリマ!」


 だからさ、ロリは俺のものにならないと気がすまないと猫ロボ漫画から学習しただろ。

 この世界に漫画があったらなの話だけど。


「おい、お前という人間は本当に性根が腐ってるな。そんな人類おバカ計画にめぐみんを参加させるわけないだろ!」

「ダクネスの言う通りです。そんな犯罪の片棒を担ぐ真似なんてやりませんよ」


 ダクネスが腰に手を当てて、俺に注意し、めぐみんは腕を組んで、不機嫌に鼻を鳴らす。


「フン、ちんどん屋ならぬ、分からず屋め」


 ボンバーガールによる爆弾発言を食らってもクールファイアーな俺は二人から背を向ける。

 今これ以上の説得は無理だと感じ取ったからだ。


「うふふ。私はその作戦に協力してもいいわよ?」


 アクアが勝ち誇った余裕の笑みで俺に話しかけてくる。

 酒も飲んでないのにデレてるし、上機嫌だ。

 明日は季節外れの台風か?


「全ての悪事は魔王に丸投げという部分が素敵だと思うの」

「アクシズ教団の活動の中に魔王軍の悪口や悪評を引退ネットとかいう手紙で拡散させるというお仕事もあるのよ」


 魔王が人間を恨み、世界征服をしたい本当の理由はアクシズ教徒が原因なのでは……。


 ──しゃーねーな。

 こうなれば真正面から突破するしかないか。


 アイリスからの依頼に参加し、あれや、吹矢、孫の手やらと嫌がらせをするか。


 例え、俺の愛らしい妹をモノにしようとする馬の骨とバトルになってもだ。


 今溜まってるスキルのポイントを存分に振り分けて、その馬の骨と敵対できるようなスキルを習得してだな……ブツブツ。


「あのなカズマ。悩むのは大いに結構なのだが……」

「誠に申し訳ないが、今回の護衛任務はスルーしないか」


 たどたどしい発言のダクネスが片手を胸元に添え、依頼主のアイリスには断りの手紙を送ると決断し、そのアイリスが隣の大陸に行くのは三日後だから、諦めて大人しく自宅でちょむすけと和気あいあいとくつろげと……。


「お前、この期におよんでふざけてんのか!」


 俺の王族野郎への怒りが沸点を突き抜け、頂点に達した。


「このまま野放しにしたら俺の妹が素性も知らぬ男にお嫁よコロリンと転がり込んでしまうんだぞ!!」

「貴様だって素性で嘘を塗り固めた男だろうが。日頃から家でゴロゴロしてる冒険者風情が何様のつもりだ!」


 俺が両拳を握りしめ、鬼の形相でダクネスに口喧嘩を売るが、売られた口喧嘩はきちんと買って出るダクネス。


「お前に護衛なんかやらせれば、外交の流れに支障ができて、この国やアクセルの街の経済状況もおかしくなる! ここは我が国のことを大事にしてだな」

「何で俺が護衛の任務につくだけで国の問題になるんだよ!」


 俺はソファーから場所を変え、ダクネスと激しく言い争いを続ける。


「王都で城に泊まってた時にテーブルマナーや貴族の作法とかもマスターしたし、変にその場でアイリスちゃん、ドレインタッチとクネクネ踊るようなこともしねーし!」

「あのなあ、その言葉自体がすでに駄目なんだ。日頃からおかしなセクハラ行為紛いの貴様が今さら何を言ってるんだ!!」


 お互いに一歩もひかない二人にアクアとめぐみんは少し距離を離し、黙って様子を伺っていた。


 おい、お前ら見せもんじゃねーぞ。

 俺のアイリス守護派な意見に不満なら徴収料をいただくからな!

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