第23章 我が妹で愛らしいアイリスの許嫁との婚約破棄へ

第249話 この頼れるお兄様に護衛任務を!!(1)

 ──今日もヘイユー平和で穏やかに晴れた俺の屋敷内にて……。


 一丁前の貴族気分でレッドカーペットを敷いた場所に、ペット用のエサ容器をそっと置く俺。

 お茶碗状の容器に山盛りに入れたキャットフードも食べられる役目を果たせ、さぞかし本望だろう。


「ほらよ、This is ニャン猫だまし」


 すると、そこへ外見は猫であろうちょむすけが腹を空かしてトコトコトコロテンとやって来る。


「カズマ、ちょっといいですか?」


 モクモクと無心でキャットフードを食っているちょむすけを中腰で見てた俺に、腰に手を当て、主婦のつらをしためぐみんが突っかかってくる。


「ここ最近、ちょむすけにあげるご飯が多すぎじゃないんですか。ブクブクと太らせて病気になったらどうするんです?」

「お前も過保護だよな。このペルシャンな猫がそんなにヤワと思うか? 黙って見ていたらもっと愛らしいのペットなのにさ」


 ちょむすけが夢中で食すのを親のような寛大な心で眺める俺。

 そんなに美味しく食べてくれると俺も作りがいがあるというもんだ。

(嘘つけ)


「おしおし。たらふく食べて大きくなれよ。この萌えるお兄さんが健やかな成長を楽しみにしてるからな」


 そうさ、いくつになっても平坦な坂なめぐみんに負けずに頑張ってモリモリと食えよ。

 毎日エサを食べ続けた結果、あのナイスバディーなお姉さんにもう一度なったら、今度こそ敵同士じゃなく、良き友達として仲良くなりたいぜ……。


 それから爆裂魔法を真っ向からぶち当てためぐみんのことも許してくれよ。

 お聖母ネコギフトでもあるちょむすけよ。


「何で私を無言で睨んでるのか知りませんが、今日はカズマに渡したいものがあって」


 めぐみんが赤いスカートのポケットから、紙切れのようなものを出す。


「カズマ宛の手紙がポストに入ってましたよ」


 白い封筒の裏に書かれた宛名書きを見て、不思議そうに尋ねてくるめぐみん。


「俺にか? 暑中見舞いや年賀状とか来るような世界でもないし」


 もしかして恋文か。

 封を開けたら大量のカミソリが入ってて、アイムソーリー、ブ○ース・リー、ワチャーみたいな。


「はい、はーい。新しいドラゴンの卵が販売になりましたでしょ。確かダイイングメッセージかしら?」


 アクア、それダイレクトメールじゃね。

 死人のメッセージなんて怖すぎだろ。


「もう新情報がわんさかで凄いわよ。ゼル帝一号を買ってから毎日のように手紙が来るんだから!」


 俺は腕組みしながら、白い目でお天気ガール絶賛中なアクアを見る。

 詐欺の被害にあった家は裏社会のリストに記されて、次々と似たような詐欺の業者が寄ってくるというか……早速、二匹目のニワトリに目星をつけたか……。


「私にはカズマに手紙が届いたということからして、妙な胸騒ぎしかしないのだがな……」

「どれどれ、めぐみん。私にその手紙を」


 不審がっているダクネスがめぐみんに向かって、片手を差し出す。


「はい、この手紙なんですけど、ちょっと前にどこかで見たような感じがして……」


 めぐみんから手紙を受け取ったダクネスの視線が固まる。

 まさにワンパク質の変態とはこのことだ。


 そして少し恥じらい、何も語らないまま、その手紙を黒いブラウスの胸の谷間に差し込んだ。


「のわあああああー!?」


 目の前で行ったダクネスの大胆な隠し方にテンパる俺。


「お前さ、俺の手紙で好き勝手すんなよな?」

「しかも何でそんなとこに封印するんだよ!

 カードキーでロックのつもりか!」

「いや……この手紙はアクアが叫んでいたドラゴンの卵大安売りセール中の内容だ。お前には微塵も関係ない」

「ほら見たでしょ。これでカズマも私と同じく立派なドラゴン使いになれるわよ」


 アクアが勝手に納得する中、ダクネスが紙の挟まった胸をゆらりと揺らしながら、つまらぬ意地を貫く。


「お前ら、さっきから意見が食い違ってるぞ!」

「素直に俺に手紙を渡せ!!」

「断る。こちらにも黙秘権があるのだ!」


 俺が猿のように飛びかかるのに後退りしながらも、断固として見せる気はないようだ。   

 いつもとは違うダクネスの態度に俺の先人の知恵が閃く。

 1000%スパーキング!


「ははーん。なるほどな。その手紙はアイリスからだろ?」

「ドキッ」


 俺に背を向けたダクネスの動きがピクリと止まる。


「えっと、いやな、これはスペシャルなドラゴンの卵入荷による手紙で……なわわわわわわ───!!」


 ダクネスが大きな悲鳴を上げる中、俺はいとも簡単に胸に挟んであった手紙を、直角90度の角度で、奇人の速さにて抜き取った。


「貴様、清らかな乙女になんてことするのだ!!」


 ダクネスが真っ赤な顔をして、俺から距離を置いて地べたにしゃがみ込む。

 そんなにとったどーがハズいなら初めからやるなよな。


「ああん? そんなとこに隠せば取られないと俺を馬鹿にするからだ!」

「もう俺は後々後悔せず、遠慮しない男に転生したんだよ!」


 手紙を奪った俺は猛獣のようにダクネスに言って聞かす。


 次やったらお前をバニーガールにさせて、アクセルの街にある高台にくくるからな。

 ミネラル豊富な海藻どころか、ウサギの天日干しにさせるからな。


「ほらっ、思った通り、アイリスからの手紙じゃんか!!」

「くっ……このシスコン男のことだから、できれば読まれたくなかっただけに……」


 ダクネスが『一生の不覚』と剣で腹切りをしようとするのを、めぐみんがやんわりと止める。


「うーんと、何の要件かなー♪」


 だが、平民な俺には関係ない事柄だ。

 今は手にとった手紙を読むことに集中した。


 ──拝啓はいけい、お元気でしょうか。お兄様。


 最近になって王都の近くにある砦で魔王軍幹部を打破したと小耳に挟みました。

 相変わらずのやんちゃぶりで少々困ってしまい、時折ときおり、心配になったりしています。


「ああ、引きこもりエリートな俺が文学を教えただけあって、序盤から優しい味わいじゃないか。吾輩のでる妹ちゃんは」

「「「……」」」


 妹に癒やされ、心地よく満たされる俺を黙って半眼で見つめるアクアたち。


 ──そこでなのですが、今のこの国にとって最強で気高い冒険者の一人でもあるお兄様に是非ともご相談があって、この筆を手にとりました。


「うむ。この萌えるに萌えたお兄さんに相談とは、中々可愛いところもあるじゃないか」


 ──そのご相談なのですが、である隣の国の王子様と縁談の日が近付いており、お兄様に護衛任務にあたってもらいたく存じ──、


「「「……」」」


 俺の手紙を握る手が止まる。

 アクアたち三人娘も先ほどから無反応というか、俺の妹(違う)との禁断な色恋劇場に興味がないらしい。


 その妙な沈黙の間は10秒ほど続いた……。


「滅却」

「「「……」」」


 そして、俺は何も言わないメンバーをよそに、問答無用でアイリスが書いた手紙を勢いよく縦に破り捨てた!

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