第247話 このめぐみんの秘めている想いに正当な答えを!!(1)

 ──次の日、晴天に恵まれた宿屋。

 私ことめぐみんは仲間との集合場所を目指し、まだ静かな廊下を一人で突き進んでいた。


 ああ、とうとうやらかしてしまった。

 昨日の夜、気分が落ち込んでいたとは言っても、その場の勢いで思わずポップコーンのように弾けてしまった。


 今朝から、どういう表情であの男に会ったらいいのか、いつもの塩対応で行ったらいいのか、見当がつかない。


 私は恥ずかしさのあまりにアイスのように溶けてしまいたい気分だった。

 せめて、そんなチョコバナナ味で勘弁してほしい。


「わふあー、ゆんゆんおはよーう!」

「はい、カズマさん。おはようございます」


 そう、私が心を奪われたあの原因が目の前でお腹を掻きながら、だらしなく大きなあくびをしてる……。


 まあ、あの晩、お前のことが死ぬほど、いや死んでも好きだと熱烈に告白された(そうは言ってない)以上、私たちは薬指の恋人になったのだろうか。


 だったらこれからは言葉遣いや態度を恋する乙女のように変えたほうが、彼もバブバブと赤ちゃんみたく喜ぶかも知れない。

 中身からして単純そうだから──。


「なあ、ゆんゆん。お前さんのお得意のテレポートでさっさと我が家に帰ろうぜ」

「それはいいですけど……カズマさん自らがのほほんと温泉に浸かって、もっとのんびりとしてから帰ろうって……」


 ゆんゆんが意外そうな顔つきでカズマに絡む。


「うーん、温泉成分とはいえ、豚骨ベースの出汁には飽きてきたし、やっぱアクセルの街が一番落ち着くっていうか」

「ああん?」


 あからさまに不機嫌な声を出した私にも無反応で、カズマが頭を掻きながら、デレデレと鼻の下を伸ばしている。


「そうよね。私も早くゼル帝と感動の再会をしたいわ!」

「何なら今日はぱっぱと帰宅して、邪神討伐お疲れ様でしたさいならパーティーでもしましょうよ」


 アクアが両腕を水平にし、片足を上げてカズマの意見に同意する。 

 その体勢からして、棒立ち戦士カカーシへの転職を決めたのだろうか?


「そうだぞ。今回は素晴らしい戦いだった」


 陰干しのために重い鎧を脱ぎ、お馴染みの黒いニットワンピース姿で身軽となったダクネスが話に割って入る。


「今までみたく魔王軍の幹部を普通の感覚でやっつけたのではなく」

「己から討伐という道を選び、何なりと倒してみせたんだ。ここのポイントは高い」


 何でこんなにも自慢げに語るんだろう、このお嬢様は。


「ああ、今回のお前はいつにも増して約立たずだったな」

「はがっ!?」


 その容赦ない真っ直ぐな言葉にダクネスがしゃがみこみ、カズマから背を向けて、小刻みに震える。

 あー、あまりにも風当たりがつらすぎて泣いちまったかと、ボソッと声に出すカズマ。


「所でゆんゆんは泊まるんでしょう?」

「えっ!? いいんですか?」


 アクアの誘いに意表をつかれたのか、ゆんゆんが真っ赤な顔でオドオドしてる。


「私なんかのつまらない女相手でも参加していいのなら……」

「水臭いわね。この水の女神アクア様が誘ってるのよ。水の安心は保証するわ」


 その水は汚れて、排水になっていないことを祈ろうか。

 後、アクアはカッコつけてるけど、パーティーでお金を出すのはカズマで、アクアは一銭にもならない宴会芸役でーす。


「あっーと、そんなわけで俺は今日は外泊するんでよろしくな」

「えっ? お祭り好きなカズマにしては珍しいわね」


 アクアがめんを食らった顔つきになるが、日頃からふざけたつらだけに深い意味はないようだ。


「なあ、カズマ、どこへ外泊する気なんだ?」

「それにお前は夜になると、たまにフラリと屋敷を抜け出していくし、一体どこで何をしているんだ?」


 ダクネスが腕を組み、ジト目となり、注意深くカズマの様子を観察する。


「へっ!?」

「そそそ、そぷらののそれはそれらであってな。ほれみろ、あれだ」


 気が動転したのか、カズマが何かしらの呪文を唱えている。

 彼がよく話していた復活の何とかというものだろうか。


「つ、つまり男同士の付き合いというものだよ」


 そこで私の中の紅魔族のカンがビビっと反応する。


「男同士の付き合いなら、人が多い方が盛り上がるでしょ。だったら私たちのパーティーに顔を出した方が安上がりでいいでしょう?」

「それは名案ね。是非連れて来なさいよ。予算はそっち持ちだけど」


「!?」


 私とアクアの考えに、カズマが声にならない悲鳴を上げ、その場で残念そうにうなだれる。


 やっぱりか……。

 何を考えて動いてるのかは不明ですが、そんな反応からにロクなことじゃないんでしょ。


「まあまあ、どうどう。頑張ったカズマのために今夜は美人四人娘でお酌のお相手をしますから」


 私は大人な対応で、心底に落ち込んだカズマの肩を軽く叩いて元気づける。


「あのなあ、お前、俺が外泊しようとした意味分かっててやってんの?」


 カズマが困ったような顔をして、視線だけをこちらに合わせてくる。


「そんなの分かりませんよ。どこに行く予定だったんです?」

「どこって……知りもしないで」


 縦長な廊下で呆然と答えを待つ私からそっぽを向き、腕を組んで警戒するカズマ。


「喫茶店だよ。朝まで営業してる喫茶店だよ」

「喫茶店ですか?」


 アクセルの街で朝まで運営してる喫茶店って一軒だけだったはず。

 そこの店員さんは若くて露出の多い衣装を身に纏っているお店で……。


 私の脳内にモヤモヤと浮かんでくるメイド服兼、黒い紐ビキニのお姉さんたちの誘惑……。


「こ、この男は昨晩あんなことがあったのにも関わらず、何ともないような涼しげな顔をして……」

「うん? 何だよめぐみん」


 思わず、爆裂魔法をぶち当てたくもなるが、魔力切れで朝からカズマのおんぶタクシーの世話になりたくもない。


「目が血走ってるようだけど、何に対してエキサイトしてんだよ?」

「やっぱり昨日の夜のことに未練でもあるのか?」

「おいっ、ふざけてんのか、この男はあぁぁぁぁー!!」


 あまりのデリカシーの無さにとうとう私はブチ切れた。

 いくら親しい仲とは言っても、失礼にもほどがあるわあああー!

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