第245話 お姉さんのお陰で(1)

「あれは私が妹のこめっこぐらいの歳に起きた事件でした……」


 俺とめぐみんはベッドの上で向かい合い、彼女の話を聞いている。


 めぐみんの話による紅魔の里にあった邪神の封印のことについてだが……まだ小さくて真ん丸と昔から可愛かっためぐみんがオモチャで遊ぶような感覚で、その封印を解いてしまったことが発端らしい。


 突然出現した巨大な犬か猫か、そんなん考える暇はない凶暴な魔獣。

 力を封印される前のちょむすけがめぐみんに攻撃をくわえようとして……。


『エクスプロージョンー!!』


 その鬼気迫る状況で爆裂魔法でめぐみんを救ってくれたのが、黒いローブに身を包み、深くフードを被った能面なウォルバクだったとか。


 めぐみんにとって初の体験となった強力な爆裂魔法の威力は、まだ幼い子供の心を十分に刺激し、その瞬間からめぐみんは将来への道を決めたとか。


 こうして長い長い月日が過ぎて数年が経ち、めぐみんは爆裂魔法を覚え、一人前の炎の料理人ではなく、

紅魔族としての地位を手にしためぐみん大統領は、あの時に救ってくれたウォルバクにせめてものお礼を告げるために、

仲間から教えてもらった爆裂魔法が使用でき、一瞬で炭火焼きになるバーベキューすらもお手のものになったことを伝えるため、

ウォルバクを捜すために一人旅ぶらりに出た。


 だが、その行為がこのように裏目に出てしまったのだと……。


「──私は本当にどうしようもない女です」

「私を救ってくれた救世主を自らの手で跡形もなく倒してしまいました……」


 女の子座りでベッドの上に乗っためぐみんは心底つらそうな顔をしている。


 めぐみんが俯いて両拳をももに置き、元気のない表情を見せる中、うつが伝染された俺も腕を組んで思い悩んでいたが、これはいかんやつだと開き直り、少しばかり鼻で笑った。


「……なあ、俺がこの世界に来る前のニホンで引きこもりのニートという隠密部隊をしていたことは話したよな?」


 多少、誇張した言い方になるが、内容に偽りはないぜニンニン。


「はい。その黒蜜の話なら聞いた覚えがありますが、それと何が……?」


 めぐみんが不思議そうに自由甘味党なストレートな返しをしてくる。

 女の子だけあり、甘いものに目がない。


「俺は恩知らずという単語にだけは他の物事よりも負けない自信があるんだ」


 ──そう、親が将来の出世のためと学費の高い私立高に入学させてくれたんだが、俺はほとんど学校には通学しなかった。


 初めはちょっとしたサボり気分で学校を休んでいたんだ。

 そうして土日も徹夜してゲームやってたら、月曜日に起きれなくて眠くて嫌な気分になった。


 そんな理由で一日休むつもりだったのが、一ヶ月に一回の休みとなり、今度は毎週の月曜日に休むようになり、

その結果、いつの間にか学校に行かずに不登校になってしまった──。


 おい、筆者、俺とめぐみんとの背景に、俺の住んでた街の風景は映さんでいいから。

 トラクターに轢かれかけ、ショック死しても異世界楽しくやってます相手に余計なこと思い出させんなよ。


「──それでだな、親には学校に行ったと見せかけて、コンビニで昼飯買って、両親が勤務で留守になった頃合いを伺い、自宅に戻っては、部屋に閉じこもってゲーム廃人的な惨状を繰り返してな……」


 ひとさし指を立ててビックバンな大昔の話をしながら思う。

 何かサラリと言いつつも、ほんとにとんでもない生活してたんだな、俺ってば……。


「いや、こんな黒歴史なんてどうでもいいな。

つまり、俺がお前さんに言いたいことはだな……コホン」


 俺は軽く咳払いをし、両手をあぐらを組んでる膝の上に乗せる。


「お前自身は恩知らずと思ってはいるが、結果的にウォルバクの封印を解いたのはお前だよな?」

「そこでウォルバクの半身のちょむすけがお前を攻撃しようとした所を片割れのウォルバクに助けられて爆裂魔法の存在を教わっただと」

「それ世間ではマッチ売りのマッチョな少女ならぬ、マッチポンプって言うんだぜ」


 封印を解いた恩人でもあるお前の前に飛び込んできた半身の行動を潰す。

 それは生きるためには必要な行為だし、恩着せがましくすることもない。


「お前がそんなつまんねーことで悩むくらいなら……」

「親不孝者の俺はどんな面して親に会ったらいいんだよ」


 コイツは俺のような灰色の人生を送らないで何も知らずに幸せに生きてほしい。


「だからそうだな……恩知らずなレベルに例えれば、俺なんてレベルカンストみたいなもんでさ」

「日頃から悩むなんて表情にも出さないお前に落ち込まれた日なんて来たら、俺の存在なんて、ちっぽけなアリんこみたいな臆病虫になってだな……」


「ぷっ」


 今まで大人しかっためぐみんが急に吹き出し、手を口元に近付け、くすくすと笑い出す。

 俺はその態度に動きが固まった。


「お前さあ、ちょっとは共感しろよな。俺が打ち明けたダークファンタジーものの過去話まで披露して、お前を慰めるふんだんだったのに……」

「いえいえ、すみませんでした。でも……w」


 余程、ツボに入ったのか、体をよじらせ、笑いが止まることないめぐみん。


「そんなに駄目な息子さんを育ててきた親御さんも、さぞかし大変だったんだろうなとか」

「あと、えらく真剣な顔のわりには話の内容が慰めにすらなってないカズマがアホらしく見えてきてw」

「何だと、このオナゴー!!」


 めぐみんにとっては俺の人生論なんて三流芝居に見えていたらしい。

 俺は恥ずかしい気持ちで一杯だった……。

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